身体の過去
…眠い。眠すぎる。
さっきアイエルさんに魔法書を持ってきてもらってから既にかなりの時間が経過した。
そして気まずい。アイエルさんが同じ部屋に居続けている。
まあ、そこは置いておいて。魔法書に書いてあったことだが、魔力は体に「流れる」ものらしい。
圧倒的強者は魔力量が桁違いなので、一挙手一投足に魔力が籠ってしまうだとか。
そんな猛者に会ってみたくもないな。まあ、その時は味方として会いたい。
とまあ、この魔法書の通りに魔力を感じてみるとするか。
―突風が巻き起こった。
「…は?」
自分でも驚いている。
室内は嵐が過ぎ去ったようにぐちゃぐちゃになり、カーテンは吹っ飛んだ。
なるほど、力を入れすぎて〈覇気〉がでたのか。
…自己分析してる場合ではなく、アイエルさんを助ける方が先だな。
「すいません、魔法書の通りにしていたらこうなってしまって…」
壁にめり込んでいるアイエルさんに、そっと手を伸ばす。
「…ですか」
「はい?」
「どうして魔力が使えるんですかっ⁉」
驚かれた。とまあ、事情を聴くことに。
何でも、魔族なのに魔力が使えない特異体質らしく、呪いの類か、あるいはその手の病か、とその道のプロに依頼したりしていたのだが、問題が見つからなかったとのこと。
魔石を用いた特殊な装備であれば低級魔法の使用まではできるらしい。
ただし、この世界に自然に発生している魔力を集めるので、連続した魔法行使ができないというデメリットがあった。
そんな最中、俺は何者かに襲われてしまい、今に至るというわけだそうだ。
しかし、また壁にぶち当たった、か。
とことんついていない。でもさっきの〈覇気〉といい、魔力は使えるんじゃないか?
「あの~何か適当な魔法を行使してみてもいいですか?魔力が使えるか試したいので」
「なら、属性なしで使用可能な飛行魔法〈飛行魔法陣〉をお使いください。それから、私は唯一の配下。アイエルとお呼びください。それから敬語は使われると変な感じがします」
なるほど。アイエルさんて配下だったのね。これからはアイエルと呼ぶか。
そう思いつつ、魔法書の通りに魔力で魔法陣を描き、魔法を発動する。
「〈飛行魔法陣〉」
―宙に浮かんだ。成程。魔法陣が常に魔力を風に変換することで宙に浮かぶという訳か。
これなら魔力の回復よりも消費量が少ない。ならば、長時間の飛行も可能だろう。
随分移動が便利になるな。現世でも欲しかったわ、コレ。
アイエルは何やら魔眼に魔力を集中して、俺の魔力の流れを観察している。
原因を探ろうとしているのだろう。
やってみるか。アイエルに全く同じことをしてみる。
…ん?おかしい。何かが明らかにおかしいのである。魔力の流れが極端に不自然。
潜在能力は絶対こんなものではない。俺の恐れる強者クラスだろう。
「ライア様?どうかなされましたか?」
おっと。つい、アイエルの深奥部まで魔眼を走らせてしまった。
「いや、何でもない。ところで」
俺はアイエルに切り出す。
「そんな力を持っているのに、何故隠しているんだ?」