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その4


 なんだか急に先行きが不安になってくる。

 この場でサッと病気を治してあげる→女の子と共に城を出て、冒険に出発すると見せかける→頃合いを見計らい逃げ出す→自由の身となった僕は、地上で自分のやりたい事をやるという、城で働く願いは叶わなくなるものの、完璧な計画を立てていた僕としては、この状況はとてもまずい。


 この場で治すことができない場合、さすがの僕も人の心を持ち合わせているので、病気に苦しむ女の子を無視して逃げ出すことはできない。そもそも仮に大量の汗を用意して女の子に使用したとしても、病気が治ったかなんていますぐ分かるわけではないから、しばらくは女の子と過ごさねばいけないことになる。


 なんだこれは。後から問題点がどんどん出てくるじゃないか。こんなややこしい事態を招いてしまった僕の汗を生まれて初めて憎く思いたくなるが、この汗がなければ僕はここにいないのだから、それは間違いである。


 「お父様、準備が終わったわ!私はいつでも出発できるわ!」

 二人の沈黙がそろそろ気まずくなってきた頃、女の子が部屋に戻ってくる。


 「アイリス‥‥気づいたのだが、体のどこが悪いのかはっきりしないお前にとって、コイツの汗をどこに使ったら分からないからいますぐの治療はむずかしいのだが‥‥‥」


 「それに、最近は病気の症状が治まってるのなら、本当に病気が治ったかなんてすぐにはわからないんですけど‥‥」

 僕は付け加える。言いだしっぺの君が責任を取れ!って感じである。


 「二人とも今更気づいたの!?そこに驚きだわ!私がコイツと入れば、いつでも治療してもらえる訳だし、今すぐじゃなくてもいいじゃない!コイツを連れていくということは私にとって沢山の意味があるのよ!」


 「そ、そうか‥‥それもそうだな。ずっと一緒にいるのなら、今でなくてもいいのか。アイリス、その通りだな。」


 「そうよお父様!色々な事もコイツと一緒なら、できる気がするのよ!私、なにかを感じるの!」


 

 「‥‥という訳で、よろしくね!」



 「カイ!娘を頼んだぞ!お前には期待している。」



 「は、はぁ‥‥‥」


 

 「あ、そういえばあなた、よくこの部屋の扉を開けられたわね!」


 「‥‥?」


 

 「だってこの部屋のドアノブ壊れてて、中からしか開かないはずだったのだけれど‥‥」


 「すんなり開きましたけど‥‥」


 「‥‥そう。まぁいいわ!これからよろしくお願いするわ!」

 

 色々なことが有耶無耶になっている気がするが、とりあえず僕はこの女の子に同行することとなった。


 こんなに危なっかしい女の子ならすぐに怪我をしそうだし、僕の汗が他人に効果があるのかはすぐに判明するだろう。

 他人の怪我に効果がないのら、当然、病気を治せるはずもないので、僕はその場で解雇になるだろうし、割と早い内に終わるのかもしれない。

 心を入れ替えて覚悟を決めて、今の状況に必死に理解する僕だが、この女の子の言う冒険というものがなんなのかは、全く想像がつかない。虫取り程度終わるとはおもえないのだが‥‥‥








 




 そんなわけで、城の人間達と世界一急で、雑な感動の別れを済ませてきたらしい女の子と僕は、城を出てすぐの坂を歩いている。


「あなたの名前をまだ聞いてなかったわね!お父様はカイと言ってたけれど、さっきはコイツコイツ言って無礼だったわね!」


 「いや、とんでもないです。僕はカイ。普通にカイと呼んでください。」



 「さっきからあなた敬語だけれど、年はいくつなの?」



 「18ですけど‥‥」



 「18!?私と一緒よ、敬語なんて使わなくていいわ。私はアイリス、この国の王の娘よ。そして今はあなたのパーティーのリーダーよ!」


 「あの‥‥城にいたときから疑問なんですけど、パーティーってなんなんですか?冒険ってどこに行くんですか?虫取りとか‥‥‥?」


 今世紀最大の驚いた顔である。あなたご存じでないの?の顔である。


 「ほ、本当に知らないの?私のパーティーメンバーになったのが嬉しすぎるために出てくる喜びの表情を消そうと、さっきから何食わぬ顔をしているのだと思ったけれど、あなたのその顔は、聞いたこともないパーティーという単語に困惑していたから発生しているの?」


 「生まれも育ちも地下なんで、地上の常識がわからないんですよね‥‥」



 「敬語は使わなくていいって言ったじゃない!まぁしょうがないわね、私が一から説明してあげるわ!」


 「助かりま‥‥助かるよ。本当に分からなくて‥‥」



 「そうその調子!次敬語使ったら、怒るわよ!」


 オホン‥‥

 アイリスは軽く咳払いをする。話が長くなる合図だろう。




 



 



 


 

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