ボロアパート
こんなはずじゃなかったのに。
私のせいじゃない…ダメなパパとママが悪いんだよ。
ガラガラと音を立てて日常が壊れていく。
「私だって好きでこんな所に住んでる訳じゃない!なんでこんな…」
嫌な事を思い出した。叫び出したくなる気持ちを抑えてふぅっと息をつく。クラスの子が何か話し込んでいる。こちらにチラッと目をやり私を見たが怪訝そうな顔でどこかへ行ってしまった。
「何でこんな事されるんだろ。」
思わず口をついて出た。この状況が理解出来ない…ついこの間まで仲良く話していたはずのクラスメイトが目も合わせず挨拶もしてくれない。そんな馬鹿なと思いながら何とかしたくて頑張ってみたが、私はみんなの中から消えてしまったかのようだ。
あの台風の日のせいだ。私は友達だと思いたかったのに…。
数日前の夕方に直撃した台風。本格的に酷くなる前に風雨の中を傘もさせずびしょ濡れになって帰った。
学校から近い私の家で雨宿りしようと麻耶が言い出したが私は渋った。…だって私の家ボロアパートだから。
ただのボロじゃない。築何年か聞くのも躊躇われる程で近所でも有名なお化け屋敷と言われるアパート。
窓やドアの建て付けが悪いのなんて当たり前、外階段はいつ崩れるかわからない程錆びて昇るのが怖い。
「ウチの親、仕事でいないし家は無理かな…」何とか諦めてもらおうと言い訳するが
「親いないなら気遣わなくていいじゃん?行こ行こ!」麻耶が言う。
麻耶はいつもこうだ。自分が中心で世界が回っているかのような口ぶりで人の都合を考えない。
嫌いではないが苦手だ。それでも一緒に居れば他の子にいじめられる可能性が低くなるから…そんな打算で友達のフリを続けていた。
「やっぱり私が本当に友達だと思ってなかったのが伝わっちゃったのかな。」
一人部屋の隅に座りこれからの身の振り方を考える。
「ねぇねぇ、麻耶はどうしたらいいと思う〜?」
私は努めて明るく麻耶に声をかけた。
しかし、返事はない。
「ねぇ〜聞いてる?…ってもう返事は出来ないんだった。ごめんごめん。」
すでに焦点が合わなくなり血で染まった麻耶に私は続けた。
「麻耶が悪いんだよ〜。汚い家って馬鹿にするから。親に会わせたくなかったのに強引に入るし。こんなボロアパートに住んでるの知られたくなかったのになぁ。」
麻耶と冷たくなった両親を見て私は頭を抱えた。
「次はクラスのみんなかなぁ。人数多くて面倒だな…でも、何で無視するのか聞かなくちゃ。」
あれから何日たっただろう…?
家に沢山の大人がやってきて私は連れて行かれた。
クラスのみんなに聞きたかったのに。
なんで私を無視するの?なんで一人にするの?
なんでなんでなんでなんで…
だって私は悪くないでしょ?