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第六十一話 二人の処遇


 初めて乗るという馬車の中でカインとティアは物珍しそうにキョロキョロしていたが、別邸に着いた時は二人揃って口を開けてポカーンとしていた。確かにこの屋敷は立派すぎるよね……本邸はもっと凄いんだけど。


「なんだこのでっかい家……城か?」


「お、お兄ちゃん、やっぱりこれおかしいよ。こんなお屋敷の人が私達なんかに用があるわけないじゃない」


 また疑い始めてるティアを見て「ふふふ」とちょっとだけ笑ってしまったけど、まずはナタリーを呼ぶことにする。と呼ぶまでもなくナタリーが玄関まで迎えに来てくれた。さすがナタリー、できるメイドさんだ。


「ただいま、ナタリー。申し訳ないけどこの子達をお風呂に入れてくれますか?事情は後で説明するので」


「畏まりました……随分洗い甲斐のありそうなお子様達ですね。隅々まで綺麗にして差し上げましょう」


「え、え?風呂?なんで?」


「お風呂!?あのお風呂に入れるんですか!?」


 カインとティアはそれぞれ真逆の反応を見せる。流石にティアは女の子だけあってお風呂に興味深々らしい。


「話をするにもまずは体を洗ってさっぱりしないとね。着替えは用意しておくからゆっくりお風呂に入ってきてね」


「えー……風呂なんかいいからティアの病気を」


「何言ってるのお兄ちゃん!お風呂だよ!?貴族様だって一部の人しか入れないっていうあのお風呂に入れるんだよ!私絶対入るからね!」


「わ、分かったよ、入る、入るから……」


 鼻息荒く念押しするティアに根負けしたカインが大人しく従う。うん、これ完全に妹に主導権握られてるね。結論が出たみたいなのでナタリーに二人を風呂に連れて行ってもらった。渋々としたカインと喜色満面のティアの表情が対照的でまた笑ってしまう。


 二人が風呂に入っているうちに今後の対応について皆と相談することにした。ヴァイドとミュリエラもちょうど在宅だったので参加してもらうことにする。


「まずはクラヴィス様、私の我儘で御迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


「いや、あの状況的に君ならああするだろうと思っていたし私は迷惑とは思っていないよ」


「そもそもその孤児の二人はどういう経緯でこの家に連れてきたんだい?」


 さほど興味も無さそうなヴァイドが一応聞いておくか、という感じで質問してきたのでデートの後にカインに財布を盗まれ、追いかけたらならず者と戦うことになったこと、その後妹であるティアの病気に心当たりがあったので落ち着いて話ができるこの家に連れてきたことを説明した。


「ははぁ、成程ね。薬師としてそのティアって子を治療したいってことか」


 さすがヴァイド、分野は違えども研究者繋がりで私の考えもある程度お見通しらしい。


「でもスリの被害者である君が加害者を助けて更にその妹まで治療してあげるとか……お人よしにもほどがあると思うけど」


「リファだから当然」


「リファだからね」


「リファ様ですから」


 ミリューはなぜかドヤ顔で、クラヴィスとレイナは苦笑交じりに合いの手を入れてくる。


「私はお人よしじゃないですよ。ただ目の前で小さい子が手を切り落とされる所なんて見たくなかっただけで、ティアのことも薬師として病気に興味があっただけです。あくまで自分のためにしたことです」


 勘違いされては困るのであくまで自分の我儘でやったことだと念を押しておく。多分この後もっと迷惑をかけてしまうだろうし。そんなことを考えていると、ミリューが隣に座って私の右腕に縋りついてスリスリしてきた。思わず条件反射的に左手で撫でてあげると嬉しそうに微笑んでくれたのでとても気分が落ち着いた。自分でも気づかないうちに緊張していたのを察知して緊張を解してくれたみたいだ。


「ふむ。まあそういうことにしておこうか。でもわざわざこの家に連れてきたってことは治療薬を渡してはい終わりって感じの話ではないってことだよね」


「……はい。ティアちゃんの治療にはある程度の治療期間が必要になると思います。それも年単位で……」


 ここまで言った所で佇まいを正し、しっかりとクラヴィスを見つめ直して話を続ける。


「カイン君とティアちゃんの了解が得られたならハミルトン家で二人を保護、もしくは雇って頂きたいんです。勿論必要経費は全て私が払います。何かあれば全責任も私が取ります」


 最後に深く頭を下げてお辞儀をする。


「私自身この家に御厄介になってる身なのに烏滸がましいことを言ってることは理解しています。それでもそれを踏まえた上でお願いします、あの二人の面倒を私に見させてください」


 言い切った後、沈黙が暫しその場を支配した。誰も何も言葉を発しない。さすがに呆れられたのかなと不安になり始めた頃にクラヴィスが口を開いた。


「リファがそう決めたのなら私は構わない」


 顔を上げるとクラヴィスが優しい笑顔を向けてくれていてほっとする。


「兄上はほんとリファ君に甘いよねぇ。まあ僕も特に反対する理由もないからいいよー」


「この家に子供がいてくれればもっと明るい雰囲気になりそうよね。それに孫ができた時の予行練習にもなりそうだしねぇ」


 ミュリエラがそう言いながらクラヴィスを見た所でクラヴィスが「ブフッ」と紅茶を派手に噴き出す。結構咳き込んでるけど大丈夫だろうか。


「ちょーっと気が早すぎる気もするけどね。何しろ相手が色々と気づいてないみたいだし」


 ニヤニヤ笑うヴァイドを「うるさい、黙れ」と呟きながらクラヴィスが小突く。仲のいい兄弟だなあと二人を見て嬉しくなったのでふふっと笑ってしまった。


 ここまで話をしたところでナタリーから報告があり、二人が風呂から上がって着替えも済んだのでそろそろこの部屋に案内するそうだ。家人の了承もなんとか得られたし、後は本人達に話をするだけだね。







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