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第七十九話 白粉と化粧水


 初日から色々あってヘトヘトになり、いざ帰ろうとしたところにグリフィス王子から待ったがかかってしまった。


「リファさん、折角ですのでこの後少しお茶でもご一緒しませんか?」


 良い笑顔でそんなことを言われてもこちらは早く帰りたいんですけど、なんてことは言えず諦めて首肯し会場に特設された喫茶店へと向かうことになる。重い気分でトボトボとグリフィスについて歩いていると、突然横から声を掛けられた。


「ようやく見つけたわよ、リファさん!」


 ……振り返ってみると背が高くてプラチナブロンドの美人さん、ミカエラ王女がそこにいた。


「何度もお茶会のお誘いもしているのにいつも参加されないから全然お話が聞けなくて困ってたのよ!今日こそ色々と教えて貰いますからね!」


 あー、確かにお茶会やパーティーのお誘いは片端から断って貰ってたような気がする。その中にミカエラからのも入っていたのかな。でも教えて貰うって何をだろう。


「お久しぶりです、ミカエラ王女殿下。何分平民出身なのでお茶会とかは苦手で申し訳ありません。何か聞きたいことなどありましたでしょうか?」


「たくっさん!あなたには聞きたいことだらけなのよ!」


「ミカエラ、とりあえず座らないかい?立ち話で長話をするのもなんだしね」


 グリフィスが促してくれたおかげで喫茶店に入り、全員着席した後飲み物とケーキなどを注文する。


「まず聞きたいのは白粉の件なのよ。あれはあなたとヴァイドさんが使用を禁止するように申請したのよね?あれはどうしてなの」


 白粉の件でしたか。あれは確かに化粧としては伸びも良くて美肌に見せてくれるものではあるんだけど、致命的な欠陥があるから審査委員会に中止するよう申し出ておいたんだ。


「白粉はですね。美肌に見せてくれるので昔から女性に好まれてはいるんですけど、実はあれには鉛白という人体に有毒なものが入っているんです」


「有毒ですって!?」


「私もその話は少し耳に入っていました。具体的にはどのような有毒性があるのですか?」


 ミカエラは驚愕し、グリフィスは興味深そうに質問してくる。


「初期にはそれほど目立ちませんが、長く使用していると徐々に体内に鉛が蓄積していきます。すると次第に胃腸に障害が出始めて嘔吐や便秘といった症状が出始めたり造血機能に障害が出て貧血にもなります。更に神経にまで異常が波及し知能障害や脳症といった病気まで引き起こすこともあるのです」


「なんてことなの……」


「あれほど普及していている化粧品にそんな問題があったなんて……驚くばかりですね」


「特に問題なのは生まれたばかりの赤ちゃんなんです。母親が白粉を常用していると赤ちゃんの世話をする際に白粉が赤ちゃんの口から入るのは想像に難くありません。そして赤ちゃんは体重が少ないのでごく少量の鉛でも中毒症状を引き起こしやすいのです。恐らく今までに鉛中毒で命を落とした赤ちゃんの数は数えきれないほどいたと思われます……」


「それは……リファさん達が使用禁止を訴えるのも当然ですね。とんでもない有毒化粧品です」


「そんな話を聞いてしまったらもう二度と白粉を使う気にはならないわね。でもじゃああなた達のそのプルプルした肌は一体何の化粧品を使っているの?」


 白粉の件は納得してくれたみたいだけど、今度は私達の肌が他の女性よりもモチモチしてる理由についてミカエラが聞いてくる。


「ミカエラ王女やこちらのミリューのような若い女性の場合、白粉みたいな悪い所を隠すための化粧は必要ないと私は考えているのです。そこでヴァイド様と一緒に開発したのが化粧水と言いまして、それを付けることで肌を保湿し艶を出すことができます」


「化粧水ですって?それはどういうものなの?」


「フローラルウォーターというものを使用した保湿剤です。具体的には純水とドライハーブを鍋に入れて沸騰させ、それが水蒸気となったものを受け器に集めたもので芳香蒸留水とも呼びます。原料が自然にあるものですし飲んでしまっても害のない安全性の高い化粧品になります。使用するハーブにより効果も色々ありまして、カモミールだと保湿効果が特に強く、ラベンダーだとリラックス効果があり、ローズマリーだと肌を引き締める効果があるので男性にもお勧めできます」


「そんなものを付けていたからあなたたちの肌はそんなにツヤツヤしているのね……」


「もしミカエラ王女がお望みでしたら王妃の分も含めて二本程後で届けましょうか」


「実物を頂けるの!?ぜひお願いしたいわ!」


 ミカエラがとても嬉しそうに身を乗り出してくる。


「化粧水は今ハミルトン領でも量産体制に入っていますのでもう少ししたら王都でも販売可能になるかと思われます。もし気に入られたなら王家には優先して融通させて頂きます」


「そうして貰えると助かるわ!ありがとうリファさん!」


「それは凄いですね。白粉を禁止されて困ってる女性たちのアフターフォローまで考えていたとは、さすがリファさんです。これから化粧革命が起きそうな予感がしますよ」


 この化粧水に関してはヴァイドも同じようなことを言っていた。私自身はあまり化粧には興味を持てないけど、世の女性たちにとっては化粧は死活問題らしい。そこにこの新商品をもってくれば確実に爆発的に売れるだろう、と。


 化粧品も厳密に言えば薬みたいなものだし女性たちが喜んでくれてハミルトン家も潤うならいいのかなと販売に関してはヴァイドに一任している。でも折角だから王族にも売り込んでおこう。確か王妃は流行を作るとまで言われているほど影響力のある方だからその筋から化粧水を広めて貰えるとありがたいな。


 そんなことをのんびり考えていたのだけど、まさかこの化粧水が王都でも爆売れしてハミルトン領の特産品にまでなってしまうとは思いもしなかった……。女性の美への関心は本当に侮れない。



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