第八話 転変
「さて、改めて言わせて貰うよ。転変の成功、本当におめでとう!素晴らしい結果だ!」
と向かい合わせに座る金髪の青年、ヴァイドが手を叩きながら満面の笑顔で賛辞を送ってくる。
「はあ、ありがとう……ございます?」
自分自身現状が嬉しいことなのかどうかも自覚していないし、そこまで絶賛されることなのかすらわからないがとりあえず御礼で答える。ただ、聞いた事のない単語があったようなので
「てんぺん、ですか?」
「ああ、まずはそこから説明を始めようか」
ヴァイドが手を叩くのをやめ、胸の前で手を組み、顔を引き締めて語り始める。
「僕が君を見つけた時、既に君は瀕死の状態だった。あの状況ではどんな治療薬を用いたとしても助けることは叶わなかっただろう。それは薬師である君自身も理解していたと思う。」
全く同感だったので首肯する。普通の手段ではどうしようもなかったのは明白なのだから。
「『治療する』ことが叶わない、それならばそもそも別の生物として生まれ変わることができれば君の命を繋げられる可能性がある、と僕は考えた。この別の生物として生まれ変わる現象を≪転変≫と呼称しているんだ」
(転生)して別の生物に(変化)する、それを略して転変、ということか。
「ただこの転変は本来禁術とされていてね。扱える魔術師自体が国に一人いるかどうか、といった割合なんだ。その点君は本当に幸運だよ。じゃあ次はなぜ禁術とされていたのか、だけど……この術は前提条件として≪対象が瀕死でなければいけない≫というとんでもないものでね。しかも成功率が10%も無いときている。こんな術を研究しようとする人間がいたとして、それが倫理観の欠片も持たないような輩だった場合、何が起きると思う?」
「死刑判決を受けた犯罪者を被験体にするならまだいい方で、酷い場合は無差別に人を攫い研究対象として瀕死に追い込む……といった可能性があります」
「その通り。だからこそそういった犯罪を防ぐために禁術扱いとされ、使用には厳しい条件が課せられるわけ。ま、それがなくても特殊な魔道具が必要になるからそう簡単にかけられる術でもないけど。
君の場合は君を害した人物が僕とは全くの無関係で、かつ術の施行に伴う危険性を過不足なく説明し、理解して貰った上での合意ということで条件をクリアできたのさ」
「どういった術でなぜ僕がその術を使って頂けたのかはわかりました。ヴァイド様はその希少な魔術師様、ということで間違いないですか?」
「この国には僕以外にも一応該当する魔術師はいるけどね。では次に、君が≪何に≫転変したのかについて説明しよう」
いよいよ本題に入るようだ。男から女の子になったことからして仰天ものではあるけれども、一応見た目は普通の人間(獣耳も尻尾も翼も無い)に見えるから人族ではあるんだろうなと漠然と考えながら話に集中する。
「まず37歳の男性だった君は10台後半位の女性になった。そして体表の鱗や獣耳、尻尾や翼など亜人種の特徴なども認められないことから人族、と最初は僕も考えた」
(……ん? 最初は?)
「最初は種族はそのままで性別と年齢が変化しただけなのかな、と思ったんだけどね。君の髪と瞳の色、そして≪とある特徴≫を確認してすぐに理解したのさ」
「≪神人≫、それが君の種族だ」と笑みを深めながらヴァイドが告げた。