その日、僕の人生は180度変わった
「ただいま」
「おかえりなさいませい」
あちこちから使用人の声が響き渡る。そう、数え切れないほどの使用人だ。
そう、僕は天皇の孫だ。
「あと五分で英語のレッスンの時間ですよ。」
「はいはい、わかってるよー。あとその前にいつもおやつ持ってきてくれない?」
「かしこまりました。」
「ありがとう。やっぱこのカステラは最高だよね。赤紫蘇ジュースも体に染み渡るわー。そういえばさー、この前赤紫蘇ジュース学校の体育祭の時の飲み物に持っていったら、「何?その赤い飲み物? 血を飲んでるの?」ってびっくりされちゃったよ。赤紫蘇ジュースってあまりみんな飲まないのかな?」
「何しろこのジュースは自家製のものですから。あまり売られていないものなのですよ。
ほらほら、坊ちゃん。そろそろ英語の勉強部屋で準備を始めないとまた先生に迷惑をかけてしまいますよ。
英語のレッスンの後はドイツ語のレッスンがありますから先送りできませんよ。」
「わかったよ。」
英語のレッスンとドイツ語のレッスンをいつものようにこなし終えた。部屋を出て、赤いカーペットの引かれた、螺旋状の階段を降りると一面に広がるだだっ広い空間の中に、豪華な長テーブルをはじめとしたインテリアで張り巡らされている空間にたどり着いた。そうここは俗にいうリビングだ。
「いやー、今日のドイツ語のレッスンは本当に大変だったよ、正直、途中から頭がボーとしいて先生の話しているドイツ語なんかひとつもわからなかったや。「何語ですか?」って聞こうかと思ったよ。まあドイツ語の授業なのだけど。」
「おやおや、坊ちゃんしっかり勉強なさならいと、今の陛下様のように将来立派な天皇陛下になれませんよ。」
僕が一番心を許している使用人、加代さんの小言はいつものことだ
「はいはい、いつもそればっかり。わかってるよ。僕だって疲れてる時くらいあるじゃん。ていうか、お腹すいたー。今日の夜ご飯はなんだろ〜。」
「坊ちゃん、この後夕食前までにピアノのレッスンがまだ残っていますよ。」
「は〜...。もう少しゆっくりしたいな〜...」
勢いよく階段を下る音が鳴り響く、お腹をすかせた僕は一目散に階段を駆け下りた。
「あー疲れた! やっと夕食だよ」
「坊ちゃん、今日もお疲れ様でした。晩御飯の準備が出来上がりましたので、みなお待ちしていますよ。」
加代がリビングの目の前で出迎えていた
「わあ! 唐揚げ、ハンバーグ、お寿司、デザートにモンブランもあるじゃん! どれも僕の大好物ばかりだ! 嬉しいな。でも、今日何の日だっけ? 僕の誕生日でもないのに、まあいいか。とにかく最高だよ!」
少し違和感を感じていた僕だが、その予感は的中していた。
特にお腹をすかせていた僕は、この家のものにはふさわしくないような、がっつくような食べ方をしながら、大好物を次々と美味しそうに食べ尽くしていった。
「いい加減その食べ方治しなさい。これは私たちの家が天皇家であるからといったルールは関係ないのだよ。一般的な礼儀やマナーだ。いい加減そろそろ治しなさい。」
父はいつにも増して口酸っぱく僕に注意をしてきた。顔つきもなんだかこわばって見える。今日は一体なんなんだろう。
「わかった。わかったよ。もう何回もその話は散々聞いてるよ。それにしても今日は僕の好物ばかり! まるで旅立ちの日見たいじゃん。まあいいや。いやあ、どれもこれもおいしい!こんなにおいしいといくらでも食べれそうだよ。」
珍しく父がむせた
数人の使用人が駆けつける。
「問題ない、ただむせただけじゃ」
「お兄ちゃん、そんなに食べたらもっと太っちゃうよ。」 4歳下の妹、さくらが口を挟んだ。
「そう?でも僕学校で太ってるなんて友達に一回も言われたことないよ。ていうかそういうお前も気づいてると思うけど結構丸っこいよ」
「お兄ちゃん、ひどい! 妹にそんなこというなんてひどい!」
さくらは赤を真っ赤にして泣く寸前の顔をしている。
もしかすると自分は全然太っている自覚がなかったのかもしれない。自分を棚に上げて、、困った妹である。
空気を切るように祖父(天皇)の方から軽い咳払いをした。
「お前に今日言わなければならないことがある。心して聞いてくれ」
「どうしたのおじいちゃん。そんなにかしこまって」
「突然こんなことになってお前にはすまないが、この家をしばらくの間離れてもらうことになった。」
「家を離れるって?どういうこと?急にそんなこと言われてもよくわからないよ。父さんからも何か言ってよ」
「お前には悪いが、父さんにどうにかできる話でもないんだよ。」
「なんだって? ?」
「明日だ。明日の朝に出てもらう」
「明日?急すぎるよ !そんなに急に言われても流石に無理があるよ。僕にだって、友達がいるし、習い事だってたくさんあるのにこの先いったいどうするのさ!」
「今はそうとも言っていられないくらいの状況なんだ。習い事はしばらく断っておいた。」
「お前には悪いがしばらくは名前も、田中公也という新しい名前で生活してもらう必要がある。お前もわかっているとは思うが天皇陛下の孫だということを知られてはまずいからな。そしてお前の生い立ちとかの詳しい口裏合わせのための資料はすべてここにまとめてあるからこれ通りによろしく頼むぞ」
「そんなー、、ひどいよ、、この話自体あまりにも理不尽だよ。」
中学校に入学の2週間前、僕の人生は180度変わった。