6話 昼食会議
昼休み。
僕は藤根さんと食堂にいた。
一限目が終わった後に藤根さんが僕の教室に来て、昼休みに進藤さんのことで話をしたいと言ってきたんだ。
クラスは違うし、まったく接点のなさそうな僕と藤根さんが話しているのを見て、普段話したこともないクラスメイトからも話しかけられて困った。
それで改めて藤根さんはモテるんだと再確認した。
僕達は二人用の小さな丸テーブルに座る。
昔ならともかく、今は少子化により学生が減ってることもあり、場所にこだわりがなければ席の確保は難しくない。
食堂のメニューは日替わりランチが三種類とそれとは別に麺類、あとカレーがある。
ただ、僕達は二人とも弁当だった。
藤根さんは食堂に設置されている給水機からお茶を汲んできたが、僕の飲み物はマイボトルに入れてきたお茶だ。
僕の弁当は僕の手作りだが、藤根さんのはきっとお母さんが作ったんだろう。
根拠はない。
「おいしそうです」
「そう?」
僕はこんな体なんで外食なんてできないし、市販の弁当もダメなのでもっぱら自炊だ。
お陰で料理の腕は上達したけど、みんなと仲良くご飯を食べるということはなく、披露する機会はなかった。
いや、こんな体じゃなくても披露することはないか。
藤根さんは「一口ちょうだい」という意味で言った可能性もあるけど、今の僕は触れる危険が少しでもあることは避けたいので、こういうシチュエーションで必ずある「食べてみる?」という言葉は出さない。
それはそれとして、周りの視線がちょっと気になるけど藤根さんは気にしていないようなんだよね。
もしかして、実は僕のことを……ってのはないよね。
まだ友達にすらされてないんだから。
……いつ友達に昇格できるんだろう。
僕達は黙々と弁当を口に運び、二人とも十分も立たずに食べ終わった。
藤根さんがお茶を一口飲んで話しかけてきた。
「今朝会いました進藤さんのことですけど」
「うん」
「可能性は一つです」
「可能性って?」
「進藤さんは私達と同じ“ねこの能力者”です」
藤根さんはきっぱりと言った。
「いや、それは」
「間違いないです。だから落書きも“ねこの能力者”の仕業と思ったのです」
「進藤さん、そんなこと一言も言って……」
「思えばあの頭のでっかい子猫、私の夢に出てきた猫に似てる気がします」
「ちょっと冷静に。今の話がおかしいこと気づいてる?」
「どこがです?」
話を中断されて不機嫌そうな顔をする藤根さん。
「進藤さんの名前はシンドウチトセ。“猫”はいないよ」
藤根さんは、はっ!?とした顔をする。
てか、その法則言い出したの藤根さんだよね?
本人が忘れててどうするんだよ?
「そ、それは……そう、偽名なのです!進藤千歳は偽名なのです!」
「藤根さん、声大きい」
幸い食堂は騒がしいのでこちらに目を向けるものは少なかった。
と言ってもゼロじゃないから静かにね。
藤根さんは自分でも興奮しているのに気づいたようで、落ち着くようにと深呼吸をした。
「……おそらく本名には”ねこ”が入ってるのです。間違いないです」
「そうかなぁ」
それに進藤さん、うちの学校の生徒どころか関係者でもないし。
その事を言おうとしたところで、藤根さんが再び、はっとした表情をする。
「どうしたの?」
「怪しいです。偽名を使って近づいてきたということは進藤さん、いえ、進藤を名乗る彼は敵かもしれません」
なんかおかしな方向に話が進みそうだ。
まあ、元々の話もおかしいんだから誤差の範囲かな?
「あの、敵ってなに?」
「敵は敵です。……いいですか、無断で進藤さん(偽名)に連絡取ったりしてはだめです」
「偽名って決めつけは失礼だよ」
「いいです?」
といいつつ、藤根さんは右手を振る。
従わないと”雷撃”を食らわせると脅しているのだ。
「う、うん」
「まさか、もう連絡とったなんてことはないですよね?」
「まだとってないよ」
僕としては、いつもの“発作”が起きなかった理由を進藤さんは知ってるかもしれないので、放課後連絡をとるつもりだったんだけど。
僕の言葉を聞いてほっとした顔をする藤根さん。
……もうちょっと様子見てみようかな。
って思ったんだけど、
「安心しました。性欲……本能に打ち勝てて」
「何度も言うけど、僕、ホモじゃないからね」
「で、進藤(偽名)の能力ですが、」
「スルーしないでよ。あと……」
「まだ私の話が終わってません」
不機嫌そうな表情で僕を見る。
むむ、ホモ扱いされて僕も不機嫌なんだけど!
でも結局、僕が折れる。
「進藤さんの能力?」
「はい。時宗君を一発で魅了したところをみると進藤(偽名)の能力は<ねこの微笑み>ですね」
「魅了されてないから。そうだとしてもそれなら何で藤根さんは魅了されてないんだよ?」
「恐らく私の<ねこの雷撃>が自動防御したのです」
「自動防御って?」
「自動で防御することです」
「そうじゃなくて」
「そうでなければやはり時宗君がホモであるかのどちらかです。どちらがいいです?」
「なんでその二択?進藤さんが能力者じゃない選択もあるでしょ?」
「ありません」
藤根さんはキッパリハッキリ断言する。全く根拠ないのに。
「……まだ午後授業あるのにどっと疲れたよ」
「いつものように寝てればいいです」
「寝てないから。ちゃんと授業受けてるから!」
「カッコつけなくていいのです」
「全然カッコつけてないから!起きてるの普通だから」
「冗談です」
そう言って藤根さんが笑顔を見せる。
く、やっぱり可愛い。この笑顔は反則だよ。
で、その冗談にはホモも含まれるんだよね?
ね?