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7 ユバルの転移大魔法

「破戒僧ジミーは私たちの敵。しかも、手ごわい。もしかしたら、私たちはかなわないかもしれない。でも、私たちの捕獲作戦は彼に邪魔される前に、完結させなければならない。それなら、作戦を急がなければいけない」


 ヤバルは、なにかを見つめながらそう淡々と指摘した。そんなことは以前からユバルも指摘してきたことだった。ユバルはヤバルの指摘を聞きながら、心に抱いていた積極案を兄に持ち出した。

「そうだね。奴らの学園には、夏の補習合宿のために、臨海学校と称する活動があるそうだ」

「ああ。それで、その臨海学校が、僕たちの作戦とどう関係があるんだ? なんでそれを持ち出すんだよ」

「この学園の臨海学校はいい機会よ。ある特定の生徒たちだけの参加らしいんだよ」

「それがどうしたんだよ......」

 ヤバルはユバルを睨みつけ、また中空を見つめ続けた。その様子を見て、ユバルはつづけた。

「この地では、夏休みという季節は原時空人類が開放的に活動する季節らしいよ。私が学年内で収集した情報では、成績の良かった1Aを除いた学年全体が、補習合宿のために臨海学校に参加することになっているんだ。となれば、破戒僧は補習合宿には来ない。臨海学校に参加する大ぜいを捕獲できるチャンスだ」

「ユバル、そうだな。1Aを除いたということであれば、破戒僧ジミーは参加しないだろうし、ユバルは潜入しておく必要もないわけだ。この際、積極的に捕獲作戦を展開しよう」

 こうして、原時空人類捕獲部隊は原時空人類監視部隊の支援を得て、大規模な捕獲作戦を実施することとなった。

______________________________________


 荏原学園では、理亜と玲華がジミーを追い立てつつ、父親ラバンのミニバンへ急いでいた。1Bや1Cのバスはすでに会場となる南伊豆の海浜施設へ出た後だった。ヤバル率いる監視部隊もすでに生徒たちのバスを追跡しはじめていた。他方、ラバンのミニバンは、バスの旅程とはあまりに気ままに遅れて出発したために、ジミーが乗り込んだことはおろか後から来ることさえ監視部隊や捕獲部隊に知られておらず、ノーマークだった。

 現地の海浜施設に着くと、すでに、1Bと1Cの生徒達は、クラスごとにまとめて大部屋に収容されていた。遅れて到着した理亜と玲華には、予定通り、教師たちと隣り合ったオーシャンビューの部屋あてがわれた。

 そして、参加予定の無い破戒僧ジミーは、別棟の教師用客室の下にある地下室があてがわれたようだった。しかも、そこは、ヤバルたち原時空人類監視部隊や捕獲部隊の監視から外れた部屋だった。

 このへや割は、表面的にはヤバル達にとって都合が良かった。警戒すべき敵の破戒僧ジミーについて言えば、すでに彼の弱点は把握済みだった。また今回の原時空人類大量捕獲作戦では、破戒僧がいないと見込んで立案した作戦だった。ヤバルもユバルも、この捕獲転移作戦を大集団単位でおこなえば、全ての参加者を一挙に簡単に捕獲できると考えていた。

 

 一日目の午後は、天候がよく、午前中に補習を受けていた1B1Cの全員が、3時間程度の水泳教室を受けていた。

「補習受講生全員が海岸付近で水泳教室を受けています。これはチャンスだ」

 この時、ユバルは沖の遊泳限界の浮きブイ付近に、いないはずのジミーの姿を見た。

「兄さん、あいつも臨海学校に参加していたぞ」

「なに!? そんなバカな......」

「いや、兄さん、これは逆に好機かもしれない。彼はあのブイに二人の女たちと三人だけで孤立している」

 たしかにチャンスだった。

「具体的に、どうやるんだ?」

「津波を加工します。もちろん、岸に向けて、生徒や教師たちを宿舎に追い込みましょう。同時に孤立している破戒僧たちを引き波で孤島へ追いやります。そればかりではなく、津波によって、ジミーに付き添っている二人の女子生徒のブラを奪い......」

 当初、ヤバルたちは沖で大地震を引き起こし、全生徒たちや職員たちが津波に攫われて行方不明にさせるつもりだった。今、沖にジミーたちが孤立しているのであれば、津波を利用してさらに沖の孤島へ追いやる計画に変更したのだった。さらに、津波からの避難の際に、理亜と玲華に小さすぎるブラを拾わせた。それによって、理亜と玲華の活発な活動を封じ、同時にジミーをかく乱して動きを封じることを狙っていた。津波はその後何回も起きた。

「さあ、捕獲作戦を開始しましょう。ただ、悠長に作戦を実施する暇はありません。ここは捕獲大魔法をつかって、50人前後を一度に転移させましょう。ただ、従順な者たちだけに限られます。反発する者たちは、後回しにして、10人単位で転移させるしかありません」

「そうか、ユバル、それでは急ごう」

 こうして4日間の間に、宿舎に逃げ込んだ教師と生徒たちのうち、無抵抗な者たちはすべて異次元へと連れ去られた。4日後の夜になると、ジミーたちが戻ってきたのだが、その時、宿舎はもぬけの殻だった。


 ユバル達が監視していることには気付かず、ジミーたちは宿舎を見て回っていた。彼等はも別棟の地下室にジミーの荷物を見つけ、しばらくで過ごすししていた。

 ユバル達が仕組んだように、身の回りのものはないはずだった。停電のために、日常の生活もままならないはずだった。ユバル達の目論見通り、三人は申し訳程度の水着でしばらく生活し続けた。彼らはそれを繰り返し洗いながら(当然、脱いで洗うことになる......)、宿舎を見て回っていた。

「理亜、この小さなブラでは、使い物にならないわ」

「でも、ここには何も無いわね」

「このタオルは」

「短すぎ」

「あとは見当たらないわね」

「みんな、帰ったんだよね」

「そのはずだよ」

 三人は、明日以降は、なんとか荏原学園に戻ることを考えなければならないと話し合いながら、寝入ったように見えた。だが、その夜になって、この三人は暗闇にまぎれながら、別館から本館へ忍び込んできた。監視していたはずのユバル達は、残りの転送作業で忙しく、完全に油断していた。


 ユバルは、ホールで転送魔法の準備を進めていた。大規模な魔法のために、プレートのような魔法操作の補助装置を駆使して、ホールのあちこちをいったりきたりと、忙しく立ち回っていた。補助装置とはいっても、彼女はスイッチを操作するのではなく、手から放つ光の粉ヘクサマテリアルを介して、ホール内の機械類やロボットを操作しているようにみえた。この時、ユバルはホールにいる三人に気づいた。

「だれ?」

 ユバルはヘクサマテリアルを、三人の方へ拡散させ、光の粉は三人を照らしだした。彼女の目は三人の中のジミーに注がれ、同時に彼女の顔は驚愕に満たされた。

「あ、あんたたちは」

 ただ、ユバルは女性形に戻っていたために、ジミーや玲華たちにはクラスメイトのユバルであるとはわからなかった。

 この声と同時にユバルの脳裏にはある預言が響いた。しかも、その預言はユバルに理解不能なものだった。そして、その預言がジミーに伝わったこともユバルにはわかった。それは、ユバルの目の前で破戒僧ジミーが凍り付いたからだった。彼が地下室でユバル達がしていた行いの様子を、何らかの形で把握したのは明らかだった。

「玲華ちゃん、理亜ちゃん、急いで地下室へ」

 理亜と玲華はその言葉で、ジミーが何が異変を感じたことを悟って地下室へ駆けて行った。それをみたユバルは、いそいで転送呪文を詠唱した。すでに地下室では縛り上げた男女たちを転送し始めた。転送魔法の詠唱は、ジミーが凍り付いている間に終わった。ユバルはすぐにヤバルに連絡し、離脱していった。

「ヤバル兄さん、そちらに敵が向かっている。私は魔力を使い果たした。いったん離脱する」


 ジミーは、逃げ出していくユバルを追わなかった。彼の脳裏には、ホールの床下への入り口、そしてユバル達が何かをした地下室の情景が浮かんでいた。ジミーは、あまりの情景ゆえに凍り付いていたのだった。ユバルが逃げ出したことで我に返ったジミーは、理亜と玲華の後を追った。


 地下室には、まだ男女たちが残っていた。次に転送されるはずだったのだろう、服薄の男女たちが縛り上げられ、苦悶の声を上げていた。彼らは、補習のために臨海学校に参加していたジミーたちと同じ学年の男女生徒たちだった。生徒たちは、口々に叫んでいた。

「約束と違うじゃないか」

「いい女たちのハーレムがあるというのは嘘なのかよ」

「あんたたち、私に仕える立場なんでしょ!」

 後ろ手に縛られたままの男女生徒たちは、ユバルに似たエルベン族たちにそう叫び続けていた。だが、カインエルベン族の作業員たちは、床に転がされて叫んでいる男女生徒たちを無視して、作業を続けていた。

 これらを把握したとたん、ジミーの脳裏に浮かんだものは、監禁された同級生たちを一瞬にして解放することだった。ジミーのイメージ通りに、縛られていた同級生は全員が一瞬にして解放された。解放された同級生たちは当然ながら、周囲にいたカインエルベン族作業員たちに襲い掛かった。

 ヤバルは一瞬早く、作業員たちに逃げ出すように指示をした。すると、生徒たちはヤバルを捕まえてつるし上げた。そこに三人が駆けつけ、ヤバルは縛り上げられてしまった。

「あんた、名前は何というんだ」

「何も言わんよ」

 ヤバルは、何も言うまいと強く念じていた。しかし、ジミーの脳の片隅で始まった改編数学の計算により、ジミーはヤバルの精神を強制的に変形させ始めた。

「ほお、それでは強制させてもらおう。『お・ま・え・の名は何という?・お前の目的とおまえの・役職を言え』」

 ジミーの尋問は、傍から見ると、サイキックのような能力に見えたかもしれない。そのように感じさせるほど、すぐにヤバルは強制された口調で説明をし始めた。

「私は、皇帝ラーメックの命により派遣された魔國派遣の...原時空人類捕獲部隊並びに原時空人類監視部隊の分析指令、ヤバルである。我々の目的は…・」

 この時、ようやくユバルが味方工作員の大軍を引き連れて、ジミーたちを襲った。ジミーたちは尋問に気を取られていて、完全に虚を突かれた形だった。

「降伏しろ、虫けらども。我々はお前たちを包囲している」

 だが、ジミーは「虫けら」と呼ばれたことに反射的にユバルを振り向いた。

「僕たちが虫けら? そうか、あんたたちは、まだ酷いことをつづけるのか」

 ユバルは、ジミーとにらみ合ったこの状況が、あまり好ましくないことを思い出した。すぐさま逃げ出さなければ、全滅させられるほど危険なタイミングだった。

「ヤバル兄さんん、友軍たち、全員離脱を!」

 その次の瞬間、やはりユバルの脳裏に、あの預言の言葉が響きわたり、それば同時にジミーの脳裏に響いた。この地下室には、ユバルが大量に持ち込んでいた光の粉、ヘクサマテリアルが充満していたことも、この現象を強めていた。

「なぜいうのか

 私の道は主に隠されている、と

 私の裁きは神に忘れられた、と

 あなたは知らないのか、聞いたことはないのか

 啓典の主は、とこしえにいます

 疲れた者に力を与え

 勢いを失っている者に大きな力を与えられる

 恐れるな、虫けらと言われたジミーよ

 私はあなたを助ける

 見よ、私はあなたを新しく鋭い歯を持つ叩き棒とする

 あなたは山々を踏み砕き、風が巻き上げ 嵐が散らす」

 途端に、ジミーはすぐ近くのカインエルベン族工作員たちを瞬時に抹殺した。逃げるカインエルベン族工作員を追って、ジミーが外に出てくると、戦闘は宿舎の外へ広がった。ユバルは魔道具を両手に持つと、逃げ惑う工作員をかばうようにしてジミーの前に立ちはだかった。


 途端に始まった二人の戦闘は激烈だった。ジミーはユバルを炎で焼こうとすると、ユバルはそれを消し去る。すかさずユバルは、ジミーを二つの魔槍で突き刺そうとすると、ジミーは全ての魔槍を原子レベルに崩壊させた。ユバルの魔法は強大で圧倒的であり、ジミーの謎の力は根源に働きかける不可避の力を帯びていた。しかも、ユバルは魔道具を駆使しながら、背後にまとまったカインエルベン族を全て転移させてしまった。

「根源的な力を有するジミーよ。今はこの辺りで立ち退かせていただく...」

 こういうと、ユバルやヤバルたちは、すぐに姿を消して異世界時空へと脱出することができたのだった。

_________________________ 


「ユバル、よくやった。お前は大規模転移魔法を可能にしたばかりでなく、破戒僧ジミーとも互角に戦えるようだな」

「兄さん、喜ぶのはまだ早いと思う」

「なぜだ?」

「確かに、私は大規模魔法を扱える。それは、この額にある印のせいなんだ」

「そうらしいな」

「そして、この額の印のせいで、私は破戒僧ジミーと対した時に、必ず激烈な戦いになってしまう」

「なに? それはどういうことだ?」

「今まで、兄さんには詳しく言っていなかったね。実は、皇帝府から召喚される前のことだ。私は、私たちの神 時空の支配者マスティーマと話したことがある」

「何、われらの神と......」

「この額の印を利用することで、大量の魔力を注ぐことができるらしい」

「そうか、それがお前の強い魔力の理由だったのか。すごいじゃないか」

「まだ、話は終わっていない......そして、この額の印をつけたやつがいる。いや、そいつによって、われらカインエルベン族全てに印がつけられているらしい。そして、私の額の印だけ、大きく覚醒してそいつの言葉が注がれる」

「え、どういうことだ?」

「私の額の印は、破戒僧ジミーが目の前に来た時に、私に言葉があたえられ、それがそのまま破戒僧ジミーの脳裏に注がれるらしい。しかも、それが切っ掛けでジミーは覚醒し、あの底知れぬ力が解放される。つまり、私と相対した時は、必ず戦いになるということになる。しかもその戦いは激烈極まりない......」

 しばらく、ヤバルは無言だった。

「一つ、質問していいか。我々には額に印がつけられているという。お前の額の印は特にその機能を発し始めた。それじゃ、その印は誰がつけたんだ? おまえが「そいつ」と呼ぶ存在か? しかし、力を発揮できるとおっしゃったのは、われらの神、時空の支配者マスティーマなのだろう? それなら印をつけたのもマスティーマではないのか?」

「それが、ちがうんだ。そいつは『時空の創造者』と名乗った。しかも、時空の支配者を昔従えていたというんだ」

「ということは、我々は時空の支配者に敵対しているということなのだな」

「そう言うことだ。だから、そいつとジミーたちはすでに連携をとりつつある。それに、荏原学園は一学年がほとんど欠けた状態となっている。既に、経営陣などが不審に思っている。この際、我々はさらに作業を急ぎ、短時間で荏原学園のすべての関係者を丸ごといただくことにしたい。こうすれば、すぐに作戦を終了できるし、ジミーたちから追われることもないだろう」

 こうして、荏原学園の全面的乗っ取りを急ぐことになった。

______________________________________


 その日のうちに、ヤバルは動いた。彼は捕獲部隊と監視部隊とに命じて理事長、学校長、教師陣までのほとんどを捕獲し、ヘクサメタルで変容させたカインエルベン族の壮年格の男女たちを、新たな理事長・学校長・教師陣として送り込んだ。また、1Aのクラスメイト達も、4人程度を捕獲することはできた。ただし、早川先生ら数人は、地震と津波の知らせを受けて学園から臨海学校の場所へ向かっていたために、置き換えることができずにまだ残していた。これらは、ジミーたちの帰還が予想よりも早かったたためだった。ヤバルたちは、荏原学園の職員たちを置き換えるだけで精一杯だった。


 ヤバルたちは、ジミーたちが予測よりも早く帰還したことに驚いた。また、学園の職員たちを置き換える工作をした直後に、学園外から見知らぬ者たちが出入りするようになったことにも気づいた。彼らは、どうやら理亜や玲華の父であるラバンが経営するチャウラ商会の人間たちだった。ただ、それらの動きにヤバルたちが気付くのは、遅すぎた。

 チャウラ商会は、最初、売り込みという経済活動で学園に働きかけをしてきた。ところが、それは単なる売込みではなく、それとなく学園内を探るような言動をしていた。明らかに彼らは学園内部事情を深く探っている様子だった。

______________________________________


 ヤバルがこの時空全体、地球の各地に派遣した捕獲部隊や監視部隊の各部署からも、似たような報告があった。実は、数日前、全世界のハイスクールや大学では、ヤバルの指揮下にある部隊によって荏原学園と同じタイミングで同様の作戦が実行に移された。その際、荏原学園以外のすべてのハイスクール・大学では、捕獲部隊の作戦の後に、正体不明の人間たちが、入れ替わり済みの職員たちに接触を図ってきたという。それでも、全世界のハイスクールや大学では、職員も学生・生徒もすべてをそっくり捕獲できたと報告されてきた。ただ、ヤバル自らが指揮をしていた荏原学園だけは、あまりうまくいかなかったのだ。

 そして、各ハイスクールや大学に現われた正体不明の人間たちについて、その後に正体を探った結果、彼らは「秘密結社チャウラ」という組織の各地域支部の構成員たちであり、その結社の総帥はまさか、ジミーの伯父ラバンだった。

______________________________________


 二学期が始まった。秋風が吹き始めた頃、荏原学園全体は、例年と変わらずに学園祭スクールフェアの準備を始めていた。ヤバルたちの予想外なことが3つほど起きていた。ひとつめの誤算は、ジミーが実行委員となり、多人数を維持していた1Aではミスミスターコンテストなる出し物を始めていたこと。二つ目と三つ目は、捕獲しそこなった1B 1Cのクラスの残りの少数者たちが、出し物としてあまり手を掛けずに生徒たち自身を魅惑させる催しになっていたことだった。そして、不思議なことに、ジミーたちや一年生たちは、まるでカインエルベン族のように、男子が女子を、女子が男子を喜ばすような行為を始めていた。1Bでは、男子生徒女子生徒それぞれが執事、ボーイとメイドに扮したコスプレ喫茶。1Cでは、大正時代の書生と女学生に扮した大正ロマン喫茶。そして、1Aは、美男美女コンテスト水着コンテストとなっていた。これらの催しは、生徒たちが異性に魅惑される状態を作り出すものであり、そこで魅惑された男女はヤバルの捕獲部隊が容易に捕獲できそうな状態となっていた。ただ、原時空人類の男女の絡み方は中途半端だった。魅惑させているときの男女の水着の姿は、体に様々なものを身につけすぎており、しかも男女別々に実施するもので、これらの出し物は集団で魅惑し魅惑されるようなものでは、全くなかった。ヤバルは生徒たちを捕獲する前に、十分に魅惑できるならしておきたいと考えた。彼は、部下たちに命じて各クラスの男女生徒たちを裸にして一か所に集めよと命令した。だが、それらは、秘密結社チャウラの工作員によって仕組まれた、ヤバルの配下たちを誘い込む罠だった。


 ヤバル配下の工作員たちは、手始めにジミーを水着審査をしていた女子たちの中へ放り込んだ。途端に悲鳴とともにジミーは凍り付いた。それによって騒ぎが起きたと同時に、派遣した部下のカインエルベン族の女工作員たちが突入してきた。

「ランダムな男女が互いに裸になってもつれあう。これは最も美しい姿ね」

 もちろん、女子生徒たちは逃げ出した。ヤバルはユバル達に、女子生徒たちを一挙に捕まるように指示を出し、それに応じて捕獲部隊の工作員全員が姿を現した。ところが、このタイミングがまさにチャウラ工作員の罠だった。

 ユバルが大規模転移魔法の詠唱を始めたときだった。ヤバルはその完了を待つ必要があった。魔の悪いことに、そこに入り込んできたのは、秘密結社チャウラの工作員たちだった。

「これは罠だ」

 ユバルは、詠唱を中止すると、チャウラ工作員たちを睨んだ。だが、時はすでに遅かった。詠唱を待つために動きをとどめていたヤバルたちの工作員は、力づくで秘密結社チャウラの工作員たちによって、いとも簡単に捕獲されてしまった。

「ユバル、大規模転移魔法は中止だ。今は僕たちだけでも脱出しよう」

「しかし、ほかの工作員たちはどうする?」

「彼らはあんたの転移魔法を待つために、不動の姿勢に入っている。今、動けるのは詠唱中のあんたと、指令をしている僕だけだ」

 ユバルはそれを聞くと、簡易詠唱によってヤバルとユバルの二人だけを転移するしかできなかった。

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