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第一部 7

時刻は深夜2時。良い子は眠りにつく深夜、私たちは職員室の前にいた。

「さすがに施錠されてますね。」

「大丈夫、足元の小窓は鍵かかってないから、そこから入れるんだ。僕が先に入ってドアの鍵を開けるから、君はそっちから入ればいいさ。」

先日、筆箱からナチュラルに取り出されたマイナスドライバーを見て、怪盗やスパイのようなピッキング技術を期待していた身としては、少々残念に感じる。

「隈内くん、こっちこっち。」

「はい、ただ今。」

どうしてこんな舎弟みたいな真似をしているのか。話はソーラーパワーの改造を見抜いた後まで戻る。

「あとは、蕗谷先輩がポートフォリオを確認して、密告者を確定させればこの騒動もおしまいですね。」

「人ごとみたいに言わないでくれよ。今回は君も行くんだから、隈内くん。」

「えっ?!私ですか?神崎先輩や板室さんではなくて?新参者の私がですか?」

「そうだよ。だって、君が犯人を見つけないと。本の所有者候補なのは君なんだから。」 

こうして肝心なことを忘れていた私は先輩と2人深夜の学校に侵入している。読書家倶楽部に所属している以上、不法行為に手を染めることからは逃げられないようだ。

当たり前だが職員室の中は暗く、静かだ。ときどき、Wi-Fiやパソコンのランプが赤くチカチカと光り、なんとも薄気味悪い。担任の松河先生のパソコンはかなり奥にあるようで、先輩は後ろも見ずにずんずん進んだ。恐怖など微塵も感じぬ足取りであり、こちらも何とも薄気味悪い。

担任のパソコンの前に立つと、慣れた手つきでパスワードを入力し始めた。今回はなんの問題もなくアクセスできたようである。

「ここみて、隈内くん。ここからポートフォリオにはアクセスできるんだ。」

「別に教わらなくても、次回からはまた先輩が侵入してくださればいいじゃないですか。そろそろこの倶楽部も抜けますし。」

「いやいや、そんなことにはならないよ。きっと。」

そう言って、先輩は指導者用ポートフォリオにアクセスし、3年生のフォルダを通り過ぎて、1年3組のフォルダを開いた。

「えっ?」

「うん、やっぱり。」

隈内明菜。私のポートフォリオだ。

「隈内くん。僕たちは、ずっと『魔女』は3年生だと思ってた。だって、彼女の代わりに推薦枠をもらえる可能性があるのは、3年生だけなんだから。でもその前提が違ってたんだね。」

私の情報が載るトップページから、提出済文書のフォルダへと遷移する。

「学校推薦なんて関係なかった。密告の動機はもっと、直情的で純粋だったんだよ。」

そこには、私が約1ヶ月ほど前に提出した密告文が電子データとして写っていた。

「密告者は君なんだね。つまり、魔女裁判は、密告者探しの物語ではなく、密告者本人の手記というわけだ。本当に盲点だった。」

暗い職員室。煌々とブルーライトを放つパソコンには、悪筆で藤堂先輩のアルバイトについて詳細な報告がされている手紙が映し出されていた。

「いつから、私を疑ってたんですか?」

「最初に感じた違和感は、藤堂さん関係者のインタビューのとき。役割分担しようって話になって、君は佐藤希さんを担当しただろ?」

「それが何か?」

「だっておかしいよ。君は同世代の人間なんて、無条件に嫌いじゃないか。クラスメイトなら尚更、無闇に接触したりしたがらないはず。君は絶対、珈琲店の店主にインタビューしたがると思った。なのに、佐藤希さんを自ら選んだ。何でだろうって考えたんだよ。それで店主の言葉を思い出したんだ。」

『加美咲高校の生徒さんはどの子もいい子で本当に助かってたんだけどね。』

「山犬珈琲店は、君にとっても元バイト先。だから、店主と会いにいくわけには行かなかった。違ったかな?」

「じゃあ、金庫破りの件は?私は間違いなく、犯行が行われているとき先輩とも一緒にいたでしょ?」

「密告と盗難は同一犯じゃなかったんだ。金庫破りの犯人は16時半に侵入した樋口真雛さんさ。彼女の目的はあくまでも理科のテストだったんだ。手紙は誤って持ち出してしたに過ぎなかったんだよ。これを見て。」

手渡された藁半紙には、薄暗くて見えずらいが期末考査の結果が書かれていた。お世辞にも良い成績とは言い難い。

「これは?」

「樋口真雛さんの成績詳細。昨日、ポートフォリオから拝借したんだ。彼女、理科がめっぽう苦手みたいでね。これじゃあ次コケたら、留年もありえる。動機としては十分だよ。」

「それじゃあ、あの改造されたソーラーパワーは?樋口真雛さんが犯人なら、そんなもの必要なくないですか?」

「君も随分と白々しいことを聞くね。あれは、君が置いたんだろ?はい、返すよ。」

鞄から花の置物が取り出された。改造されたコイルが入っているためか、ずっしりと重たい。

「板室くんが3人の成績情報を教えてくれたあの日、君は焦ったはずだよ。樋口さんが犯人だとバレれば密告者と金庫破りは別人だとバレてしまう。樋口さんは金庫破りのメリットはあれど、密告に対するメリットがないんだから。それじゃあ、幸運にも君に生まれたアリバイがパーだ。あの時点で、君は金庫破りの犯行を成績優秀な2人に押し付けようとした。それで、思いついたのが、改造したソーラーパワーってわけだ。」

「ははは、ぐうの音も出ませんね。」

「一応こういうときは聞いておいた方がいいよね?ほら、映画とか漫画の定番だし。君は、何で密告者になったの?」

「そうですね。」

私は自身のポートフォリオを見つめた。ブラウザバックを押し、基本情報のページへと戻す。幸薄そうな冴えない写真と名前の下にはS特待と大きく書かれている。

「適度に適切に頑張っただけで報われるなんて、狡いでしょ?」

そして、その下には『バイト許可願い受理』の文字があった。

「で、どうします?残念ですけど、明らかになったのは、私の性根が腐っているということだけ。学校側からの懲罰は、期待できませんよ。」

「えっ。別に、どうもしないけど。そんなことより、これで君が本の所有者になれてるといいんだけどね〜。」

ポートフォリオは閉じられ、閲覧履歴が削除された。眺めていたパソコンの電源が落とされる。

「これでこの話はおしまい。夜遅くにお疲れ様。時間的に授業教室は、施錠されてるし、今日は解散しよう。また、明日図書室で。君と、できるなら君の本とも会いたいな。」


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