チートスキルを使うのも楽じゃない
太陽、それは人類に光とぬくもりを与え、人類の繁栄に寄与してきた。そして母なるぬくもりを与える太陽は、荒野を光で染め上げ、氷の様に冷え切った空気を徐々に温めていく。
ここが荒野の宿場町と言う事もあり、旅人や行商人を相手に商売すべく人々はシャキシャキと動く。これから始めるであろう、商売の為に。
そんな活気あふれる街に、たたずむ一軒の宿舎があった。
◇
「うぅっっ、うぁぁ……」
バンシーを思わせる泣き声が、宿舎の裏側から聞こえてくる。
「ううううぅー。どうして、こうなったぁぁぁぁ。神は私を見捨てたのか……」
宿舎裏の庭で、めそめそと泣くアリサ。手元では金たらいで、スカートやソックス等々をごしごし。という事は、下に履いていないかと言うと、そんなことは無い。タオルのようなものを腰に巻いて、暫定的なスカートを作り、ふくらみが見えると言う最悪の事態は避けていた。
泣きべそをかきながら選択していると、小柄な少女が顔を覗かせる。
「あ、アリサ様。おはようございま……何をしているのですか?」
顔や腕に鱗をぽつぽつと生やした少女、ハーフダークエルフのラミラだ。
「ラミラぁぁぁ、聞いてよ。第三の足が酷いんだよ。逆立ったんだよ」
「よくわからないので、何が起きたか教えてください。話すことで、アリサ様の気が晴れるかもしれないですし」
「うん、実はね。朝起きたら催したくなって、洋式便座に座ったの。この世界にも様式便座があるんだーって大喜びをしたのよ、その時は」
さめざめと泣きじゃくるアリサの言葉に、フムフムと聞き入るラミラ。
「でもね、事を済ませようとしたら、第三の足と対面しなきゃいけないじゃない!」
「おっしゃる通り、アリサ様の体は男の娘でも心は乙女ですからね」
「そうなのよ。乙女たるもの、自身の第三の足とはご対面したくないわけよ。どうすれば第三の足とご対面をせず、事を済ませられるか。考え抜いた末、一つの策が思い浮かんだの」
「ほほう、どの様な策なのですか?」
自信満々に語るアリサを前に、ラミラはつい前のめりになる。
「スカートを第三の足に被せたまま事を済ませれば、ご対面せずに済むと。で、実行したのよ」
「う、うん……」
「したらね……事を澄ます直前に、急激に第三の足が逆立ち始めたのよぉぉぉぉぉぉ!?」
アリサのあまりにもポンコツな行いに、少しばかり呆れるラミラ。
「スカートが濡れる前に、沈まれ! 静まれと、必死に、何度も願ったわ。でもね、ダメだったのよ。で、今に至るわけ……今すぐ履く物も無いし、どうすればよいのやら」
さめざめと泣くアリサを前に、困ったなと言う表情を見せるラミラ。この場を納める方法は無いかと、ラミラは必死に思考を巡らせる。
「あ!? クリエイトウェポンで、ご自身のスカートを生成してみては」
「その手があったか! では早速」
解決策が見つかったとなれば、即座に行動。アリサはクリエイトウェポンでスカートの精製をしようとしたのだが、一人の男性が待ったをかける。
「アリサ様。申し訳ありませんが、今すぐスカートの生成を止めてください」
騒ぎを聞きつけたマークは、アリサのクリエイトウェポンを止めるように告げる。彼のキッと険しい表情を見たアリサは、スカートの生成を中止する。
「貴方の言う事だから、理由はあると思うけど……とりあえず聞かせて欲しいな」
「とりあえず、着替えと朝食を終え次第、話しましょう。ラミラ、貴女の私服をアリサ様に」
「か、かしこまりました」
ラミラから私服を借り、アリサはピンチを脱したのであった。
◇
食堂で朝食を終えた、アリサ一行。マークは宿舎の一室を貸し切り、いつものメンバーを集めていた。
「長々とした話は疲れますし、簡潔に話しましょう。何故私が、アリサ様のクリエイトウェポンを止めたか」
マークの言葉を聞き逃すまいと、アリサは耳を傾ける。
「アリサ様のクリエイトウェポンは、武器と言い張れる物なら何でも作成できるスーパーチートスキルなのですが、一つ欠点がありましてね」
「欠点?」
彼女の頭の上に、クエスチョンマークがピン! と浮かぶ。
「アリサ様は、スカート一つにすら伝説級の装備と同コストのマナを使用してしまうのです」
「私はとてつもなない、マナの無駄使いをしようとしていたのか」
「その通り。マナの過剰使用は、死につながりますからね。だから注意してください」
「へ? マナを使いすぎると、死ぬの」
マークの言葉に、アリサの顔はみるみる青ざめていく。
「死にます。マナは、全てのエネルギーの源。魔法の精製から生命活動まで、ありとあらゆるものに使われるものです。もし、それが無くなれば」
「貴女は、マナを限界まで使い切る傾向があります。ですので、ここぞと言うとき以外はクリエイトウェポンは使わないで下さい」
「はーい……」
「そう、落ち込まないで下さいよ」
「だって、異世界に来てチートスキルで無双できると思ったんだよ。でもチートスキルに、使用制限があるって言われたらへこむよ」
アリサは大きくため息をつき、ガックリと肩をうなだれる。
「ですから、クリエイトウェポンを使いこなせるよう特訓をしましょう。場所はあそこです」
マークは窓の外に指をさす。
「お城だ! あそこに行くの!?」
はるか遠くだが、彼女の眼には城下町と城が目に映る。石作りの城に、街並み。昔遊んだゲームで見た、城下町その物だ。
「ええ、オリオール城が、次の目的地ですよ。アリサ様」
こうしてアリス一行は、マークの故郷。オリオール王国のオリオール城を目指すのだった。