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第五十三話 家族会議と婚約者


 王族との面談後、家族会議を開くことになった。ええ、当然です。情報の摺合せと今後の方針を相談して決めなくてはいけないので。というわけで、ミュリエラ、クラヴィス、ヴァイドに私、レイナ、ミリューが別邸の居間に勢ぞろいしたところで、


「まずは先日王との面会で言われたこと、そしてこちらから打ち明けたことについて説明するね」


 ヴァイドが司会者として最初に口を開く。


「リファ君がエルハルト王子を助けるためにやむを得なかったとはいえ、その場でBPを作ってしまったことで彼女が製作者であることが知れ渡ってしまった。まずいことにそれが王に確信を持たせたようで直接『神人なのか?』と聞かれてしまったんだよね。そこで仕方なく事情を説明することにした。ただし、『カリス』ではなく、あくまで『リファ』という女性が転変して神人になったことにしている」


「すいません、本当のことを言わなかったのはどうしてですか?」


 レイナがはいっと手を挙げて質問する。


「『カリス』も身寄りがいないとはいえ、それまでの人生で誰とも関わらなかったわけじゃない。もし『カリス』のことが知られればその関係者に危険が及ぶ可能性が高い。それをリファ君は望まなかったんだ」


「私も37年間生きてきてお世話になった方もいれば色々な付き合いのあった人もいます。転変に何の関わりも無いその人たちに害が及ぶのだけは嫌なんです」


「まぁ実際問題『リファ』は僕らが作った戸籍だから情報管理も楽だしね。元々小都市に生まれた平民という設定だから戸籍にあやふやな点があったとしても何とでも言い訳は可能だし」


 王都クラスのきっちり戸籍管理をしている所ならばともかく、小都市や町、村などは戸籍の管理などずさん極まりないそうだ。さすがに貴族は別としても、平民であれば子供の数すら怪しいらしい。


「後は、王からリファ君に『天神の巫女』の称号を授けるって言われたね」


「なにそれ、かっこいい」


 私の隣で引っ付いていたミリューが目を輝かせて私の顔を見上げる。何か物凄い期待されてるけど、正直名前負けしてるからね。『天上の癒し手』と同じで。


「ここ数百年出てなかったけど国に大きな貢献を期待される逸材に与えられる称号で子爵と同じ権限が与えられるという話だよ」


「り、リファ様……遂に貴族になられるんですね!さすがです!」


 今度はレイナが感動して泣きそうになっている。『遂に』って……まるで私がいずれ貴族になるのはわかってたみたいだね。貴族なんて色々面倒そうだし私自身はなりたくないんだけどな。


「リファ君に貴族になって貰うという案は僕らも考えていたけど、あちらも同じ考えだったのは正直ありがたい。一代貴族で領地も無いし基本自由に行動できるのも大きい」


 そうなんだよね、貴族と言ってもしがらみは殆ど無さそうなのはありがたい。でも問題がないわけじゃない。


「ただし、同時にリファ君が貴族となったことで『王族と婚姻関係になる』ことに支障が無くなってしまったことも意味している。とりあえず今のところは王子の恩人ということで猶予を与えられたけれど、このままではいずれ王子のどちらかと婚約することになるだろう」


 そう、平民だった時は身分差を理由に断ることもなんとかできたんだけど、これからはそうはいかない。貴族としての権限を貰う反面、王の意向にはそうそう逆らえなくなる。


「そこでどうするかを相談したい。リファ君、君はどうしたい?」


 ここで私の意見を最初に聞いてくれるヴァイドの気遣いがとても嬉しい。やろうと思えばハミルトン家の決定を私に強制することもできるはずなのに。最初の頃研究対象(モルモット)扱いされていたのが嘘のようだ。


「私は……王族には入りたくありません。もしお願いできるのであれば、以前お話したように暫定的にハミルトン家のどなたかと……婚約して頂ければと考えています。ですが、正直虫のいい話だとも思います。形だけとはいえ婚約している間はその方は結婚できなくなりますし、将来婚約破棄するにしても評判に傷がついてしまいますから」


「そこはあまり気にしなくても大丈夫だと思うよ。クラヴィス兄上も僕も結婚する気は今の所全く無いし。まあアーヴィン兄上だけは女遊びがしにくくなって嫌がりそうだけどね」


 そうはいっても相手の迷惑を考えると気が進まない。これまでも散々迷惑かけ続けてきたのに。


「むしろ私としては貴方達にこそもっと頑張って欲しい所なのだけれどね。アーヴィンは逆にその気がありすぎて一人に絞るつもりもないみたいだし。両極端すぎるのよね、うちの子達は……」


 ミュリエラが溜息混じりにそう言うと、クラヴィスとヴァイドがちょっと気まずそうに苦笑する。


「ははは、耳が痛いね……。とりあえず、リファ君の希望を聞こうか。僕ら3人のうち、誰が良い?」


「……えっ!?」


 正直なところ特定の誰かとは考えていなかったので一瞬頭が真っ白になる。えっ、それって私が決めることだったの……?


「リファは誰とも結婚しない。私と添い遂げる」


「いやいや、ミリュー君。これは王族との婚約を断るための偽の婚約だから。本当に結婚するわけではないよ」


「じゃあ私と婚約する」


「いやいや、君ら同性だからね!?無理だからね!?」


 ミリューとヴァイドが何か言い合ってるけど混乱して話の内容が頭に入ってこない。あぅ、ええと、どうしたらいいんだろう……と、とりあえず3人のことをどう思ってるか考えてみよう。

 クラヴィスはとっても真面目で誠実な人で、ヴァイドは気さくだけど研究しか興味ないマッドで、アーヴィンは女たらしだし……。一番三人の中でまともそうなのはクラヴィスだけど、逆にあれだけ女性にモテる人を偽の婚約で縛るのは申し訳ない。でもでも、ううん……。


「リファ君、もし君が自分で決められないのであれば……私が立候補しても構わないだろうか」


 頭を抱えてであわあわ言ってる私の目の前にいつの間にかクラヴィスが立っていて何か言ってきた……あれ?立候補?何に?

 ますます混乱状態にある私を見たクラヴィスが突然目の前で跪き、私の右手を恭しく持ち上げる。


「リファ君、暫定で構わない。もし嫌でないのならば私を君の婚約者にして欲しい」


 クラヴィスは私の目をじっと見つめながら、そう言った。


「ヒューっ、やるね、兄上」


「あの子ようやく腹を決めたのね、ちょっと遅すぎる位だけれど」


「キャー!あのクラヴィス様が、リファ様と!なんて美男美女カップル……はぁはぁ、鼻血出そう……」


「むぅ……」


 何やら周りでそれぞれ反応してるようだけれど、私はなぜかクラヴィスの顔から目が離せない。混乱して考えがうまく纏まらないけれど、あくまで暫定だしクラヴィス自身が嫌々というわけでないならお願いしてもいいの、かな……?


「え、あ、あの……クラヴィス様さえ良ければ……宜しくお願いします」


 私がそう答えた瞬間、視界の端でクラヴィスが表情は変えずに左手をきつく握りしめていた。






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