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第八十七話 フェリクスとの対決


 ヴァイドとグリフィスがアッティラの剣の操作盤に向かい始めた頃、エルハルトと騎士達が散発的に襲ってくる信者や暗殺者らを蹴散らし、時には情報収集しながらリファとフェリクスを探していた。そして先程ようやくフェリクスが祈祷室にいるという情報を得たためそちらに向かうことになった。


 祈祷室の入り口にも護衛はいたがエルハルトが切り捨て、勢いよく扉を開けて中に押し入る。するとフェリクスが部屋の中央に一人で立っていた。


「フェリクス!お前の下らない野望もここまでだ。大人しく投降しろ」


 エルハルトが剣を抜き、牽制しながらも投降を呼びかける。


「おや、エルハルト王子ではありませんか。三千人はいたはずですが、入り口の信者はどうやって排除したのですか?」


「血濡れの戦姫が協力してくれてな。おかげでここに来るまで戦力を温存させて貰った」


「ははあ、成程。誤算は彼女の存在でしたか……烏合の衆とはいえあれ程の数を揃えればあなたの精霊魔術位は使わせられるかと思ったんですがね」


「誤算はお互い様だが、結果は真逆になってしまったようだな」


「そのようですね、ですがどちらにしても同じことです」


 表情を変えないフェリクスが指をパチンと鳴らすと青い煙が室内を満たし始める。


「むっこれは……!皆煙を吸うな!部屋から出ろ!」


 煙の正体が神経毒であると即座に気づいたエルハルトが騎士達に呼びかける。


「で、ですが……王子は……」


「私にはこの手の毒は効かん!普段から慣らしているからな!」


 エルハルトは幼い頃より毒殺を防ぐために少量から毒物を内服し、慣らしていた。そのためこの神経毒に対してもある程度の耐性がありすぐに動けなくなる、ということは無い。そして目の前にいるフェリクスも解毒剤を飲んでいたとしても多少の影響はあるはず。つまり条件は対等のはずだ。そう考え、エルハルトは精霊魔術を起動させようとした……が、全く反応が無い。精霊が呼びかけに答えないのだ。訝しんでいるとフェリクスがくつくつと笑いだす。


「毒が使われるのはともかく、精霊魔術が使えないのは誤算でしたか?」


「なんだと……!?」


「この祈祷室は特殊な結界が貼られていましてね。魔術も魔法も精霊魔術も使えないのですよ。唯一使えるのは気功術のみです。さぁ、ハンデ無しでの殺し合いをしようではありませんか、王太子殿」


「……上等だ」


 エルハルトは精霊魔術に頼らずともそこらの騎士等になど後れを取らないだけの自負はある。こんな優男に舐められるわけにはいかないと久しぶりの気功術による身体強化(フィジカライズ)をかけ、フェリクスに向かって一気に距離を詰めて胸の正中を狙い剣を突き出す。


 キィンッ!


 それをフェリクスがレイピアで弾き返し、返す刃でエルハルトの顔を狙い突き返してきた。あっさりと攻撃を防がれたことに一瞬気を削がれたエルハルトがその反撃を紙一重で躱すも、その後もフェリクスが連続して鋭い突きを繰り出してきた。レイピアは剣身が非常に細く、微妙にしなりがあるため動きが読みにくく全てを躱しきれずに数か所掠り傷を負ってしまう。


「おや、エルハルト王子。精霊魔術の助けが無ければこんなものですか?麒麟児と謳われた貴方も意外と大したことないようですね」


「抜かせ……!!」


 馬鹿にしたような口ぶりのフェリクスに反論するも、正直な所内心ではフェリクスのレイピア裁きには舌を巻いていた。今まで戦ったレイピア使いの中でも間違いなく最強、全ての武器使いでも10本の指に入るほどの腕だ。このまま守勢に回っていては押し切られる、そう判断したエルハルトは決断した。


「はああああっ!」


 勢いよくフェリクスのレイピアを切り返し、相手のバランスを崩す。そしてそれを確認した直後に入口へと駆け出す。


「おやおや、王太子ともあろう者が敵を前にして逃走ですか?」


「いや、これは戦略的撤退というものだ」


 そしてエルハルトが祈祷室から出た瞬間、『ある精霊魔術』を使う。そしてすぐにまた祈祷室へと飛び込み、フェリクスに切りかかる。


「ん?何も変わっていないようにも見えますが、外にいる騎士達から何かアドバイスでも貰ったのですか?」


「いいや、彼らからは何も。だがそこには確かに意味はあったのだろうよ」


「訳の分からないことを……そろそろ楽になりませんか?王太子というのはなかなか重責でお辛かったでしょう?」


「そうだな、確かに生易しいものではない。だが私はそれを辛いと思ったことなど一度もないのだよ」


 祈祷室に戻ってからもフェリクスの優勢は変わらず、中に入れない騎士達もハラハラしながら情勢を見守る。そしてその時が訪れた……フェリクスの猛攻を凌ぎ切れず、ついにエルハルトがバランスを崩したのだ。


「ここまでのようですね、王子」


 ほんの少し失望したような顔でエルハルトの首を串刺しにするべくレイピアを突き出すフェリクスだったが、一瞬エルハルトが赤い光に包まれたと思った瞬間、レイピアが空高く弾き飛ばされていた。


「な、なにが……!?」


 茫然とするフェリクスの隙を見逃さず、フェリクスの両腕、両足を切りつけた上で首元に剣を突き付けるエルハルト。


「精霊魔術の使い手ではないお前は知らないだろうが、精霊魔術による身体強化(フィジカライズ)は一度発動の準備さえ終わらせてしまえばあとは任意のタイミングで発動させることができる。遅延発動(ディレイインヴォーク)、と私は呼んでいるがな」


「わざと隙を作りそこを狙った瞬間に精霊魔術による身体強化(フィジカライズ)に切り替えた、というわけですか……」


「確かにお前は強かった、だが流石のお前でも急に速度が変わった相手に戸惑うのは避けられんだろう。これは奇襲のようなものだからな、一度でケリを付ける必要があったのだ」


「ふ、ふふ、さすがは王子。私の完敗ですよ。この勝負は、ですがね……」


 負けたと自分で言っておきながらも余裕を崩さずくつくつと笑いだすフェリクスを訝しむエルハルトだった……。







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