第2話 愚弟の陰謀を探るクレスト
◆王国歴327年8月30日昼(次期伯爵決定まであと8日)
命令を受けたクレストは即座に行動を開始する。
今しがた魔法騎士団が捉えた不審者から淡々と情報を取得する。
「スティール」
「うごぉ……」
そして取得した情報をメモしていく。
<ゴルト、43歳、この街の北にある村の出身、独身、子どもなし……。>
<冒険者となったが鳴かず飛ばず……年齢を経て暗殺や窃盗、誘拐などの依頼を裏で受けるようになった……。>
<今回はメリオノーラ様周辺の調査を依頼されている。依頼主は不明。>
当然ながら核心的な情報は掴めない。
<依頼された場所はレームラーの居酒屋……>
とりあえずそこに行ってみるかと考え、クレストはそこへ向かった。
「いらっしゃい。うちは夜からだよ……って騎士さんかよ。うちになにか?」
「クロノス……」
ーーーーーーーーーーーークロノス発動中ーーーーーーーーーーーー
『メリオノーラの周辺を探れだと?』
『そうだ。難しいことではないだろう?』
特徴のない中年の男がゴルドに依頼を持ち掛けたようだ。
『今さらなんなんだ?まぁ、……』
『それで……』
男はゴルドの前に金の入った袋を置いた。
『わかった』
それをチラッと確認したゴルドは即答した。
『なにかわかったらまたここで』
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おそらくこの男はゴルドを泳がせ、見張ってでもいたのだろう。
「おいアンタ?なんなんだよ?」
押し入ってきた割に何も言わず、動きもしないクレストを不審に思った店主がいら立ちをあらわにする。
「あぁ、すまないな」
「あん?へへ、あんた分かってるな」
しかし、クレストが銀貨を握らせるとあっさりと掌を返した。
この店には特に違和感はなく、情報屋の巣窟といった風でもなかった。
無作為にここで起きた出来事を見ていくのは時間的にも不可能だ。
見知った誰かがここに来てなにをしていたか、といった絞り込みはできても、例えば暗殺の相談をしていた場面、というような特定はできないので、これ以上の調査は現時点では不可能だった。
ちなみにルディフィスはここに来たことがないのはわかった。
いっそ、あの愚弟にスティールをかけたいと思うが、この魔法をかけると相手は激しい頭痛や吐き気、悪寒に襲われてしまうので、なかなか難しい。
だからこそあの愚弟にスティールをかけたいクレストであったが……。
そうしてクレストの調査が一向に進まない中で日にちだけが過ぎていった。
◆王国歴334年9月4日夕方(次期伯爵決定まであと3日)
何も起きないことが逆不気味で、メリオノーラの部下たちは違和感を感じながら次期伯爵決定の儀式を待っていた。
しかし、この間に1つ、メリオノーラを喜ばせる出来事があった。
ルディフィスが手を回したと思われるトラブルによって到着が遅れていたマリウスが間に合ったのだ。
「メリオノーラ殿。遅くなって申し訳ないが、間に合ってよかった。遅い時間に訪問した非礼はお詫びする」
マリウスはメリオノーラに謝る。
今は夕刻。たしかに女性を訪問するのにふさわしい時間帯ではない。
副団長の計らいで、クレストは護衛に混ざって控えていた。
「マリウス様、お越し頂きありがとうございます」
メリオノーラはマリウスに礼を述べるが、その表情には少し不安の色が映る。
ク―ゼット家の意向は不干渉のはずなのになぜ介入可能なタイミングでやってきたかを測りかねているようだ。
「早速だがメリオノーラ殿。私はあなたの助けになりたい。今の状況や予定を聞かせてもらえないだろうか」
「!?」
「それは、ご助力いただけるということでしょうかのぅ?」
言葉を飲むメリオノーラの横からイゴール爺がマリウスに問う。
「そのつもりです。そのために少々無茶もしましたが、盗賊退治であれば大義名分も立つので問題はない。それに、妻となる方を支援することは私自身の望みだ。どうやらかなりきな臭いと言うか、論外な手を相手は打っていると聞いている」
「マリウス様、それは……」
マリウスがどこまで掴んでいるのかはわからないが、さすがに争いの経験に長けた侯爵家だ。
もちろん諜報のものをこのリエフェンド領にも入れていて情報収集はしていたのだろう。
「メリオノーラ殿が弟君を信頼したい気持ちは理解するが、伝え聞く状況から客観的にみると守りは厚いのにこしたことはない。そういうことで理解してほしい」
「ありがとうございます。ご支援ご配慮に感謝します」
そしてマリウスが動き、ク―ゼット家がそれを認めているのであれば、この場の人間にその支援を断る者はいない。
さらに、メリオノーラの気持ちにまで配慮している。
あえて手を出すわけではないと。守るのだと。
「水くさいことは言わないでほしい。メリオノーラ殿……キミの顔が曇ったままというのは、私の望むところではないのだ」
「マリウス様。ありがとうございます」
心強い味方だった。
喉から手が出るほどの。
ルディフィスが怪しい動きをしていると言っても、メリオノーラ陣営が使える手は全てリエフェンド家の手の者である。
裏でルディフィスとつながっている可能性を排除できないものも多かった。
「もちろん、取り越し苦労であれば問題ない。私はメリオノーラ殿と気兼ねなくダンスを楽しみ、儀式を見守ろう」
「まぁ、マリウス様」
ようやくメリオノーラの表情が明るくなった。
夫となるもの……いかに政略結婚であるとはいえ、このように大事にしてもらえるのは嬉しいだろう。
確実に味方と言える心強い婚約者だ。
クレストも安心した。
これで彼は調査・探索に全力を注げる。
マリウスは護衛も連れて来ているだろうから。
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