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第七十話 二度目の視察


 王や宰相との話し合いの後別邸に戻り、ヴァイドに証拠集めの進捗状況を聞いたところある程度帳簿の不審な点、これまで貴族などに引き取られていった子供達の情報は集まりつつあるものの決定的な証拠と言えるものは揃っていないようだ。

 

 そこで外部からの調査ではやはり限界、とのことでもう一度視察し可能であれば密偵を忍ばせて直接証拠を探すという方針になった。


 ここで問題になったのは誰がその密偵となるかだけど、最初はヴァイドがツテを使ってその手の人間に依頼すると言っていたが、ミリューが「私がやる」と言い出したのだ。視察の時から様子がおかしかったけどやはり色々と孤児院に対し思うところがあるらしい。


 危険なので辞退するように説得しようとしたけど彼女の意志は固く、決して無理はしないことを条件にお願いすることになってしまった。


※※※※


「これはこれは、リファ様。またお会いできてこれ以上嬉しいことはありません!ささ、どうぞ中へ」


 そして数日後、再びレヴァラス孤児院の視察に私達は来ている。グラファーがこれまた嬉しそうな笑顔で出迎えに来て中へと案内された。

 

 前回同様食堂で子供たちの合唱挨拶を聞いた後、おやつなどの差し入れをする。前回は気づかなかったのだけど、よく見ると子供達の中でもごく一部だけは身綺麗で栄養も行き渡っているように見える。その他の子はかなり痩せているので余計に目立つ。この差は一体何なのだろうと思いグラファーに聞いてみるとその子たちは近々貴族らに引き取られる予定で、少しでも印象を良くするために綺麗な服と栄養価の高い食事を特別に与えられているそうだ。

 ここまであからさまな差別を子供たちの前でやるその性根にかなり苛つかされる。ますますこの人が嫌いになった。


 その後前回は見学できなかったいくつかの設備を見た後、院長室でのお話になった。


「いやはや、てっきり次の視察は別の施設を希望されるかと思っていましたが再びこの孤児院を選んで頂けるとは思ってもいませんでした!よほどここがお気に召したようですな」


「あ、はい、そうですね……」


「どうでしょう、リファ様さえよければ善意のお気持ちなどを頂ければ子供達も喜ぶと思われますが」


「あ、私は子爵相当ということにはなっていますが領地もなく薬師としての収入しかありませんので個人的な額でよければ……」


「ええ、ええ、勿論結構でございます。金額の大小ではありませんからな。それはそうと、リファ様は御入信される御気持ちにはなられましたでしょうか?」


「え!?いえ、前回も申し上げましたが私は子供達のために何かしてあげたいと思っただけで信者になる予定は今のところ……」


「それは勿体ないと思うのです!これほどお優しいリファ様が入信されないのは天神教にとって大きな痛手となります。是非とも前向きに御検討下さい!」


 そして何を思ったのかグラファーが私の両手の先を突然掴み、恭しく持ち上げる。


「貴方のような美しい方が入信されたならこれ以上嬉しいことはありません。そしてその暁にはこの、綺麗な手で直接施しを頂きたいのです……!!」


 グラファーが私の手を見る目が完全に常軌を逸していたので背筋が凍り、どうしようもない不快感が全身を襲う。生理的な嫌悪から振り払おうとする前にクラヴィスがグラファーの手を振り解いてくれた。


「院長の気持ちはよく伝わった……だが、女性の手を了承無く掴み続けるのは感心しないな」


「え、あ、ああ、これは大変申し訳ございません。つい興奮しすぎましてな……」


 最後にとんだ目に遭ってかなり気分が沈んだけどあの院長自身も相当な異常者なのかと感じた。その後は孤児院を辞したけど、ミリューだけは一緒ではない。

 彼女は途中で気分が悪くなったので先に帰ったという体裁にしているが実は孤児院内に残り、数日かけて調査を進めていくことになっている。この後私にできるのは彼女が無理せず無事に帰ってくることを信じて待つことだけだ。

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