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17 塩対応


 翌朝。

 朝食を一緒に食べたシオンの様子は、今までの彼とはまったく違っていた。


 一切の無表情で淡々と食事を進める。


 会話はまるで弾まず、《黎明の魔女》の話にもさして反応を見せない。


(なんという塩対応。完全に心を閉ざされている……!)


 気の置けない友人同士のように話せていた昨日とはまるで別人のよう。


(そりゃ当然よね。あんな、ロマンス小説みたいな痛々しいことをやってしまったのだもの。しかも、私が男性側で……)


 思いだしただけで『いやああああああああああ!』と死にたくなる昨夜の記憶。


 もし時間を巻き戻せる魔法があるのなら、全力で改変したかったけれど、時間遡行は未だ実現されていない未踏魔法のひとつだ。


 しかし、そんな悔やんでも悔やみきれない出来事の後でも、フィーネの心は決して折れてはいなかった。


(くよくよしても仕方ないわ。おいしいごはんに集中して、気持ちを切り替えるのよ!)


 衣食住の快適さに比べれば、人間関係の機微など些細なこと。

 劣悪すぎる環境で育ったフィーネは、常人離れした強靱な精神力と異常なまでに低い幸せの閾値を獲得している。


(ああ、今日もパンがおいしい)


 焼きたてのパンを頬張りながら、フィーネはうっとりと目を細めた。






(なぜうまく話せない……)


 何をやってもうまくいかなかった彼女との朝食を思いだして、シオンは頭を抱えた。


 まるで自分が別人になってしまったかのようだった。


 どう話せばいいのかわからないし、どうして今まであんなに自然体で話せていたのかも思いだせない。


 せめてもの救いは、彼女がぎこちない自分のことを特に気にしていないように見えたことだった。


 まったく同じというわけではないものの、いつも通り幸せそうにごはんを食べていたその姿を思いだす。


 知らない感情への戸惑いから、王宮での仕事中もらしくないミスを繰り返してしまった。


「いいよ。人間らしいところがあるとわかってむしろほっとしてる」


 上司であるコルネリウスはにっこり笑って、指を鳴らした。


「さては、恋をしているな、君」

「してません」


 感情を込めずに否定する。

 他の相手に対してなら、いつも通り接することができるのに。


(俺は何をしているのか……)


 頭を抱え、深く息を吐いた。




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tobira
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