第四話 襲撃
ミリューの笑顔を初めて見られたことでとても満たされた気持ちになり、ホクホク顔で寝床についたのだけれど、そんな気分など吹き飛ばすかのような騒音で飛び起きることになる。
ガン!ガン!という騒音が玄関のドアから聞こえてきたので慌ててベッドから降り、自衛用の警棒を引っ掴んで二階のミリューの部屋に向かって階段を駆け上る。
「ミリュー!!起きてるか!」
部屋に駆け込みざまに問いかけたが、既にミリューは起きており身支度を整えていた。
「ん、あれだけうるさければ起きないわけない」
こんな時でも冷静というか無表情なミリューに不思議な安心感を覚えながらも、
「多分ミリューを探しに来た連中だと思う。心当たりは?」
「ある。私が大人しく出ていけばいい。カリスはここに隠れていて」
「それは駄目だ。そんなことをすれば間違いなくミリューは酷い目にあう、そうだろう?それにもし連中が目撃者を消すように言われてたら僕も無事で済むわけがない」
「じゃあどうする?私一人じゃあいつら全員倒すのは難しい」
「簡単なことだよ。倒すのが難しいなら……逃げればいい!」
本当は恐怖で手も足も震え始めてるのだけど、少女を前に大人の男がみっともないところを見せられないので気勢を張って無理やりに笑顔を作り自信ありげに言い切る。
ミリューは僕が震えてることに気づいてるはずなのに、笑うこともなく一瞬ジッと僕の顔を見つめた後、珍しくはっきりとした声で告げた。
「わかった……カリスは私が護る」
「いや、そこは男としては僕が護るって言いたいところなんだけど……多分ミリューの方が強いだろうし……宜しくお願いします……」
自分で言っててちょっと情けない気持ちになったが、いつ連中がドアを破って踏み込んでくるかわからないのでこれからは時間との勝負になる。体裁なんて取り繕ってる場合じゃない。防災用にあらかじめ準備しておいた非常用袋と財布を掴み、ミリューと一緒に裏口から出ることにした。
賊が裏口の方にも張っているのは目に見えていたのでまずはそちらをなんとかしなくてはいけない。二人で相談し、戦闘に自信があるというミリューが先に出て、僕はその後を付いていくことになる。
「いい?カリスは自衛のため以外に一切武器を振っちゃダメ。攻撃なんて論外」
「体はそこそこ鍛えてるつもりではいたんだけど、戦闘経験はからっきしだからなぁ……出来るだけ大人しく付いてくよ」
「ん、それじゃ……行く!」
ミリューが勢いよく裏口のドアを開けた途端、二人の黒装束の賊がナイフ片手に襲い掛かってきた。
背の高い男が右手に持ったナイフでミリューを刺そうと突き出してきたが、気が付いたらミリューはその男の懐に踏み込んでいて右手で男の下顎をかち上げていた。
「うがっ」
脳を揺らされた男は一瞬悲鳴を上げた後白目をむいて昏倒する。背の低い男はそれを見向きもせずミリューに向かってナイフを横薙ぎに振るう。ミリューもナイフを両手に持ち、応戦する。
あまりの剣戟の速さに正直全く目が付いていけないのでボーっと眺めていることしかできなかったが、「グッ」というくぐもった声と共に剣戟が止まる。
よく見るとミリューの右手に持ったナイフが賊の胸に刺さっており、ナイフが抜かれると同時に賊は崩れ落ちた。
「ミリュー、大丈夫か?怪我してないか?」
「……ん、大丈夫。カリスは手出さなくて正解。早くここから離れる」
そう言い、裏口から出て駆け出したミリューを慌てて追いかけた。