四季編 5
この小説に登場する諸々は、実在の人物や企業・団体とは関係ありません!
と、一応注意らしきものを書いておきます。
これから先の話には注意書きなど書きませんので、自己補完よろしくお願いします。
放課後、奈津の家に集まった私たちは、まず、奈津が作ったという私たちのホームページを見る。すっきりとした見やすいページで、さすが奈津、と三人で感心した。
ページには、『四季』の簡単な紹介文や、VRシステムの説明などが書いてあった。
ただ、VRシステムの説明は、当然ながらまるっきり嘘だ。特殊な脳波を利用とか良く判らないことを書いてある。
「……何これ、奈津?」
「ウィキペとかから適当にコピペしてきた。いいでしょ? 魔法って知られるわけにはいかないんだから、それらしいこと書いておこうよ」
「……冬香的にはどう思う?」
実は学者の娘である彼女に聞いてみる。ちなみに学者なのは父親で、母親は医者だったはずだ。
物凄くハイブリッドな遺伝子を持つ彼女だが、そのことで昔色々とあったらしく、今では境遇そのものについて滅多に口にすることはない。
ただ、相談ごとをよく彼女に持ちかけたりはするが。
「いいんじゃないかしら? 具体的な単語は何一つとして書いてないもの」
「……ま、冬香が言うならいっか」
「え、ちい酷い……私の言葉は信じてくれないなんてッ!」
泣き真似を始めた彼女を放置し、私は亜紀に視線を向ける。
「ねえ、亜紀。あと必要なページって何かな?」
「うーん……私たちそれぞれの説明とかあっても面白いんじゃないかな?」
「……おーい、私は放置ですかー」
「勿論」
奈津にへこまれました。
適当に彼女を宥めてから、ひとりひとりの説明を皆で考えてみる。
10分ほど相談した結果、こんな紹介文が出来上がった。
『○HARU
・システム全般担当
・自称 魔法使い
・暴走特急な四季の言いだしっぺ
○NATU
・イラストおよび広報担当
・自称 電波塔
・一番の苦労人で被害者
○AKI
・ゲームプランナーおよび癒し系担当
・自称 縁の下の力持ち?
・影の支配者
○FUYU
・ゲーム調整および四季のリーダー
・自称 四季のまとめ役
・彼女には誰も逆らえない!』
一段目が簡単な役割説明、二段目が自己紹介文、三段目が三人からの紹介文だ。
「暴走特急か……間違ってないけど」
「苦労人とか被害者だとか思うなら、みんな労わってよ……」
「ねえ、この影の支配者って何……?」
「……誰も逆らえない、ねえ?」
各々思うところはあるようだったが、話し合いが終わらないのでこれで決定。
奈津には、後でそれぞれのイラストを描いてもらうことにして、次はマジックアイテムのチェックだ。
例のカバンから、亜空間に四人でもぐりこむ。
そこで、あらかじめ亜空間にしまっておいたブレスレットを拾い、三人に渡す。
それぞれダイヤのつもりで作った宝石が埋まっており、奈津のはグリーン、亜紀のはイエロー、冬香のはブルーだ。
ちなみに私はピンクで、しかもペンダントだったりする。ブレスレットは魔法ノ書で間に合っているので、形を変えてみた。
「えっと、まずはそのブレスレットをつけて、自分のなりたい姿を想像しながら、“チェンジ”って言ってみて?」
本当はメタモルなんちゃらとか、ムーンクリスタルなんちゃらとか、テクマクなんちゃらとか、魔法少女っぽい呪文にしようかと思ったが、流石にやめておいた。
私の言葉に、まず反応したのは奈津だ。目を瞑り、真剣な表情で黙り込む。
そんな彼女を、私たちもまた、黙って見守った。
「じゃあ、行くね? ……『チェンジ』!」
一瞬、奈津の姿がぼやけたかと思うと、次の瞬間には彼女の姿が変わっていた。
褐色の肌に、髪は赤。瞳は金色で、眼鏡は消失している。服は、まるでどこぞのアマゾネスのような、とても露出の多い恰好だ。胸も非常に盛られている。顔立ちは奈津のもののままだが、ガラリとその印象は変化していた。
「……おお! 超アマゾネス!」
その場でくるくると回り、自分の恰好を確認する奈津。どうやら満足の行く出来だったらしい。
「次からはその姿で固定されるから、思い浮かべなくても大丈夫だよ」
「はいよー」
体をしきりに動かし、奈津は感心する。亜紀や冬香も、どことなく輝いた目で彼女を見ていた。
「じゃあ次は私だね!」
そわそわとした亜紀が、想像する間を置くこともなくチェンジと唱えると、四枚の透き通った羽を生やした、まるで妖精のような姿に変化した。ただし大きさはそのままなので、妖精というよりは大妖精かもしれない。
服は白のロングドレスで、髪と瞳は赤茶色。その長さは腰下までで、二つにまとめてある。顔つきも、いつもの亜紀とは少し違う、おっとりとした可愛い系の美人になっていた。
「さすが亜紀、凄い……」
「いっつも小説とか見てるから、想像力だけはあるんだよ?」
照れたように笑う彼女。熟考する間もなく、ここまで姿を変貌させるとは。
「でも、小さくなるように、って想像したんだけど、変わってないね? ……やっぱり姿を変えるだけかあ」
「うん、掌サイズになるのも試してみたんだけど、慣れるまで感覚に違和感が出ちゃうし、危ないからやめたんだ。胸を大きくしたりは出来るんだけどね?」
私の説明に納得したのか、亜紀は残念そうにそっかあ、と息を吐く。この辺りもどうにかして改善したいが、今はとりあえず置いておく。
「最後は私ね。……そういえば千春はどんな姿にしたの?」
「あ、そういえばまだ教えてなかったね」
忘れてた、と頭を掻く。見たいと全員に言われたので、私も彼女たちと同じように姿を変えた。
肩までの緑の髪に濃緑の瞳。まるで民族衣装のようなワンピース姿に、ロングブーツ。顔はルナさんを参考にしたので、超美麗だったりする。そして極めつけは、尖った耳。
「ちょ、美人すぎてびっくりした……」
「……あ、もしかして、エルフ?」
亜紀の言葉に、笑顔とピースで応える。やっぱりファンタジーと言えば、エルフだと思う。独断と偏見だけど。
「エルフにアマゾネスに妖精……ね」
冬香は小さく指を当てて考える。しばらく悩んでいたようだったが、やがて動きを見せた。
「じゃあ、私はこれね……」
そして彼女の変身した姿は、何と言っていいのかわからない姿だった。髪は首元で切りそろえられた薄い青で、目もそれに近い色。肌は白く、服装は黒のボディスーツ? それはぴっちりと彼女の魅惑のボディラインを浮き上がらせ、どこか近未来的な印象を与えている。彼女の頬や腕には、電子的な模様が描かれていた。
これは……機械人形、といえばいいのだろうか? それとも、サイボーグ?
冬香の予想外の姿に、思わず、じっと彼女を凝視してしまう。
「えっと……サイボーグ、でいいのかな?」
「どちらかというと、アンドロイドかしらね」
私たち三人はファンタジーなのに、彼女だけすごくSFだ。
「エルフに、アマゾネスに、妖精に、アンドロイド……。ゲームのストーリー、どういうのにすればいいのかな。普通にファンタジー……?」
亜紀が、ぽつりと呟く。
私は聞こえなかったフリをしておいた。是非とも頑張ってください。
「……えっと、みんな姿を変えるのも終えたことだし、とりあえず次の説明に移るね?」
三人が頷いたのを確認してから、胸元からペンダントを引っ張り出す。
「えっと、みんなに配ったのには自動防御の魔法がかけられてるの。それの残量をHPの代わりにしようと思ってるんだ。魔法の残量が減ると、どうにかしてそれを教えるようにしてさ」
ちなみに自動防護の魔法は、害意ではなく、“自分に対する攻撃全て”に反応するように魔法を弄った。これで、遊び感覚のPKにも対応出来るはずだ。
「ちなみに私のは、HPが減ると麻痺の魔法がかかるようになってるんだ。それならプレイヤーも感覚でわかるかなって。……奈津、ちょっと私に攻撃魔法を使ってくれる? 奈津のブレスレットの中にはフレイムが入ってるから」
「あ、わかった」
彼女達から離れ、奈津の魔法を待つ。昨日テストを繰り返したのだから、大丈夫だとはわかっていても、やはり恐いものは恐い。
私は逃げ出さないよう、ぐっと目を瞑った。
彼女の呪文が聞こえた。そしてすぐ近くで響く、耳が痛いほどの爆発音。同時に自動防御が発動する感覚。それに伴い四肢がぴりぴりと痺れ、重くなっていく。これで、魔法の残りは3分の1ってところかな。
「……ちい、大丈夫?」
「うーん、やっぱり麻痺じゃちょっときついかも。……『水よ、その清廉なる身で我を浄化せよ』」
自分で自分に魔法をかけ、麻痺状態を解除する。
動けなくなるわけじゃないけど、かなり体が重くなる。魔法使いはともかく、剣士や前衛キャラにはキツイ制約かも。
もうちょっとペナルティを軽くした方がいいかもしれない。体力が減れば減るほど窮地に陥るなんて……いや、現実的には間違ってはいないんだけど、ゲーム的ではないような。痛みが無いからゲーム的といえばそうなんだけど……うーん。
これは、彼女達にも試してもらってから決めよう。
「奈津、もう一回魔法お願い? ゲームオーバー時の説明をするから」
「ん、はいよ」
もう一度、彼女の魔法を受ける。爆発の威力に耐えられず自動防御が切れた瞬間、私は即座に彼女達の後ろに転移していた。
自分の姿を確認し、どこも焦げていないことを確認する。どうやらしっかりとテレポートはその役目を果たしたようだ。
私を探しきょろきょろとする彼女達に、後ろから声をかける。
「HPがなくなった瞬間、テレポートである地帯まで転移するようになってるんだよね」
「わっ、びっくりした」
奈津が声を上げ、こちらを振り向く。亜紀と冬香は声こそ上げなかったが、肩を揺らしながら振り返った。
「ねえ、安全的にどう思う?」
そうやって問えば、三人がそれぞれ真剣な面持ちで黙りこくる。考えてくれているらしい。
少しして、奈津が眉を潜めながら口を開いた。
「ねえ、ちい? 空とか飛べるようにするの?」
「ん、すると思う。いかにも魔法らしいしね」
「それでさ、もし空から落ちた時とかは、自動防御って発動するの?」
「あー……」
それは考えていなかった。確かに今の仕様だと、そういう事故には全く効果を為さない。
「それに、亜空間の中ならいいけど、水のある場所とかだと、溺れるかもしれないよね」
「あと、土砂崩れとか、そういう災害にも対応できないわね」
それぞれに問題点を指摘され、思わず「あー」と唸る。やっぱりクオくんと二人で考えただけじゃ、色々と穴があるようだ。
「みんな、ありがとう。言ってくれなきゃ気付かなかったよ」
「いやいや、それが私たちの役目だしね」
「あとで、三人の意見を纏めて、千春にメールで送るわね」
「ん、ありがと、冬香」
“装備者に危険が迫った時に発動”みたいに、魔法を調整してみよう。実は調整って結構難しいんだけど、そこは何とかしなくちゃ。
安全でなければ、最早それはゲームではないと思うから。デスゲームとか笑えないじゃん。
「……よし、そこは後で考えてみるね。……あ、そうだ。ねえ、奈津」
「ん、何?」
「どうやってユーザって呼び込もうか?」
「え? ……あー、どうしよっか?」
彼女も、今気付いたのだろう。真顔で、うーんと考え込む。俯きながら何やら唸り声を上げていたかと思うと、はっと顔を上げた。
「ねえ? 例えば、ミコミコとかに動画をアップロードするとかどう?」
「……ああ!」
その提案に、思わずぽん、と手を合わせてしまう。それは面白い提案だった。
「ミコミコって……えっと、動画サイトだよね?」
「確か、コメントを付けられる、のよね?」
「そうそう」
あまりネットをしないはずの亜紀や冬香まで知っているとは。ミコミコは存外に有名らしい。
ミコミコ動画、通称ミコミコ。コメントの付けられる動画投稿サービスとして一斉を風靡した(している?)サイトだ。
「……最初は“現実そっくりなCGを作ったよ”とかにしておくでしょ? この世界で私たちが自由自在に飛んだり、魔法を使ったりする映像を投稿するの。で、そこから、“それを利用したゲームを鋭意製作中です”とか言っておいて、そこからテスター募集に話を広げていく。……募集条件は“ファンタジーに憧れている人”で!」
「……うん。それで上手く行くかどうかはわかんないけど、いいかもね!」
彼女の言葉に同意する。
段々と形作られていく計画に、心臓の鼓動が速くなっていく。
これから先どうなるかはわからない。
けど、皆にもこの楽しさを体感してほしい、と心から思った。
「……ならさ、早速撮影しようよ? 何事も、早いほうがいいでしょう?」
亜紀の言葉に、皆が同意する。
奈津が、ちょっとカメラ取って来る、と亜空間から抜け出していった。