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第一部 完結

翌朝、私は腹痛と冷や汗で目を覚ました。とんでもない体調不良であるが、心因性故に学校を休むわけにもいかない。1日くらい休んでも誰も何も思わない、というより、誰も気が付かないかもしれない。学校、家、バイト先。どの場所でも、さして嫌われていないかもしれないが、どの場所でもさして歓迎はされていない。それが私だ。ならば、1日くらい休んでもいいではないか。今からでも帰宅して、、、

「いや、嫌われてないっていうのは昨日までの話か。」

おそらく、密告者の正体は広まっている。現代の常識はSNSとマスメディアが形作っているかもしれないが、学内の常識はくだらぬ噂とゴシップが形作るのである。卑怯な密告者に居場所が残っているほど、学校という閉ざされたコミュニティは甘くない。だからこそ、噂を肯定するが如く欠席することはできない。クラスで待ち受けているのは、嘲笑か侮蔑か、はたまた罵倒か。

浅い呼吸を軽く整えて、扉を引いた。足元を見ながら、自身の席へと向かう。誰からも何も言われない。もしかして、もう無視が始まっているということなのだろうか。人間、噂を起点として1日でそこまで団結できるものだろうか。

試しに近くを通ったクラスメイトに会釈をすれば、なんの疑問もなく会釈を返された。今までと、なんら変わらない平凡な朝である。普段からちっとも働いてくれない表情筋と、顔の下半身を覆うマスクに感謝しつつ、思考を巡らせる。なぜ、誰も私を糾弾しないのだろう。なぜ、誰も私を遠巻きにして後ろ指を指さないのだろう。なぜゴミも生卵も飛んでこないのだろう。考えたところで答えは出てくることなく、気がつけば朝読書の時刻を迎えていた。担任は能天気にも脳の奥に響くような挨拶をした後、キッチンタイマーをセットした。そのとき初めて、朝読書の本を用意してないことに気づいた。とにかく、本を探さなければ。できる限り目立たぬように立ち上がり、教室後部の本棚へと向かう。そこで、私の目に留まったのは一冊の本であった。臙脂色の背表紙に、黒字のローマ数字で「I」の飾り文字。そして、『魔女裁判』の文字。1ヶ月前に出会った、あの本で間違いない。間違いなく、読書家倶楽部と関わるきっかけとなったあの”本”だった。






昼休み、私が向かった先はもちろん図書室である。ドアを開ければ、そこには読書家倶楽部の面々が揃っていた。蕗谷先輩は、思わずといった様子で本から顔を上げる。

「隈内くんじゃないか!呼んでないのに自分から来てくれるなんて嬉しいよ。僕たちはもちろんいつだって大歓迎だけど、一体どうしたんだい?」

「恩を売るつもりですか?」

「?」

「神崎先輩と、板室さんもですよ。誰にも何も言わないなんてことあり得ます?」

私は、何食わぬ顔で犯人探しに探しに協力するふりをしていた。1ヶ月以上、仲間のふりをしていた。私に対して、良い感情を持っているわけがない。

「なんの噂も立ってないなんて、明らかに不自然でしょ?何が目的なんですか?」

後ろに隠した本を握る手に、思わず力が入った。

「いやいや、隈内くん。言っただろ?ここは読書家倶楽部。本好きが自分の欲を満たすための秘密倶楽部なんだ。」

蕗谷先輩は持っていた本を奥の机へと置き、カウンターへと歩み寄った。後ろ手に隠した本を垣間見ると満面の笑みを浮かべる。

「僕たちの活動に、学校の治安維持とか倫理観の矯正みたいな七面倒なことは含まれちゃいないんだよ。」

カウンター奥の2人は顔を見合わせてキョトンとしている。まさか、蕗谷先輩はあの2人にすら何も言っていない?

「僕たちは本の続きが読めればそれで満足なのさ。」

蕗谷先輩は、初めて出会ったときと同じような爽やかな笑みでそう言った。

「改めて、倶楽部への正式入部おめでとう。」

あの日のように手を伸ばされる。しかし今回は、無理に手を握られることはなく、こちらの様子を伺っているようだ。

カウンター裏の机には、蕗谷先輩が先ほど置いた本を含めて4冊の本が積まれていた。私はそこに、手に持っていた一巻を重ねた。そして、カウンターの中に入り、蕗谷先輩の手を取った。

「これから3年間、よろしくお願いします。」


ここまでそれなりに長い作品を読んでくださり、本当にありがとうございました!



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