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第四十三話 消毒と麻酔


 初日から色々なことがありすぎたけれど、その後の薬学部での講義は割と恙無く終えることができた。油断した頃に時々グリフィス王子やミカエラ王女からのちょっかいがあるのが大変だったけど。例えば……


「こういった理由で傷を負った際にはまず綺麗な水で表面を洗い流すことが何よりも大切です」


「リファ講師!創傷に対してはまずアルコールや薬草を用いた消毒をというのが通説ですがそれではいけないのでしょうか?」


 グリフィスがまた目をキラキラさせながら質問してくる。


「え、ええとですね。観血的な処置を行う場合に傷が無い状態で前もってアルコールなどで消毒する分には問題ありません。ですが、既に傷を負っている場合、傷口にアルコールなどの消毒薬を振りかけるのは悪手となります」


「それは、どういった理由からですか」


「通常私達人間は体の表面を皮膚で覆われていますが、この皮膚というものはとても丈夫なものです。それは動物の皮を様々なものに加工して利用している私達自身がよく知っているはずです。この皮膚がある状態であれば消毒薬を塗りつけても問題はほとんど起きません。ですが、傷口はその皮膚が失われており、脆弱な粘膜や筋肉、場合によっては重要極まりない臓器がむき出しの状態になっているわけです。そこに消毒薬をかけてしまうと、あまりにも強力すぎて逆に傷口を『薬で焼いてしまう』のです。極端な例ですと昔は傷を負った場合傷口をの炎で炙っていましたが、その炎を消毒薬に置き換えるとわかりやすいかもしれません」


「なるほど、消毒薬は皮膚で覆われていない所には向いていないというわけですね」


「はい、その通りです。そして法術で作られる水は純水であり、とても綺麗な水ですので傷口を更に痛めつけるようなことはありません。水で洗い流して血や汚れを取り去ることで傷口をよく観察し、更に感染症を防ぐことにも繋がるのです。ですから傷口を見たらまずは水で洗い流す、これを徹底して頂きたいと思います」


「素晴らしい提唱です!リファさんが治療テントで水の法術を駆使していたというのはこのためだったのですね!」


 といった具合に感激したグリフィスが盛大に拍手をしてきて恐縮させられたり……またある時は……


「こういうわけで、体内に入った異物は出来るだけ早く摘出する必要があります」


「リファ講師、その摘出の際には耐え難い苦痛を伴うと思いますがそれに関してはどう思われますか?」


 今度はミカエラが口許に扇を当てて絡んでくる。


「ごく小さな傷の処置であれば別ですが、深く入り込んだ矢じりを摘出したり大きな傷を縫合するような場合は鎮痛処置、具体的には麻酔が必要になりますね」


「麻酔といっても麻薬をすり潰したものを患者に飲ませるのでしょう?そんなものを飲ませる余裕のない場合は如何なされますの?」


「いえ、そういったものを飲ませる必要はありません」


「なんですって!?じゃあ一体どうやって麻酔をかけるというのですか!」


「麻酔は飲むものだけではありません。このエンテル草をすり潰し、その汁を布にしっかり染み込ませた上でこの瓶に入れます。蓋をして暫くすると瓶の中に麻酔成分を含んだ空気が充満するので、瓶に付いているこの小さい方の蓋を外して患者の口に差し込み中の空気を吸ってもらいます」


「飲むのではなく……吸うですって!?」


「はい、飲むというのは意外と負担がかかる行為なので重傷を負った人には難しい場合がありますし、飲めたとしても薬が体内に吸収されるのに時間がかかります。その点、この吸入麻薬は呼吸に合わせて体内に入れることができ、薬効が現れるまでの時間も短く、副作用も少ないという利点があるのです。ですので今後はこの吸入麻薬の使用を推奨して頂きたいと考えています」


「あ……あまりにも突拍子が無さすぎますわ……貴女一体何者なの……?」


「近いうちに薬物審査委員会に吸入麻酔薬について詳細を報告する予定です。詳しくはそちらを御参照いただければ幸いです」


 ミカエラは唖然としていたが、その横でまたグリフィスが目をキラキラさせて拍手していた……。喧嘩腰にこられるのも困るけど、期待されすぎるのも色々重いんだよ、グリフィス王子……。

 平民のメンタルの弱さを舐めちゃいけません。もうやだ、おうち帰りたい。






ちょっとモチベーションが落ちてしまったので予定より早く完結させることになりそうです。

気が向いたら一日2回更新するかもしれません

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