第5話 ルディフィスの失態(ざまぁ回です)
◆王国歴334年9月7日午前10時過ぎ(次期伯爵決定当日)ーリエフェンド家の屋敷の前の広場にて
「そこまでするのですね。もうあなたを守ることはできません」
「守ってもらう必要などないのです。これからは私が守って差し上げますよ。元伯爵として……くっくっく……あ~はっはっはっは」
この状況ではさすがにメリオノーラの護衛と言えども動けない。
明らかに酷い行動だが、伯爵家の親族同士の争いであり、彼らにはルディフィスへの攻撃許可は出ていない。
心情的には誰もがメリオノーラの味方だが、動けなかった。
「さぁ、どうぞ私に伯爵位をお譲りください。そうすればお母上と一緒に離宮にご招待しますよ。もちろん義兄上もね……くっくっく」
「その前にあなたを伯爵家から追放します」
「なに?」
そんな中、メリオノーラは持ち前の冷静さをなんと取り戻したようだ。
「"契約の碑石"よ!次期伯爵となった私、メリオノーラは、弟ルディフィスを……」
「危ない!」
シャキーン!!!
ルディフィスの剣をマリウスが弾く。
「もしそんなことをしてみろ。お前の母は帰ってこないぞ?それに、まだ正式に就任していないお前にそんなことが……」
「光の刃よ!敵を切り裂け!!シャイニングストライク!!!」
「ぐぉ……貴様!!!」
メリオノーラの魔法がルディフィスを襲う。
ルディフィスは咄嗟に剣を掲げたが、完全には防げず、傷をおっていた。
「許さん……許さんぞ!!」
「騎士たちよ!あれはもう弟ではありません。リエフェンド家の……伯爵家の敵です!」
「「おぉ!」」
もともと家中にはメリオノーラの味方しかいなかった。
敵となったルディフィスを捉えるべく騎士たちが動き出した。
「失敗したようだのぅ……」
ルディフィスの隣に立っていた人物が呟く。
そして彼らは剣を抜き、騎士たちからルディフィスを守り、騎士を後退させる。
「貴様らふざけるなよ!もうエメリの命はないと思え!」
「あなたこそふざけないでください。お母様を返せば、今日のことは忘れてあげます」
もうメリオノーラは退かない。
彼女の中で、ルディフィスはれっきとした敵となったようだ。
「ルディフィス……」
「母上」
このタイミングでルディフィスに声をかけた前伯爵の妻の1人であり、ルディフィスの母であるルーナに騎士団が動きを止める。
ルディフィスも、メリオノーラでさえも。
いや、メリオノーラは目を閉じて何やらぶつぶつ言ってる……。
「さすがにこの行動は認められません」
「なんだって?」
「もうあなたを子とは思いません」
そして放たれたのは絶縁宣言だった。
ラーズバドル伯爵家出身のルーナとしては、血のつながった息子のバカげた行動によって、自らや、甥や姪に迷惑をかけることを嫌ったのだろう。
ルディフィスは暴走しているが、本来"契約の碑石"によって貴族たちの言動は記録されている。
こんなバカげた簒奪をしてただで済むわけはないのだ。
今回のことで言えば、メリオノーラが就任即退任すればもう一度次期伯爵選定の儀を行うことになるが、現在メリオノーラとルディフィスしか候補がいないリエフェンド伯爵家の当主になるのはルディフィスとなるだろう。
しかし、それに協力した場合、協力した貴族たちは実家での継承で不利になるのだ。
こんな簒奪に加担することは明確に悪であるからだ。
だから、実家のことを考えてルーナは絶縁を宣言した。
"契約の碑石"の前で。
「どいつもこいつもバカばっかりだな。俺が伯爵になれば協力者には当然報いるのに」
それがいらないと思うからこうして絶縁しているのであるが……。
「まぁいい。おい、お前!エメリを殺すよう、連絡しろ!」
「はっ……」
ルディフィスは部下に指示を出す。
「光の玉よ!敵を貫け!!シューティング・レイ!!!!」
ドゴーーーン
「「「ぐあぁああ」」」
メリオノーラの詠唱によって、無数の光の玉がルディフィス達を襲い、連れてきたものたちの一部が倒れる。
「マジックガード!」
シュィーーーン
しかし、対応した者もいた。
魔法による奇襲で倒しきれなかったメリオノーラは動きを止めた。
次期伯爵決定の儀を見届けに来た領民たちがいるこの場でこれ以上の戦闘を開始するのは危険だったからだろう。
グラグラグラグラ
「なっ、なんだ?」
突然地面が揺れ始めたことに焦るルディフィス。
それは彼の姉による強力な魔法の行使に伴うものだった。
「強き光よ!闇を切り裂け!アルダーシャイン!!!」
ドッカーーーーン!!!!!!
「バカな……くそっ」
手下を全員やられたルディフィスは広場から逃げる。
「待て!」
それを追うマリウス。
ルディフィスは攫ったエメリを捉えている地下に降りた。
マリウスはそれを追うが、地下は広く、また迷宮のように入り組んでいるため、ルディフィスを見失ってしまった。
◆王国歴334年9月7日午前11時(次期伯爵決定当日)ーリエフェンド家の地下
ピチャン……ピチャン……
「……誰だ?」
言葉を発したのは黒服の男……。
ピチャン……ピチャン……
「……んー」
言葉を発したのは手を縛られた女性……メリオノーラの母であるエメリだ。
「黙れ!……おいっ、誰だ!?」
ピチャン……ピチャン……
「スティール……」
「ぐぅ……」
スパーン!!!
クレストは黒服の男にスティールをかけ、うずくまったところを斬り捨てる。
「てめぇ……なんで生きてやがる……」
「エメリ様。遅くなって申し訳ございません。魔法騎士団のクレストです」
そして、クレストはエメリの拘束を解いていると……
ガン!!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……くそがっ、早く開けろ!」
ガン!!!ガン!!!バター―ン!!!
「貴様!?」
キィ―ン!
逃げてきたルディフィスが入ってきてクレストに気付き、斬りかかった。
クレストは剣で受け止めるが、後退してしまった。
「ルディフィス!あなたは何をしているのです?」
「どいつもこいつも邪魔しやがって!くそっ!!」
「きゃあぁ!?!?」
「……カッター……」
「なっ……」
……バタリ
ルディフィスは死んだ。
エメリを救おうとしたクレストの魔法によって。
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