第八十九話 源獣外装
ヴァイド達がアッティラの剣の操作盤に四苦八苦している頃、クラヴィスとミリューがリファを探しながらも散発的に襲い来る信者達を蹴散らしていたが、とある回廊でミリューがリファの匂いを感じ取り、それからは地下の大広間目掛けて一直線に突き進んでいた。が、大広間の入り口にある扉は固く閉ざされていて、その前にも護衛の傭兵と信者らが10人以上固まっており一先ず柱の陰に潜んで作戦を練ろうとしていた矢先だった。
『いや、やだぁ!……ひっぐ、た、助け、助けて、クラヴィス、ミリュー……!』
クラヴィスには聞こえなかったが常人よりも遥かに聴力の優れたミリューの耳にリファの悲痛な叫びが届いたのだ。その瞬間、ミリューは手持ちの閃光爆裂手榴弾と3つの爆砕手榴弾を取り出し、無言で護衛らの目の前に閃光爆裂手榴弾、扉には爆砕手榴弾を投げつけた。それを見たクラヴィスが慌てて目と耳を塞ぐ。
バガガァアアアン!!
閃光と爆音が轟いた後には倒れ伏した護衛と信者、そして吹き飛んだ扉が横たわっており、それらに見向きもせずにミリューとクラヴィスが大広間の中へと飛び込んでいく。
「「リファ!」」
中に入った二人が最初に目にしたのは手錠で繋がれた状態で力なく横たわるリファとその上に覆い被さるシドの姿だった。それを見た瞬間、ミリューの中で何かが切れた。
本来頭部と尻尾のみを覆うはずのミリューの黒い毛が急速にザワザワと全身へと伸び広がっていき、口内の牙と手の爪が鋭く、長く伸び始める。数秒後には二本足で立つ黒い豪毛に覆われた獣がそこにいた。
獣人は気功術しか使えないため他の種族に比べて不利と思われがちだが、一部の獣人は源獣外装と呼ばれる自身のルーツとなる獣の能力と本能を最大限に引き出し、文字通りの獣となる奥義を使用することができる。爆発的に能力が跳ね上がる反面、持続時間に難があり、またミリューはなによりもその変貌時の見た目を人に見られるのを避けたいがためにこれまでリファの前で使うことは無かったが、シドに組み敷かれ涙を流すリファの姿を見た瞬間に源獣外装を発動させていた。
「グルルルッ……ハァッ!」
ミリューが唸りを上げた直後、黒い閃光となってシドへと飛び込んでいく。
ズガァッ!!
「なっ……速いっ!……これが獣人の奥の手、というやつですか。しかしいつもいつもあともう少しというタイミングで現れますね、あなた達は……」
一瞬でシドの目の前に移動し、回し蹴りを放ったミリューだがそれすらも対応したシドが両腕をクロスさせブロックする、がそのままの勢いでシドは数十メートル吹き飛ばされてしまう。それでも難なく着地し、冷静にミリューの変貌を評価するあたりがシドの底知れなさを否応なく感じさせる。
「フウウッ……リファをお願い」
「ああ、わかった。少しの間だけ凌いでくれ」
リファの介抱をクラヴィスに任せ、ミリューが再びシドに向かっていく。源獣|化したミリューの動きは以前とは比較にならず、全身全てが凶器となってシドへと襲い掛かる。
右の手刀による切り下ろしをバックステップで躱すも左の手刀による鋭い突きが追い打ちをかけ、それも身をよじって避けると今度は右足による蹴り上げが顎を狙う。それを頭を後方に下げて避けると今度は一度上げた右足の踵を頭目掛けて勢いよく振り下ろされ、避け切れずに両腕をクロスしガードするもその膂力により両足が数センチ床に沈み一瞬シドの動きが止まる。そこでシドの背後に一瞬で回り込んだミリューが回し蹴りを叩きこみ、また数十メートル吹き飛ばす。
「むっ……ぐっ……なんとっ……これは……がはっ!」
さしものシドもミリューの猛攻を凌ぎ切れずに再び吹き飛ばされてしまう。その頃クラヴィスはリファの手錠を大剣で破壊し解放していた。
「リファ、無事か……!?」
大広間に入った瞬間のリファの泣き顔を見て何もなかったわけがないとはわかっていてもクラヴィスはそう問わずにはいられなかった。
「あっ……ク、ラヴィス様……?そ、れにあれは……ミリュー……?」
「ああ、遅れて本当に済まない……!まずこのポーションを飲んでくれないか」
「あ、はい……」
リファを助け起こしたクラヴィスが差し出した体力回復薬(BP)と精神力回復薬(BP)をリファが震える手でなんとか受け取り、一気に飲み干す。
「あ、りがとうございます、クラヴィス様。もう大丈夫、です……」
「無理しなくていい!怖い思いをさせて本当に済まなかった……」
全身の震えがまだ収まらないのに無理やり笑顔を作ろうとするリファをクラヴィスが強く抱きしめる。クラヴィスの温もりに包まれたリファの震えが少しずつ収まっていくと同時に、抑えようと必死になって堪えていたものが溢れ出てしまう。
「ふ、ふう、く、クラヴィス様、わたし、痛かったんです。無理やり神力をずっと剥ぎ取られて……。その後、今度はし、シドが……無理やり……ふっぐ、こ、怖かった、怖かったんです……!汚されるって、思ったら……、ふっぐ、ふええっ、あ、あああああ……!」
「分かった、分かったから……本当に辛い思いばかりさせて済まない。もう大丈夫、大丈夫だから」
クラヴィスが泣きじゃくるリファを抱きしめながら優しく頭を撫で続けると、少しずつリファの嗚咽も収まってきた。やがてリファが目を擦って涙を拭い、深呼吸を繰り返して呼吸を整える。
「……すいません、もう大丈夫です。まだシドがいるのに泣き喚いてすいません。身体強化を掛けますのでミリューの援護に入って貰えますか?あとできたらミリューも一度私の元に……」
「……全く、こんなに酷い目に遭ったというのに君は気持ちの切り替えが早すぎると思うよ。でも今はそんなことを言ってる場合じゃないな。今度こそあいつとの決着を付けてくる。待っていてくれ」
クラヴィスが苦笑しつつもリファの頭をポンポンと撫でると、リファはそれを嬉しそうに受け入れる。その姿を愛おしそうに目を細めて見た後、クラヴィスがミリューに加勢するべく駆け出した。




