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第四十八話 天神教と精霊魔法


 パーティー会場から帰ってから行ったのは今回言われたあれこれについての報告だった。王からの縁談攻勢はある程度予想していたとはいえ、フェリクス枢機卿からの質問はあまりにも想定外だったのだ。


「リファ君の作る光を纏うポーションは伝承で神人が作ったとされる霊薬に特徴が似てるからね。BPと神人を関連付けて疑いをかけてくる可能性は考えてはいたんだ」


 え!?そうだったんだ……もしかして全く予想外なのは私だけだったの……?という顔でヴァイドの顔を眺めていると、


「ああいや、あくまで可能性があるというだけで正直腑に落ちない所も多い。何より、言い方からして彼は殆ど確信に近いものを持っている気がする。何らかの筋から情報を得ていると考えた方が納得できる、というよりそれ以外考えられない」


「リファ君がレジェンディアに攫われた時に漏れた情報が巡り巡って天神教に、ということもありえるな」


「そうだね、兄上。領軍の訓練施設(グランチェスタ)での情報規制はしっかりしてるし情報漏れは可能性が低い、となるとそれしかなさそうだ。天神教はレジェンディアにもあるからね」


「あ、あの……あの人は天神教と神人とは密接な関連があるとか言ってましたけど、どういうことでしょうか」


「ん?彼そんなこと言ってたんだ。ちょうどいいからその辺も話しておこうか。ちょっと長くなるから眠くなったら寝てていいからね」


 とヴァイドが僕の隣でうつらうつらと舟をこぎだしてるミリューを見て苦笑する。ミリューも慣れないお洒落とパーティーで疲れてるみたいだ。とりあえず私の膝にミリューの頭を載せて寝させてあげる。頭を撫でてあげると「……ん……」と嬉しそうに目を細めるのがまた可愛い。ほっこりするね。なんかレイナが羨ましそうにしてるけど、これは私の権利だからね!ミリューはあげません!


「さて、それじゃ天神教の話から始めようか」


 ヴァイドの話だとこういうことらしい。天神教は人族における最大規模の宗教であり、その主神はミトラスフィーヴェ、創造神だ。これ自体は特に問題はなく、精霊やそれに連なる者が精霊王セルヴォイドを、魔族が彼らの生みの親とされる冥界の大王オルトエンデを崇めるのと同じ話だ。

 天神教の教義では神人が主神の怒りに触れたために人族に堕とされたとされている。そしてその最大かつ最終的な目的は人族が神の許しを戴き、再び神人へと至ることにある。そのために人族は争いを避け、常に善行を積み続ける必要があると説いているのだ。常識で考えれば転変したリファのような例外中の例外は別として、人族全体を神人に変えることなど夢物語でしかないのだが、天神教の上層部はどうやら本気でそれを考えているらしい。


「そこで問題になるのがリファ君の存在だ。もし君が本物の神人だと奴らが知ったら確実に捕らえて研究材料にしようとするだろう。君を傷つけはしないかもしれないけど一生大聖堂から出られなくなるかもね」


 ……ですよねー。フェリクスの目、何に似てるかと思ったらモルモットを見る研究員の目だったんだ。そもそも人としてすら見られてなかったと思うとぞわっと鳥肌が立つ。


「あ、でも確かエインヘリアル帝国にも神人がいるという噂があると聞いたんですけど……その人は狙われないんですかね」


 フォンタエ大陸にはグランマミエ王国、レジェンディア王国、獣人の国であるミアンデル王国、エインヘリアル帝国の4つの国がある。いずれも敵対関係にはあるが、その中でも最も大きな力を持つのがエインヘリアル帝国だ。そのエインヘリアルに数十年前に神人が現れてから帝国は急激に力を付け始めたという噂があるのだ。


「ああ、確かに有名な話だね。ただ実際にその神人の存在が確認されたことすらないし、そもそも帝国では天神教は宗教として認められてないから奴らも表立っては干渉できないのかもしれない」


「逆に言えば、現状狙われてるのは私一人というわけですね……」


「御愁傷様、としか言いようがないね……。僕らも出来る限り目を光らせるけど君自身も十分気を付けてね」


 現状を理解してますますグッタリですよ。もう寝たいけど一応近衛騎士団の演習についても聞いておこうかな。


「わかりました。そういえば、今度近衛騎士団の演習を見に来いって王子に言われたんですけどどんな感じなんでしょうか」


「ああ、近衛騎士団ね。王国最強と謳われる騎士団だよ。グランマミエは王が率先して最前線で戦う国だからそれを守る近衛騎士団も当然強くあらねばいけないというわけだね。そして現団長であるアーヴァレスト・クラスタは歴代最強であり王国最強の剣とも言われている」


「それはまた、物凄い人なんですね……」


「そしてエルハルト王子はそのアーヴァレストからも認められるほどの腕を持っているんだ。多分君に演習で良いところを見せたいんじゃないかな」


「え、王子ってそこまで強いんですか?」


「(あ、良いところを見せたいってところはスルーなんだ……ほんとに興味無いんだね)グランマミエの王族は精霊に愛されてるから精霊魔術を使える人が多いんだ。今はマティアス国王とエルハルト王子、そしてアーヴァレストが使い手とされてるね」


「え!?でもアーヴァレスト様は王族ではないのでは?」


「数代前の王弟で王位継承権を捨てて公爵となった人がいてね、その子孫が彼なんだよ。だから王族ではないけれど血統的に精霊に愛される素養があったってわけ」


「つまりその精霊魔術が使えるからアーヴァレスト様もエルハルト王子も強いというわけですか」


「勿論剣技とか色々あるからそれだけじゃないだろうけどね」


「だが精霊魔術自体は非常に強力だからそれを使えるだけでも相当な強みになるだろう」


 ヴァイドの話だと魔術も精霊魔術も扱える人自体が少ない分、とても強力な力を持っている。ただ魔術と精霊魔術の違いは魔術は己の精神力だけを糧にして様々な事象を引き起こすのに対し、精霊魔術は契約している精霊に補助して貰って事象を引き起こすため少ない負担で済むという利点がある。ただし、契約している精霊の格によって出来ることの範囲が大きく変わるため良くも悪くも精霊次第、という見方もある。


「多分その演習で初めて精霊魔法を見られるんですよね、それは楽しみです♪」


「ただの見学で終わればいいんだけどね。何が起きるかわからないから用心だけは忘れないようにね」


「勿論私達もリファ君の護衛に当たるつもりだ。何があろうと君を傷つけさせはしないから安心してくれ」


 ヴァイドとクラヴィスが心配して念を押してくれる。一通り話も終わり、さすがに私も眠くなってきたので御礼を言ってからミリューをお姫様抱っこで寝室に連れていき、一緒に寝ることにした。またレイナが何か言ってたけどミリューが起きないんだから仕方ないじゃない。今日はほんとに疲れたからよく眠れそうだ……。





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