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ねこが棲む者達  作者: ねこおう
らくがき事件編
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2話 トイレ危機一髪

 帰宅して部屋着に着替えてくつろいでいた時だった。


 ピンポンピンポン!

 インターホンが鳴ると同時にどんっどんっ、とドアが叩かれる。


 一体誰だよ?


 僕はインターホンに出た。


「はい、勧誘ならお断りです」

『私です!』

「えーと、誰です?新手の勧誘?」

「藤根ですっ。二〇三号室のっ」


 ああ、藤根さん、こういう声してたんだ。

 挨拶に来た時、話してたのはお母さんだったもんなぁ。


「どうしたの?」

『いいから早く開けて下さい!』


 なんだろう?この切羽詰まった感じは?

 ……まさかストーカーにでも追われてるとか!?


 僕がドアを開けると靴を乱暴に脱いで部屋に飛び込んできた。

 そのままトイレに駆け込む。

 すぐにドアが開き、


「半径十メートル以上近づかないで下さいっ!」


 そう言ってドアが再び閉まった。


「……半径十メートルって、部屋の外に出ちゃうんだけど」


 僕は藤根さんの言葉を無視し、かと言って完璧に無視すると後でセクハラ認定されて訴えられても困るので出来る範囲で努力することにした。

 テレビをつけていつもより音量を大きくする。

 あまり大きくすると隣人が壁ドンしてくるので気持ち程度だ。


 しばらくしてスッキリした顔で藤根さんがトイレから出て来た。

 と思ったら無表情を装うがその顔は少し赤い。

 で、そのままトイレのドアの前から動かない。


「まだし足りないの?」

「……失礼ですね。あなたにはデリカシーといものがないのです?」


 そんなに匂いきついのかな?

 トイレに美少女補正はかからないの?

 と思ったものの流石に声に出したりはしない。そんな冗談言える状況でも間柄でもないからね。


「それは悪かったね。で、そこにいつまでいるつもり?」

「私の勝手です」

「いや、ここ僕の部屋なんだけど?」

「……私、鍵忘れて部屋に入れないのです」

「じゃあ、途中ですればよかったのに。駅のトイレとか」

「気づいてたらそうしていました。すぐ近くに家があるんです。普通我慢するでしょ?」

「なるほど」

「……私を馬鹿にしていますか?」

「してないよ」


 と言ったのに藤根さんは本心ではないと思ったらしい。


「あなたにわかります!?部屋の前で鍵忘れたことに気づいたときの絶望感をっ!」

「だから馬鹿にしてないって。それでいつまでそこにいるの?」

「お母さんが帰ってくるまでです」


 それってあと何時間くらいなんだろ?


「電話しないの?」

 

 藤根さんの表情が一瞬引き攣ったような気がした。


「……お母さんはまだ仕事中です。こんな事で邪魔したくないです」

「そうか、そうだね」

「……私がいたら迷惑です?」


 藤根さんがちょっと悲しそうな表情で僕を見る。


 本当なら全然迷惑じゃない。

 藤根さんは今のところ性格が謎だけど、美人だしね。

 一気に仲良くなるこんなチャンスを見逃したくない。

 でも、この体質なんであまり部屋にいて欲しくないという思いもある。


 く、この体質でさえなければ……今ほどこの潔癖症を恨んだことはないよ!


「時間潰すならさ、友達んちとかの方がよくない?」

「……そんなのいないです」


 転校して来てから三ヶ月くらい経ってるけどやっぱりまだ友達いないんだ。

 まあ、僕も人のこと言えないけど。


「じゃあ、お母さんが帰ってくるまで待ってる?」

「いいです?」

「いいよ」


 てか、今の流れダメって言えないよね。


「知ってるかもしれないけど、僕ちょっと変な体質なんだ。潔癖症みたいなんだ。って他人事のように言っちゃってるけど」

「知ってます」


 藤根さんは即答した。

 僕の潔癖症は他のクラスにまで伝わっているようだ。


「そう。じゃあ、話が早いね。そういう訳であんまり人を部屋に入れることしないんだ。で、申し訳ないけど出来るだけ物には触らないようにしてね」

「わかりました」


 僕はお客さん用、と言っても全然誰も使ってないけど、の座布団を用意する。

 藤根さんはやっとトイレの前から離れて座布団の上にちょっと足を崩して座った。


「いいですか。一時間は使用禁止です」

「そんなに臭いの?」


 あ、思わず言っちゃったよ。


「……最低です」


 気持ち部屋の温度が数度下がった気がした。


「ごめん。あ、臭い消しスプレーあったでしょ。使っていいよ」

「はい、使い切りました」


 藤根さんはとってもいい笑顔で言った。


 ……使い切った?

 僕の記憶が確かならまだ全然使ってなかったはずだけど。


「冗談です」


 藤根さんはまたもいい笑顔で言った。


 ……後で確認しないと。



「物が全然ありませんね」


 部屋を見回して藤根さんがぼそりと呟いた。


「ほら、僕、こういう体質だか……」

「いつでも夜逃げ出来る様にですね。わかります」

「いや、違うから」

「……冗談です」


 ホントかな?


 特に話す事もなく、時間が過ぎていく。

 テレビだけが喋り続けている。

 出来れば何で僕を尾行するのか話して欲しいんだけど、そのつもりはないみたいだ。


 藤根さんがテレビのリモコンを手に持ち、チャンネルを変える。


 あ、リモコンも後で拭かないと。

 失礼だとは思うけどそう思ってしまう。


「あの」

「何?」

「音とか聞いてないですよね?」

「音?」

「……」


 ああ、まだ気にしてるのか。


「聞いてないよ」

「……もし、ネットで女子高生のトイレの音がアップされてたら雷撃食らわせます!」

「いや、それ、範囲広すぎだよ。って雷撃って何?」

「あ……」

「藤根さん?」


 藤根さんはしまった、という顔をした後、しばらく考えこみ、何か決意したような表情で僕を見た。


「……そうですね。ちょうどいいです。時宗君、あなたにお話があります」

「話って今まで尾行してた事と関係あるのかな?」

「……私の尾行に気づいていたのです?」

「うん」

 

 なんでそんな驚いた顔するの?

 すごく丸わかりだったよ。

 何故気づかれていないと思ったのかのほうが不思議だよ。


「そうですか。実は私はあなたがあの落書き事件に関係しているんじゃないかと疑っていたのです」

「え?なんで僕が?」

「それはあなたが“ねこの能力”の持ち主だからです」


 藤根さんは真剣な顔をしておかしなことを言い出した。


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