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異世界編 17



(城で暴動が起きておる!)


「うぇええええっ!?」



 その言葉は、私にとって予想だにしないことで。思わず、裏返った声が喉から漏れる。

 そんな私の奇声に、二人が何事かと言った様子で振り返る。彼女らの視線が突き刺さり、私は説明しようと口を開いた。

 が、なんと言って良いのかわからず、口はパクパクと仰ぐばかり。

 そんな私の所作を、不可解に思ったのだろう。ルナさんが問いかけてきた。



「チハル……何か、あったのか?」

「えっと! その! し、城で、暴動だって……!」

 その言葉に、グレイさんは「何を言っているんだコイツは?」という顔をしたが、ルナさんはすぐに真剣な顔になって、問い返してくる。



「どういうことだ!?」

「わっ、私、クオくんとどこに居ても連絡が取れるようになってるんです! 魔法で! それで、今いきなりっ!」

 我ながら、全く説明になっていない説明だったが、二人はどうにか察してくれたようだった。

 真剣な表情で、二人は顔を見合わせる。



「チハル、クオに詳しいことを聞いてくれるか?」

「あ、はい!」

 二人が何やら相談する傍ら、私はフェンリルに心話を送る。



(フェンリル、一体どういうこと!?)

(わしが知るか! じゃが、さっきから悲鳴が止まん!)

(そうだ、クオくんは!? クオくんは無事!?)

(様子がおかしくなってすぐ、部屋にあるクローゼットの中に隠れたから無事じゃわい)

 その情報に、私は顔に出さずに安堵する。

 私にとっての最悪の事態は免れそうだ。



(そっか、良かった……他に何か情報は?)

(そうじゃな……兵士が同士討ちしておるということと……あとは、王子、とか、王が、とか聞こえたかの)

(王子……?)

 ふと、記憶がフラッシュバックする。

 城を出る前、ルナさんに見せてもらった紙。

 今回の制圧任務で、王都が担当だった王子が居たはず。

 確か、第三王子、だっただろうか。



(……王族が人質になってるってこと?)

(どうじゃろな、詳しいことはわからん)

 フェンリルの言葉に、そう、と唸る。

 不意に、疑問が脳裏を過ぎった。

 ちょっと待って。このタイミングにこの事件って、つまりこの作戦のことが外に漏れていたってこと?



「チハル、何かわかったか?」

「えっと、兵士の同士討ちが起きている、みたいです。……ルナさん、この作戦が外に漏れることってありますか?」

「ふむ……無いとは言えないが、一応極秘に進められて来たことだ。最低限の人間しか関わっていないからな……」

「一部って、どの辺りですか?」

「王族と、その王族に遣える騎士、国の宰相、そして諜報部……辺りか」

 彼女の言葉に、疑惑が深まる。

 私は、小さな声で彼女に問いかけた。



「……この作戦、王都って第三王子が担当……でしたよね?」

「そうだ、が……まさか!?」

 私の控えめな言葉に、ルナさんが目を見開く。

 一方のグレイさんは表情を歪め、私に詰め寄ってくる。



「リークフェイル様が、関わっているとでも言いたいのか……!」

「グレイ、落ち着け……!」

 危うく掴みかかられそうになったところを、ルナさんが制す。

 グレイさんはぐっと押し留まったが、その眼光は鋭いままだ。



「……とりあえず、ヴィトさんたちと合流しましょう」

 これ以上情報がない今、押し問答は無駄なだけだ。険悪な空気の中、私がそう提案すると、ルナさんが頷いて同意した。即座に銀貨を取り出し、ヴィトさんに呼びかける。



「聞こえるか、ヴィト」

『……ルナフィリア様、どうされました?』

「作戦は中止、すぐに宿の前に集合だ。わかったな?」

『はっ、はい、了解しました!』

 それだけ言って、銀貨は沈黙する。

 私たちも重い雰囲気の中、今まで来た道を無言で走った。



(フェンリル、何かあったら、すぐに教えて)

(わかったわい)

 フェンリルの了承の声を聞いた私は、思考を変える。


 先程は、王子が中心となって事を起こしている、だなんて思ってしまったけれど、それは突拍子もない考えだったと少し反省する。

 だって普通なら、反乱組織の人間たちによるものだと思うのが当たり前だから。


 でも、今回の主謀者がその王子だと考えると、いろいろなことに説明がつくのだ。

 結界石が壊されていたこと。

 これは、王族である第三王子なら簡単にその場所に入れるだろう。

 組織の潜伏先を潰すという、今回の作戦。

 思い出してみれば、王都から遠い場所から順に、人員の割り当てられた数が多かった……と思う。規模の順だと言われたが、普通、王に敵対心を持つ者が潜伏するのなら、王都に近い場所じゃないだろうか?

 それに、諜報からの情報が的確すぎたこと。

 その組織が魔物を操り、しかもそのマジックアイテムが本の形だなんて、一体どこから漏れたというのか。敢えて情報を流し、この事件の重要度を上げているとしか思えない。


 ……これらは、ただの妄想だ。

 だが、余りにも状況が符合している気がして。



「ルナさん」

「何だ」

 走りながら、私はルナさんに問いかける。



「第三王子がこの事件を起こす可能性は少しでも“有り”ですか、それとも全く“無し”ですか?」

「まだ言うか!」

 グレイさんは怒号を響かすが、ルナさんは冷静だった。



「どちらかと言われてしまうと……有り、だな」

「ルナフィリア様!?」

「そう、ですか……」

 ルナさんの言葉に、やはりそうなのか、と思う。


 つまり、今回のは、第三王子の反乱? 謀反? まあ、何て言うかは良くわからないけれど、そういうことなのではないだろうか。

 理由は知ったことではないが、それを起こす理由が、皆無ではないのだ。しかもルナさんが言うのだから、それは確かなのだろう。

 一体、どこまで第三王子が掌握しているか知らないが、諜報部は既に手の内と考えていい。そして兵士が同士討ちしていた、ということは、兵士の中にも彼の派閥の者がいる、ということだ。


 何だか、いきなり話が大事になってきたように思って、私はこっそりと溜息を吐いた。







 私達が宿の前に辿りついた時、既にヴィトさんたちはそこに居た。何が起こっているのか理解していない、という顔で、走ってきた私達を迎える。

 そして息も整わぬ内に、ヴィトさんが問いかけてきた。



「ルナフィリア様、どうなされたんですか?」

「……王都で反乱が起こったらしい」

「……えっ?」

 ヴィトさんも、アルバートさんも、鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。一瞬でその言葉を反芻し、ようやく意味を理解したのだろう。すぐに真剣な顔をする。



「すぐに馬車で王都に戻りましょう」

「ああ」

「……ちょっと待ってください」

 動き出そうとしたヴィトさんを、引き止める。こうなったらテレポートの魔法も隠していられない。私は一刻も早く、クオくんの無事を確認したかった。



「……今すぐ、王都に戻る魔法があります」

 その言葉に、やはり全員が絶句した。ルナさんが珍しく声を荒げる。



「何故それを早く言わない!」

「……こんな魔法、普通おいそれと言えません。それに、どこにでも自由に移動できるわけじゃないんです」

 敢えて冷静に伝えると、ルナさんは少しだけ落ち着いてくれたようだった。



「……どこになら移動できる?」

「クオくんがいる場所……だから、恐らく客室のどこかだと」

「それでいい、魔法を頼む。アルバートはここに残って、地下に居た人物の洗い出しをしておいてほしい。……転がしてきてしまったからな」

「わかりました」

 ルナさんの言葉にアルバートさんが頷き、すぐに走ってどこかに向かった。

 恐らく、仲間のところに向かい応援を頼んだか、もしくは例の水晶を取りに行ったのだろう。

 一緒に行かないのか、と少し後ろ髪引かれた気持ちになったが、そんなことに思考を割いている暇はない。



「……ここだと目立ちますから、宿の中に入りましょう。帰りのための目印も、置いておきたいですし」

「そうだな」

 五人で急いで移動する最中、心話でフェンリルに伝えた。



(フェンリル、転移用の銀貨を置いてくれる? 5人分のスペースがある場所に)

(わかった、ちょっと待っておれ)

 それを聞いた私は、銀貨を一枚取り出し、魔力を込めた。これをこの街に置いておけば、すぐにこの街に戻ってこれる。そもそも馬車で半日の距離だけど。

 宿の入り口から一番近かったのはルナさんの部屋。緊急事態だからか、グレイさんは特に何も反応しなかった。部屋に入った私は、床に銀貨を置き、よし、と呟く。



「じゃあ、魔法、行きます」

 五人に意識を向け、集中する。



「『踏み入れしは、次元の裂け目。我が願うは、愛しき姿』!」

 一人の時には感じなかった、僅かな抵抗感を覚える。元々、次元の小さな歪みを利用している魔法なので、5人にもなると違和感が強くなってしまうのだろう。

 が、それも一瞬。

 目をあけた時には、景色が一変していた。



「……着いた、のか?」

 唖然とした様子の皆を放り、私はクオくんを呼ぶ。すると、部屋の隅にあったクローゼットから、がちゃりと音がして、彼が恐る恐ると言った様相で出てきた。



「クオくん!」

「チハルさん!」

 クオくんが、恐怖に歪ませていた顔をホッと緩め、抱きついてきた。私はそれを受け止める。余程心細かったのだろう、私の服が酷く皺になっていたが、彼のするがままにさせていた。



「……チハル、いいか?」

「あ、はい」

 ルナさんの声に、クオくんがびくりと肩を震わせ、弾かれたように私から離れる。

 恐らく、私以外の人がいることに気付いていなかったのだろう。

 すぐに俯いて顔を隠していたが、頬がほんのり赤くなっているのが見えた。



「私たちは今から情報を得るため、父上の私室へ向かおうと思う。が、ここには隠し通路がない。だから、無理矢理突っ切ろうと思う。私たちに、チハルもついてきてくれないか? お前の魔法があれば、助かるんだが……」

「いいですけど、条件が一つ」

「なんだ?」

「クオくんも連れて行きます」

 私の言葉に、グレイさんの表情に明らかな憤慨が混じる。足手まといを連れて行きたくない、そう思っているに違いなかった。

 でも、これだけは、譲れない。

 だって、ここが絶対安全とは言えない。それだったら、私と共に来た方が、きっと彼には安全だろう。

 クオくんは険悪な空気を察し、口を開こうとする。恐らく、自ら辞退しようとしたのだろうが、私はそれを手で制した。



「もしクオくんをここに一人置いていって、万が一何かあったら……私は悔やんでも悔やみきれません。いいですよね?」

「ああ、勿論だ。連れて行こう」

 私の気持ちを察してくれたのか、それとも最初からそのつもりだったのか、ルナさんは当然だと言わんばかりの表情で頷く。ヴィトさんは僅かに眉を潜めてはいたが、仕方がない、という表情だった。

 グレイさんはルナさんの頷きに一瞬口を開きかけるが、すぐにぐっと留まる。ルナさんラブの彼だ。彼女の決定に異は挟めないのだろう。



「……皆、行くぞ! 最短距離を突っ切る!」

 彼女の言葉に、私たちは各々了解の言葉を送る。



「クオはチハルのそばを離れるなよ!」

「はっ、はいっ!」

 私たちは、勢いよく部屋を飛び出した。

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