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第一部 6

ここまで図書室に入り浸っておいてなんだが、私は美化委員会所属である。加美咲高校には一人一役という面倒な制度がある。『全生徒が学校運営に関わることで学業のみでは培うことのできない自主性を養う』とかなんとかいう大層な御題目のもの始まったこの制度により、必ず委員会または学校行事の実行委員のいずれかにならねばならないのだ。淡々と仕事をこなすような委員会活動ならばともかく、人前に否が応でも立たされる実行委員になった暁には首を吊りかねない。入学早々に行われた委員会決めで、仕事の少なそうである美化委員会に立候補したというわけだ。立候補で委員を務めている身としてなんだが、活動内容は掃除婦と変わりない。変に活動に意欲的な生徒がいない、大変助かる組織である。学年共用施設の清掃を月に一度ローテーションで行うだけなのだ。対象となる施設には、空き教室や理科室、体育館、そして

「なんとまぁタイムリーな。」

自習室である。私は決して自習室の月例掃除当番を狙ったわけではない。だが、担当が一人の場所をという要望を出した結果、上の判断でこうなったのだ。

この21世紀に古いT字箒と塵取りだけ待たされた簡易的な清掃員の私は、閑散とした自習室をぐるりと見渡した。集中力を高めるためにと立てられたパーテーションで視界が悪い。いくら背が高くとも教室の入り口からでは全体を見渡すことはできないだろう。

「さっさと終わらせて、さっさと帰ろう。」

別に私は何がなんでも盗賊を吊し上げたいわけではないのだ。自発的に盗賊捕縛へと動く動機もない。

塵取りをゴミ箱の付近に放置して掃き掃除を始めた。ざっさっと箒の音が一定に鳴り、埃が部屋の隅へと集められていく。視界ギリギリで埃が舞い、既に掃除を終えた場所へと逃げていくのが見える。が、別に深追いはしない。これはあくまでも委員会活動であり、掃除をしているポージング。わざわざ一人での掃除に立候補したのは適当に仕事を終えるためである。私以外、この部屋には誰もいないのだから。だが、しばらくしてゆらゆらした黒いものが埃ともに目の端に映った。いや、大きめのゴミが舞ってしまっただけかもしれない。そう思い、動きを止めるがやはり何かが背後で動いている気がする。時刻は17時。物怪や妖怪の類が現れるには早すぎる時間だ。

「誰かいる?」

もちろん返事はない。いると言われても困る。だが、誰もいないはずなのにやはり何か黒いものが背後でゆらめいている気がする。気づいてはいけない何かに気づいてしまい、背筋が寒くなった。思わず背を縮こませ、箒を強く握りしめてしまう。手と箒の間が汗でヌルヌルとし始めた。このまま動けずにいても仕方がない。振り向きざまに箒を構えるシュミレーションをしながら、意を決して体を捻った。

「あっ」

そこで私は見つけてしまった。

「これにビクついていたのか、私は。」

ゆらゆらと首を振るカラフルな花のおもちゃを。私を驚かせたものの正体は、ソーラーパワーと呼ばれる玩具、その影であったようだ。台座についたソーラーパネルで動いているのだろう。日暮れが近いからか、ゆらゆらとした動きは緩慢である。

自習室の備品として一人でに動くおもちゃ。入り口からは見えない窓際の配置。電池の必要のない仕組み。もしかして、これは使えるのではないだろうか?そう思い、私は思わず読書家倶楽部のグループに連絡をした。


◇⬛︎◇


「ソーラーパワー?」

「はいそうです。太陽光で動くおもちゃですね。一昨日、美化委員会の清掃作業で見つけて。」

「え、隈内くんって美化委員会だったの?」

「そうだよ〜。みんなが嫌がりそうな面倒お掃除委員会なのに、立候補で決まったから覚えてる。」

「対人の仕事はほぼ皆無ですし、おすすめですよ。」

「そんな仕事、やりたがるの隈内くんくらいじゃないかな?」

それは良いことを聞いた。無事、後期も美化委員会を務めることができそうでなによりだ。

「人感センサーって生き物以外にも反応しますよね?」

「そうだね。熱を持つものなら大概反応するよ、例えばカイロとか。」

「動く影を見たとき、ソーラーパワーで熱源を断続的に動かしてたのではないかと思いまして。それなら、センサーも切れない上に、自習室にあっても不自然ではないでしょう?」

「確かに不自然ではありませんが、パワー不足ではなくて?わたくし、実物を見たことがないものですから想像の範囲で申し訳ないのですが。」

「花のおもちゃなんて、自習室にあること気づいてる人も少ないし、パクってきちゃおうよ。図書室で実際に試せばいいさ。」

現在は昼休み。幸運にも自習室の人通りが最も少ない時間帯だ。そのことを利用して自習室へ向かうことを決めた5分後には、私を驚かせた間抜け面な花のおもちゃは図書館へと運び出された。実行犯は、もちろん持ち出しを提案した蕗谷先輩である。

「意外と重いんだね、こういうおもちゃって。」

「いや、軽いと思うよ。だってこれ百均とかで売ってるやつだよね?」

「外はプラスチック製に見えますし、貴方が貧弱なのではなくて?」

「いや、持ってみなって。これ本当に重いよ。」

そう言って、手渡されたソーラーパワーが順番に回されていく。

「確かに。」

「まぁ、想像よりは重いですのね。」

「これ、ちょっと高いやつなんですかね。確かに重いです。」

「だろ〜?」

試しに、カイロにみたてたハンカチを紐で括り付け作動させれば、問題なくハンカチを動かした。

「パワフルだね。こりゃまた、想像以上だ。」

「いや、パワフルすぎるよ、これ。先輩、これほんとに自習室のやつですか?」

「通常のものより、重く、高馬力。特注品なのではなくて?」

「こんなものに金かけて特注してるとしたら、私は高校の経営方針を疑いますよ。だって、これ見て癒されます?」

「全く。」

「右に同じくです。」

すると蕗谷先輩が、徐にソーラーパワーをひっくり返し筆箱からマイナスドライバーを取り出した。底が取れて顕になった内部には、大きなコイルが雑に取り付けられていた。

「先輩これって、、」

「間違いない、改造されてる。」



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