第一話。訳あって異世界転生したけど、気が付いたら男の娘に。
「いやあああああああー!?」
古城に響き渡る、可愛らしい叫び声。だが、叫び声に反応するものは誰もいない。
「私の右足と左足の間に、第三の足が生えてるうぅぅぅぅぅ!?」
薄暗く埃だらけの部屋、ひび割れた大鏡に映るはピンク髪の美少女。愛らしい顔、ミニスカートから覗かせるほっそりとすらりとした脚部。美しいというよりは、カワイイにパラメーターを全振りしたと言っても過言でもない美少女だろう。
右足と左足の間に、第三の足さえ生えていなければ。
「ななな何で?私、男の娘の美少女になっているの?」
「そりゃあ、君がそうなりたいと望んだからさ」
「誰?誰か居るの?」
娘?はキョロキョロと周りを見渡すが、古城はシンと静まり返り誰も居ないことは明白。
「もしかして・・・・・・お化け!?」
「ああ、ごめんねー。このままじゃ見えないか。えいっ!」
掛け声と共に、古城の暗がりからフードを被った者が姿を現す。フードが顔まで覆われているため顔を見ることはできないが、声の感じからしておそらく男であろう。
「その姿、気に入ってもらえたかな?君の好みに合わせた身なりにしてみたんだけど」
自らの姿を大鏡で見つめる娘。自身のストライクゾーンに忠実な見た目に、思わず頬が緩む。
ああー、スラリとした手足。ミニスカートからのびる足は、産毛すら見当たらないツルッツルンのお肌。サラサラで腰まで伸びたピンク色の髪。異世界風のお洒落で可愛い衣装。そして、小顔でこの可愛らしい顔!あああー尊いわー。
恍惚の表情見せる娘だが、右足と左足の間の違和感が、意識を現実に戻す。
「一言言っていいかな?」
「どうぞどうぞ」
「何で、私を男の娘にしたのよ! 私は女よ!? 右足と左足の間に、なんで第三の足が生えてるの? 今どきの異世界転生は、生えていなきゃダメなの?」
「おんやぁ? これはおかしいね。君の願望と記憶をたどったら、これが最適解だと思ったのだが。ほら、君がトラックに跳ねられる前に、書物を読みながら、はー尊いわー、この子尊いー、アルの様な、可愛い子に私もなってみたいわーと、言っていたじゃないですか。
んで、完成したのがその体です、良い出来でしょ」
「私が口にした人物を頼りに、この人物を作りだいした? あああああああ!何てことしてくれたの? 私が成りたかったのは、可愛いい女の子ほう。男の娘のほうじゃないから!」
「と言われてもね、君が口にした男の娘を元にしたのだから。文句を言われる筋合いは無いんだけどね」
「ああ・・・・・・何で双子の姉の方じゃなくて、弟の方を口にしてしまったの」
自身の致命的なミスに、ガックリとうなだれる娘。あと少しで、最高でキュートな体を手に入れ損ねたのだから、落胆をするのも無理はないであろう。
「で、トラックに跳ねられた私を異世界転生をさせたのだから、何かさせたいことがあるんでしょ? 言ってみなさいよ」
するとフードを被った男は、片膝をつき頭を垂れる。
「勇者様。魔王に支配され滅びゆく世界を、どうかお救いください」
異世界転生のテンプレキター!
「わたくしはあなたにお仕えする魔法使い、名はマークと申します。以後お見知りおきを、勇者様」
「私の名前、生前の名前は・・・・・・リサ」
「では勇者様のお名前はリサ様でよろしいですか?」
リサは目を閉じ、思考にふける。
リサ。リサは・・・・・・死んだ。トラックに跳ねられて、私は生まれ変わったんだ。
「リサは死んだの。ここにいるのは新しいリサ、だから」
「だから?」
娘は閉じていた眼をカッと開く。その目に迷いはなく、新たな一歩を踏み出す勇者そのものであった。
「私は新しいリサ。今日からはアリサよ!」
「新しいリサ、アリサですね。アリサ様、この命あなたの為に燃やし尽くします。
片膝をついたマークは、アリサへの忠誠を示す為か頭部を覆っていたフードをすっと取り去る。雲の切れ目から現れた月明かりが、マークの姿を鮮明にうつす。金髪のサラサラヘアーに甘いマスク、乙女ゲームで言うの王子様が目の前にいるのだ。
乙女ゲームの王子様キター! 魔法使いのような身なりをしていたから、どんな姿をしているかと思ったけど、フードを取り払ったら王子様じゃない。ああー、こんなイケメンが私に仕えるなんて、夢みたい。魔王を討伐して、マークとのラブロマンス。ラブろーまん、す・・・・・・
自身の第三の足を思い出し、夢ときめく感情から現実に戻されるアリサ。わが身が女性で無く、れっきとした男性である事を思い出す。
「ねーマーク。魔王を倒すという約束守るから、私の体を今すぐ女の子にしてよ。見た目はこのままで」
「いやー。してあげたいのは山々なんだけど、現状では素材がないんだよねー」
先ほどまでの、女王に忠誠を誓った騎士のような振る舞いは何処へ行ったのか。マークは飄々とした喋りに戻ってしまう。
「マーク、貴方どっちが素なの? 胡散臭い魔法使い? それとも王子様? ねえどっちなの?」
「どちらが素なのか? 両方共ですよ。愛しき勇者、アリサ様」
背にしていた壁に追い詰められるアリサ。追い詰めたアークは左手で壁をつき、右手でアリサの顎をくいッと掴む。いわゆる壁ドンだ。
あれ? この状況、私の貞操あぶなくね? 私は男で、マークも男なんだけどなー。いいのかなー、このシチュエーション。