第六十八話 ティアとカインの日常
先日のエルハルトの猛アタックは一体なんだったんだろう。一応皆には相談しておいたのだけれど、クラヴィスは難しい顔になり、ヴァイドはそんなクラヴィスを見てニヤニヤしたり、ミリューとレイナは派手に舌打ちをしていた。それぞれ何やら対策を練ると言っていたけど何をするつもりなのか少し心配だ。
「リファ様、この位で大丈夫ですか?」
生薬をすり鉢で小っちゃい手で頑張って混ぜていたレイナが聞いてくる。
「うん、ちょうどいい感じだね。それじゃ次はそれにこのウカン草を少しずつ入れながら混ぜてみてね」
「はいっ」
そしてまた混ぜ始める。最近ティアは侍女見習い以外にも薬の調合にも興味が出てきたらしく、私の手伝いをしてくれるようになった。元々ティアは年齢の割にかなりの天才肌なので物覚えがとても早く、一つ教えれば十のことができるようになるといった感じでとても助かっている。
実はレピレプシーと天才には何らかの関連性があるとも言われているんだよね。頭の中の異常放電は決して悪い方にばかり働いてる訳でもないのかもしれない。
「私、リファ様みたいに人を癒して幸せにして挙げられるようになりたいんです。人のお世話をするのも好きですけど、薬を作るのも楽しいです。それにできれば自分の薬も自分で調合できたらいいなって」
「そうだね。人を癒すのも色々な方法があるからね。色々なやり方を試してみてどれが一番自分に合ってるか探っていくのが良いと思う。今はまだ難しいけど薬師になれば自分の薬も作れるようになると思うよ。でも多分、その頃には病気自体治ってるけどね」
「その時は……私と同じ病気の人に薬を作ってあげます!」
「うん、それがいいね。ティアはほんとに可愛くて良い子だね」
あまりの可愛さについつい抱きしめて撫で繰り回してしまう。「きゃーぁ」と悲鳴を上げてるがティアも笑っているから嫌がってはいないようだ。ミリューとはまた違った意味で癒される。既にもう私に関しては癒しの達人だよ君は。
※※※※
「たぁっ!はっ!」
カン、カカンッとカインとクラヴィスが中庭で木剣を打ち合わせている。カインは執事や使用人の見習いをしつつ、クラヴィスの空いた時間に稽古を付けて貰っているらしい。
「ふっ!くっ!……あっ」
カインの剣速が疲れのためほんの少し緩んだ隙に一瞬でクラヴィスがカインの剣を弾き飛ばす。カランッと剣が地面に落ち、カインが力なく項垂れる。
「あー、もう、クラヴィス様強すぎ!全っ然相手にならないよ」
「まだまだ精進が必要だな。そもそも筋力が足りなすぎる。筋トレを倍にするか」
「うえっ!?まじか、あ、いやまじですか……鬼だ……鬼がここにいる……」
稽古を見ていた私に気づいたカインが助けて欲しそうな目で見つめてくる。だがここは心を鬼にしてニッコリ笑って手を振るとカインの目から光が消えたような気がする。クラヴィスに付いていけば絶対強くなれるよ。君は強い子だからきっと大丈夫。そう信じて心の中で合掌しながらその場を離れることにした。
最近のティアの様子をカインに聞いたところ、ここの所は発作もそれほど起きなくなってきているらしい。起きたとしても割と短時間で本人も発作が減っていることを自覚しているのか嬉しそうにしている。本当はもっと良い薬もあるんだけど、今の私では作れないんだよね……だから残念だけど生薬を組み合わせたもので対応していくしかない。そこが薬師としては残念だ。
そんなことを考えながら久しぶりに身体強化の訓練をしていたところ、エルハルトから王との面談の日時が決まったとの報告を受けた。いよいよ正念場だ。




