第五十一話 王の質問
闘技場での王子暗殺未遂事件から三日経ち、私たちは今会議室で王の到着を待っている。その後の経過を聞くためと、色々な事情をこちらからも説明するためだ。王の到着を知らせる声が上がり、扉が開かれ王達が入室する。
「よく来てくれた、リファ、そしてハミルトン家の者達。面を上げよ」
許可を頂いたので頭を上げ、私たちも促されるままにテーブルの周囲に置かれた椅子に着席する。上座に王族全員が座ると、マティアス王が最初に口を開く。
「まずはリファ、先日エルハルトの命を見事に救ってくれたこと、改めて礼を言わせて貰う」
「勿体無いお言葉でございます」
「謙遜は必要ない。あの状況で其方がいなければ確実にエルハルトの命は失われていただろう。王太子の危機を救ったのだ、後で何なりと褒美もやろう」
「とんでもございません、私は薬師として為すべきことを為しただけにございます。その御言葉だけで光栄至極に存じます」
「本当に欲がないな其方は。褒美に関しては後で決めるとして……確認しなければいけないことがある」
むしろ本題はそっちですよね、わかってます。この数日間ハミルトン家の人達と相談してみっちり質問を予想し回答も用意してきた。後は予想外のことが起きないことを祈るだけ……!
「まずはこちらで調査した内容から説明しよう。エルハルトを狙った賊は4人中3人はアーヴァレストが殺し、残る一人は一旦は生け捕りにしたのだが……牢で服毒自殺した。そのため誰が依頼主なのかは不明のままだ。また救護ボックスのポーション類も演習直前にその殆どが盗まれており、襲撃のタイミングからして周到に準備がされていたのは間違いない」
団長との一騎打ちで疲れ果てた所に毒を盛り、多人数で襲いかかった上に回復用のポーションまで抜き取る、あまりにも手が込み過ぎているよね。黒幕が誰かわからないのが本当に痛いけど……。
「現時点で判明しているのはここまでだが、調査は引き続き行うことになる。何かわかればまた追って伝えよう」
ここでマティアスが一呼吸置き、続ける。
「ここからは余からの質問に答えて貰うことになる。其方がエルハルトに投与したポーションは救護兵から渡された時点では通常のものであった、相違ないか」
「はい、2本とも通常の上級ポーションでした」
「うむ。そして其方はあの場において通常のポーションをBPに変化させた、これも相違ないか」
「はい」
「つまり、BPの製作者はリファ、お前であると。認めるのだな?」
「……はい」
ここまでは予想通り。あんな公の場でBPを作ってしまったのだから否定の仕様も無い。正規の作り方ではないとしても、結果としては同じことだ。
「元々そういった噂は流れてはいたのだが、やはり其方であったか、という印象だな」
マティアスがまたここで一呼吸置く。王も大分前から疑っていたようで特に驚いた様子はないようだ。
「次に、其方は精製したBPをエルハルトに飲ませる際、口移しで行っていたな。あれに関しては何か意味があるのか?」
や、やっぱりそこも聞かれますよね……。恥ずかしさで顔に急激に血が溜まっていくのを感じる。
「お、王子の怪我と出血に伴う体力の低下を鑑みると上級BPでも治癒には至らない可能性が高いと判断しました。そのため、より薬効を高めるためにああいった方法を取らせて頂きました」
「ほう?薬効を高める方法とな」
「は、はい……レジェンディア侵攻の際にBPを同様のやり方で投与した際、患者から強い光が放たれ予想をはるかに上回る速度で治癒が進んだのを確認しています。そのため王子を救うためにその光による治療促進を利用しようと考えたのです」
「なんだと!?お前、前にもあのやり方で飲ませたことがあるのか!?」
「え!?は……はい、一人だけ……ですけど」
「誰だ!?」
「あ、え、あの……」
突然噛みついてきたエルハルトに吃驚し、クラヴィスの方を思わず見てしまう。
「お前か、ハミルトンの嫡子……!」
エルハルトが物凄い目つきでクラヴィスを睨み、それを全く怯まずに強い眼差しで見つめ返すクラヴィス。え?なにこれ、なんで二人が睨み合ってるの。
「まあ落ち着け。しかしそういう理由だったとはな。前例があるのならエルハルトに懸想してああいう行為に至ったわけではないのだな」
「ち、違います!あれは医療行為です。決してそれ以上の意味はありません!」
大慌てて立ち上がり、首を大きく振って否定する。それだけは絶対にない!
「余としてはむしろその方が都合が良かったのだがな。そこまで否定されるとは残念だな、エルハルト」
話を振られたエルハルトが物凄く不機嫌そうな顔してこっちを見てる……。そりゃ嫌だったろうけど治療に必要なことだったんだから仕方ないじゃない。結果的に助かったんだから大目に見てほしいな。
「とはいえ、其方はあの時『賭け』だと申したな。確実にその光による治療促進が得られるとは限らなかったというわけか」
「以前から私の方でも色々と検証していたのですが、通常は勿論、BPも普通に投与しただけではあの光は発生しませんでした。結論としては『BPを私が口移しで飲ませる』ことが条件なのだろう、というものになったのです。ただそれも確認できたケースがレジェンディア侵攻時の1件だけでしたので確証といえるほどではありませんでした」
「成程、確証はなかったが其方としては成功率は高いと踏んでいたのだな」
少し落ち着いたので椅子に座り、首肯する。
「はい、80%以上は成功すると考えていました」
「余から見れば確実に成功することを確信しているようにも取れたがな。なにせ余に『天上の癒しを御覧に入れる』と言い切ったほどだ」
カァッ!と顔がまた熱くなる。そんな恥ずかしいこと言ったっけ。ああ、言った気がする。なんで私あれだけ嫌がってたフレーズを使っちゃったんだろう……。
「あ、あの時はその、ああ言うしかなかったのです。私達医療班が頼りなさそうにしていれば患者やその家族が不安になります。たとえ自信が無くても、助けられる確証が仮に無かったとしても私たちは医療の場では自信に満ちた態度を崩してはならないのです」
「ふむ。余やエルハルトらを安心させる、そのための虚勢だったというのか。非常に堂に入った振る舞いであったがな」
そんな偉そうなものじゃないんですけどね。ただのハッタリでしたなんて言えないし……。
「いずれにしてもあの光が切っ掛けとなり『天上の癒し手』の異名が生まれたのだ。実際に見た者であれば誰もが納得するであろう」
「お、恐れ入ります……」
まずい、ことここに至ってはあの異名が確実に定着する勢いだ……どうしよう。王のお墨付きまで付いてしまったらもうどうしようもないのかな、そんなことを考えて泣きそうになっていると、
「最後にもう一つ。伝承で神人のみが作りえる霊薬は光を帯びていたというが、其方の作るBPも同じように光を帯びている。この点を踏まえるとどうしてもこの疑問が残るのだ」
王が急に顔を引き締めてジッと私の目を見つめながら言葉を続ける。全身の血の気が引き、口の中がカラカラになり、冷や汗が背中を伝う。これはまずい……一番恐れていた、避けるべきだったあの質問がくる……!
「……リファ、其方は≪神人≫なのか……?」




