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四季編 9

 異世界で撮って帰った映像を奈津に編集してもらうため、彼女に携帯で連絡を取る。

 今は自室でくつろいでるよー、とのことだったので、「今からいくー」とだけ言って携帯を切り、転移魔法で彼女の自室に移動した。



「お、きたきた」

 彼女は驚くこともなく、私を迎えてくれる。うーん、あえて「魔法で」とは言わなかったのだけれど、彼女にはバレバレのようだった。



「はい、これ」

「おーう、任せとけーい」

 ビデオカメラを受け取った彼女は、早速ビデオを操作する。



「あ、そういえば、そっちはどうだったの?」

「それは明日、皆が集まった時にねー」

「ん、わかった」

 説明するのが面倒なのだろう。

 どうせならいっぺんに説明したいのは良くわかる。



「さて、どれどれ」

 奈津がそう言いながら、私の撮ってきた映像を見始める。



「……おお、色鮮やかな髪」

「だよね」

 感心したように言う彼女に、私も頷く。最初は感心したっけなー。ウィッグみたいな不自然な色じゃない、赤や青や銀に。



「自然豊かだし……あー、私も異世界行ってみたいなー」

「……ちなみに、どこの世界?」

「北方とか、魔法聖女ミラクルなのかとか、薄桜記とか、テイル・オブ・ジ・エビスとか、あ、ハンター&ハンターも…………いや、いやいや、違う、違うよ? トリップとか転生に憧れてるとか、そんなことないよ!?」

 いや、それってもう「憧れてます」って言ってるようなもんじゃないか。

 今度連れてってみようかな? 漫画やアニメの世界に入る魔法とか作って。それか、似た世界を探してもいいし。



 ま、それは四季のゲーム作りが終わってからだな。



「まあ、奈津の痛い願望はともかく」

「いやいやいや、ちょっと待って、だからそんな願望ないってば!」

「うん、そういうことにしておく。んで、」

「ちょ、ちが、違うんだってば!」

「話が進まないから黙れ」

「……はい」

 ドスを効かせた声で言えば、彼女はようやくその勢いを沈下させた。

 私は気を取り直して、彼女に再び編集を依頼する。



「じゃ、よろしくね? 尺が足りなければ、また何か撮ってくるし」

「うん、わかった」

「じゃ、私は帰るね。ばーい!」

「ばーい!」

 手を振り合いながら、私は呪文を口にする。

 ちなみに、レベルを地道に上げ続けているお陰で、すでに大抵の魔法は詠唱破棄できるようになっていた。つまりは、テレポートも無言で発動できる。

 なら、何でわざわざ呪文を口にしたかって?



「だって、その方がかっこいいじゃない!」

「帰ってきた途端に何を言ってるんじゃ、何を」

 珍しく部屋に居たフェンリルに突っ込まれる。私はてへ、と頬に指をあて、首を傾げておいた。



「気持ち悪いぞ、チハル」

「……私もやってて思った」

 まあ、それはそれでご愛嬌。



「あれ、クオくんは?」

「ああ、お前の母親に呼ばれたんで、下に行ったぞ」

「そうなの? じゃあ私も下に行こうかな」

「ん、ならわしも連れてけ」

 ぴょん、とフェンリルが肩に飛び乗ってくる。私はフェンリルが落ちないように片手で支えながら、部屋を出た。

 とんとん、と一定のリズムで階段を下りれば、クオくんが居間から顔を出す。



「えっと、チハル……さん、ちょうどよかった。今、呼びに行くところだったんです」

「あ、そうなの?」

 どことなく不自然なクオくんに、フェンリルと目を合わせてから、彼の後に続いて、居間に入る。すると、テーブルを囲んで座る両親が真剣な瞳でこちらを見ていた。



「……えっと、二人ともどうしたの?」

「まあ、とりあえず座んなさい」

 言われ、首を傾げながらも、椅子に腰掛ける。

 今度は父が口を開いた。



「千春、クオくんをうちの子にしようと思うんだ」

「はえ?」

 まさに、寝耳に水だった。

 あまりにも突然の言葉に、思わず絶句してしまう。



「千春もそのつもりで、連れてきたんでしょう?」

「えっと……まあ、いずれはそうなればいいなあ、とは思ってたけど」

 でも、あれから一週間なわけで。

 ちょっと早くない? と思ったり思わなかったり。

 そう悶々としていると、クオくんがぽつりと言った。



「チハルさんは……嫌ですか?」

「いっ、嫌じゃないよ嫌じゃ!」

 その言葉に、思わず彼の両手を握り締め、力説してしまう。

 それが、決め手だった。



「なら決まりね」

 母が、にっこりと笑う。



「戸籍は……出生届けの出されていないハーフの孤児、という名目で取得しましょう」

 母は機嫌良さそうに言って、ふんふん、と鼻歌を歌いながらキッチンに戻っていた。


 どうでもいいけど、ナチュラルに偽造だよね、それ。

 というか、それで取得できるものなのか、戸籍って?


 なんて考えてたら、クオくんが私の手をぎゅっと握って、こちらを見つめてくる。



「……あの、その……これからも、よろしくおねがいします。チハル……お姉ちゃん?」

「……ッッ!」

 思わず抱き締めました。ええ、抱き締めましたとも。

 こうして私の家族は今日、一人増えたのです。


 あ、私がクオくんを抱き締めた弾みで吹き飛ばされたフェンリルは、憤慨した様子で、ぽふんぽふんと飛び跳ねてました。……父の頭の上で。

 シュールな光景に思わず笑ってしまったのは、ちょっと父に申し訳なかったかも。







 次の日。

 私の家に皆集まり、昨日の首尾を確認しあう。その場にはクオくんと、フェンリルもいた。



「じゃあまずは千春からお願い」

 四季のまとめ役である冬香が、そんな風に司会を務める。



「えっと、昨日は言っていたとおり、あんまり仕事してないです、ごめんね? あ、撮ってきた映像はもう奈津に渡して引き継いであります。えっと、あとは……クオくんが正真正銘、私の家族になりました」

「ええ!?」

 私の言葉に、奈津が大声を上げる。



「あんた、ショタに手を出したの!?」

 思わず奈津に手が出たのは、私悪くないと思う。



「……奈津は置いておいて。クオくん、おめでとう。千春がお姉ちゃんだと、騒がしいと思うけど、でも、それ以上に楽しいと思うわ」

「はい!」

 冬香の言葉に、クオくんが満面の笑顔で呼応する。

 亜紀も、微笑ましそうに彼を見ていた。

 奈津は思い切りはたかれた頭が痛いのか、頭を抱えて蹲っていた。



 閑話休題。



「じゃあ、話を戻して。次は奈津お願いね」

 早々に復活してしまった奈津に、冬香が話を振る。



「はいはーい。えっと、とりあえずテスターの募集は15人まで絞ったよ。選んだ人たちにはメールを返して、その内、7人は返事が返ってきてます。あと8人は返事待ちで、一週間以内に返事がなかった場合は、キャンセルとします、って書いといた。サイトの方もそんな風に更新済み。あ、ちいの撮ってきた映像は編集してみたので、あとで一緒に見ようね。報告は以上でーす」

「奈津、ご苦労様」

 奈津の言葉に冬香はそう返して、今度は亜紀に話を振る。



「亜紀、私たちの方の報告をお願いしてもいい?」

「あ、うん。えっと、VR会場とその待合室用に、公民館の二部屋を借りました。でも、VR会場の方は、見てきたら予想以上に狭かったです。会議室だから、机と椅子が並んでたせいもあるとは思うけど……」

 その言葉に、そっかあ、と肩を落とす。ま、公民館ってそんなもんだよね。



「あと、奈っちゃんにはもう伝えてあるけど、日時は三週間後の土曜日、12時から夕方5時までです。あ、中の写真も一応撮ってきてるので、見たかったら言ってね。以上です」

「ありがと、亜紀」

「えへへ」

 亜紀は照れたように笑って、頭を掻いた。



「と、いうわけで」

 冬香はそう言って、自身に注目を集める。



「今日の議題は3つね。1つ目は、当日どういう流れで偽装VRを試してもらうか。2つ目は、部屋の狭さにどう対処するか。3つ目はちょっと話が早いんだけど、今回のテストが終わった後はどうするのか、ね」

 冬香は、リーダーらしくそう纏めた。

 少し考えてから、私は手を上げる。



「部屋の狭さについては、公民館の室内のように偽装した場所を作って、そこに転移させればいいと思う」

「出来そうなの?」

「異世界にそういう場所を作るのは簡単、だと思う。ただ、そこに誘導する方法とか、違和感を持たれない方法はちょっと思いつかないかな……」

 外から見た広さと、作った場所の広さがあまりにも違う場合、どう考えても疑問を持たれるだろうし。

 うーん、と唸っていると、亜紀が言う。



「なら、部屋を暗室みたいな風にして、2~3人ずつ案内したらどうかな? そしたら広さとかもわからないよ……たぶんだけど。暗さの理由は、VRに必要ってことにしてさ」

 亜紀の言葉に、それでいいんじゃないかな、と呟く。奈津と冬香も私に同意するように頷いた。



「なら、とりあえずはその方向で行きましょう。じゃあ次は……」

 冬香が中心となって、話は進んでいく。

 そうして、全て話し終えたのは、1時間半ほど後だった。



「なら、こんな感じでいいかしら?」

「異議なーし」

「私もー」

「いいと思うな」

「僕も楽しみになってきました……!」

「……わしも手伝う羽目になるとは。書の守護獣になんということをさせるつもりじゃ……ぶつぶつ」

 五者五様の言葉に、冬香は満足そうに頷く。



「じゃあ、みんな、頑張りましょう」

 その、やる気を鼓舞する言葉に、みんなは笑顔で頷くのだった。

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