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26 王子殿下の誕生日パーティー 2


(許せないわ……あの出来損ないが、シオン様の妻として認められるなんて……!)


 オリビア・ウェストミースは義姉への激しい嫉妬の炎に身を焼かれていた。


 自身に劣る存在として、いつも満たされない心の空白を慰めてくれた前当主の娘。


 救いようがない悪徳貴族とのどう考えても幸せになれない縁談だったからこそ、あの屋敷から出すことを許したのだ。


 将来を期待される公爵家次期当主が相手になるなんて聞いていない。


(私にもチャンスがあったのに……! あそこで私が義姉の代わりに縁談を受けていれば……!)


 悔やんでも悔やみきれない。

 誰もがうらやむ立場になれたのに。


 その上、義姉は魔法の才能を認められ、王立魔法大学で臨時研究員としての仕事もしていると言う。


 驚異的な才能で魔法界を揺るがす王国屈指の才媛――


 そんな評価を聞く度に、怒りで目の前が真っ白になる。


(みんな騙されている。あの性悪にそんな才能があるわけない。だって屋敷の外に出ることさえできなかった無能なのよ。表面をうまく取り繕ってできるように見せてるだけなのに……!)


 加えて、ウェストミース家ではフィーネの評価が高まっていることが新たな悩みの種になっていた。


『あの子が次期当主夫人として世間に認められ、発言権が強くなれば、冷遇していた自分たちの評価が損なわれる可能性があるのではないか』


 内側からウェストミース家を見てきたフィーネは、義両親の行ってきた不正や、相続法に反してフィーネのものである先代の資産を売却したことを知っている。


 もしも彼女が次期公爵夫人としてそれを告発すれば、築き上げてきたすべてが一瞬で失われてしまうかもしれない。


(なんであんな出来損ないのせいで私たちが悩まないといけないの……!)


 オリビアは拳をふるわせる。


(家名を守るためにも、このパーティーで大恥をかかせて、評価を地に落としてやる。調子に乗ったことを後悔すれば良いわ……!)






 慣れない公爵家次期当主夫人としてのお仕事。

 挨拶して顔と名前を覚えるのだけど、幽霊屋敷で幽閉されていたフィーネなので、これが本当に難しい。


(覚えられる気がしない……)


 なんとか特徴を見つけて頭に入れつつ、考えるのは魔法のこと。


「ああ、帰りたい……本が読みたい。魔法の勉強したい……」

『うんうん。弟子が勤勉で僕はうれしいよ』

「一日中ベッドの上で魔導書読んでたい。虚数定理と反安定魔法式の美しさを一日中眺めてたい。本を読みながらお菓子を食べて永遠にごろごろできる人生が欲しい」

『勤勉じゃない……?』


 幽霊さんが困惑する中、頭の中で魔法式を描いて心を落ち着ける。


(ああ、なんで魔法の世界はこんなに綺麗なのだろう)


 すべてが整然とした秩序の上にできている美しい世界。

 それに比べれば、人間の世界は不規則でごちゃごちゃしてて目が回ってしまう。


(社交界はやっぱり苦手だ)


 インドア派のフィーネらしい結論。


(外に出るのは、大学に魔法研究のお手伝いに行くときと、悪いやつを助走を付けてぶっ飛ばしに行くときだけでいいのに)


 アクティブ系ひきこもり気質な自分の性格をあらためて実感しつつ、後ろの方でパーティーが終わるのを待つ。


 今は、王立騎士団の精鋭による演舞が行われていた。

 演舞用の剣を使って見事な剣技を披露する騎士さんたち。


 関係者による余興は、第二王子殿下の誕生日パーティーでは毎年恒例のことらしい。


 王国を代表する舞踏家による伝統舞踊や、高名な軽業師による曲芸など、各々が今日のために準備してきた出し物を披露している。


 最初の方はまったく興味がなかったフィーネだけど、一流の方々が弛まぬ修練で磨き上げた技術には、生で見ると圧倒される迫力があった。


(世の中には私が知らないすごいものがたくさんあるものなのね……!)


 並んで一礼する騎士さんたちに全力で拍手をする。


 この余興が見えただけでも今日は来てよかったかも、とほくほくしながら会場の進行を待つ。


「次に登場していただくのは、王国一と名高いオペラ歌手のクレメンテッリ様の予定だったのですが、流行病により本日は出席されることが叶いませんでした。しかし、彼女の代わりに余興を披露してくださると名乗り出てくださった方がいます」


(王国一と名高いオペラ歌手の歌唱……聴きたかった……)


 すっかり出し物に夢中な一人の観客として落胆していたそのときだった。


「拍手を以てお迎えください! 近頃王立魔法大学で活躍していると話題のこの方――フィーネ・クロイツフェルト様です!」


 頭上を真っ白に染めるスポットライト。

 太陽が近くにあるみたいに暑くて、だけどフィーネの頭の中はそれどころではなかった。


(私余興やるの!? あんなすごい人たちの後で!?)


 大恥確定のシチュエーションに、心の中で頭を抱える。


 注がれる会場中の視線。

 もはや逃げることもできない。


 進行の手伝いをしている貴族さんに案内されて、罪人のような足取りでステージに立つ。


(なんで!? どうしてこうなった……!?)




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tobira
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