第五十四話 称号授与
そんな感じで家族会議が終わった後もなんだかんだとバタバタしていたら、あっという間に褒賞を受ける日になってしまった。そして今まさに謁見の間に入る許可を待っている所だ。前回と違って今日は私が主役だから緊張感が半端ない……前はあくまでハミルトン家のおまけだったけど、今回は私一人なんだよ!……今来たばかりだけど、おうち帰りたい。
そんな私の気持ちなんて汲んでもらえるわけもなく、無情にも扉が開かれた。仕方なく綺麗な赤いカーペットの上を慎重に、転ばないことだけを意識して歩いていく。そして王座の前で跪き、頭を垂れる。
「国王陛下、ご入来」
以前と同じよく通る宣言が聞こえると、それに続いて王座に向かう足音が聞こえてくる。
「よく来てくれた、リファ。面を上げよ」
「はい」
頭を上げると会議室で会った時よりも威厳が随分増している気がした。やっぱり公の場だと態度も違ってくるのかな。余計に怖いんですけど……。
「ハミルトン家所属の薬師、リファよ。先日の近衛騎士団の演習の場において窮地に陥ったエルハルトを救った其方の手際は見事なものであった。一人の子の親として、なによりも王として其方に礼を言いたい」
「光栄至極に存じます」
「其方は以前のレジェンディア侵攻における功績に対しても褒賞を望みはしなかったな。二度にわたり国家に多大な功績を為した者に対し何の報いもしないなど王としては名折れ以外の何物でもない。ついてはこれまでの功績に対する褒賞として、『天神の巫女』の称号を其方に授けようと思う」
ここで貴族達にざわめきが生まれ、波のように広がっていく。「天神の神子だと……?」「そんな称号があるのか」「いや、聞いた事がある。初代は神人だったという噂も……」
やっぱりこの称号のこと自体よく知らない人ばかりのようだ。吃驚するというより何それって感じの反応が殆どだね。
「矮小たる我が身には身に余る光栄ではありますが、有難く頂戴させて頂きます」
「うむ。二百年ほどこの称号を持つ者が現れなかったためよく知らない者も多かろう。余から簡潔に要点だけ話しておこう」
そうして王は天神の神子は強大な力を持ち、国に大きな貢献が期待される者に与えられる称号で初代は神人であったらしいこと、そしてこの称号を持つ者は領地は持たないが子爵と同等の爵位として扱われることを説明した。一代貴族であることにまたざわめきが発生したが領地も無く一代限りということでそれほどの混乱は発生しなくて済んだみたいだ。
「リファよ、この称号を持つ者はその高い能力をもって国家のために貢献することを要求される。今後も精進を忘れずに国家に尽くしてくれることを余も期待している」
「陛下の御期待に添えるよう全身全霊をもって尽力することを誓います」
その後は特に何事もなく退室することができた。もうこんなに疲れる行事に参加するのはこれっきりにして欲しい。寿命が間違いなく縮むよねこれ……。平民のメンタル舐めないでほしい。
「リファ、お疲れ様。凄く格好良かった」
「リファ様、私リファ様にお仕え出来て本当に幸せですぅ!凄すぎですよぅ!」
控室に戻るとミリューとレイナが抱き付いてきたので吃驚しつつも優しく受け止める。
「ありがとう、二人とも。私も二人が傍にいてくれてとっても嬉しい」
「謁見も2回目ともなると大分慣れたみたいだね。立ち振る舞いも随分と堂に入ってたよ」
「ああ、前回とは違い一人で不安だったろうによく頑張った」
「リファちゃんがあんまり凛々しいからエルハルト王子もグリフィス王子も完全に見入ってたわよね。下手にリファちゃんに手を出される前に婚約発表を急がないとね!」
本当に皆優しい人達ばかりで涙が出そうになる。この後は婚約発表に向けての準備に入ることになるそうだ。とは言っても私にできることは殆どないからいつも通りポーション作りに精を出す位しかすることないんだけどね。
そして数日後、私とクラヴィスの婚約発表が王都で行われることになった。




