第四十話 王族の挨拶
そんな訳で王都に向かうことに決まったわけだけど、今回は前回とは違って1カ月位滞在する予定なので、数日かけてしっかり準備を整えた。同行メンバーはミュリエラ、クラヴィス、ヴァイド、ナタリー、レイナ、そしてミリューと前回の時とはアーヴィンとミリューが入れ替わった形になる。ヴァイドはともかくクラヴィスは師団長なのに長く留守にして大丈夫なのか心配になったけど、きちんと申し送りと保険はかけてるから大丈夫、とのことだった。いつも迷惑かけてすみません。
特に何事もなく王都に着いたのはいいのだけど、なぜかそのまま王城に向かうことに。なんでも王の依頼で来たわけだから、まず王に挨拶をしておかないといけないらしい。また王族に面会すると思うと胃が痛くなる。おうち帰りたい。
前回の時は謁見の間だったけど今回は少しカジュアルに会議室での面会になる。あくまで報告するだけなのであんなに広い部屋で人を集める必要はないとの判断だそうだ。私たちが先に会議室に入り、片膝をついて頭を垂れ、王の入室を待つ。そして扉が開き、王が入室されたようだ。
「よく来てくれた、ハミルトン家の者たち。面を上げよ」
「はっ」
頭を上げると、王と王妃の他に明らかに王族と思われる服装の男性二人と女性一人がいる。
「此度はそちらの薬師、リファの臨時講師就任の件を引き受けてくれて助かった。礼を言う。学長に随分前から是非にとせっつかれていてな」
「勿体ないお言葉です、恐悦至極に存じます。微才で不勉強な身ではありますが、少しでもお役に立てるよう尽力する所存です」
「それほど畏まることは無い、レジェンディア侵攻での活躍を鑑みればそなたの非凡さは誰が見ても明らかだ。その英知と技術をぜひポラリス学院の学生達に伝授してやって欲しい」
「可能な限り陛下の期待に応えたいと存じます」
「うむ。それからもう一つ。折角王城に来てもらったのだ、余の子供らがどうしてもそなたと挨拶がしたいと申してな」
マティアスが促すと、向かって右に立っていた男性が一歩前に出る。
「ミラハルト・ラグネア・グランマミエ、第一王子だ。お前がリファか、天上とはよく言ったものだな。講義は私も聞かせて貰うつもりだ、楽しみにしておこう」
サラサラの銀髪に碧の瞳、そして長身で物凄い美形の方だ。王族の遺伝子の優秀さを体現したような見た目ですね。クラヴィスもとんでもない美形だけどそれ以上かもしれない。でもなんだかちょっと小馬鹿にされているような気もする。そもそも『天上』とか私が自称したわけじゃないんだけどなぁ。
とりあえず「宜しくお願いします、お手柔らかにお願いします」と無難に答えておく。次にマティアスの向かって左に立っていた男性が一歩前に出る。
「グリフィス・ラグネア・グランマミエ、第二王子です。お会いできるのを楽しみにしていました。リファさんの講義、必ず聞きに行きますね!」
こちらは巻き毛の金髪に碧の瞳で整ってはいるけど童顔で背が低めな方だ。王子様にしては人当たりの柔らかい感じだけど、やっぱり講義聞きに来るんですね……王族に聞かせるような内容じゃないのに……。とりあえず「ありがとうございます、宜しくお願いします」と答えた。そしてグリフィスの左に立っていた女性が一歩前に出る。
「ミカエラ・ラグネア・グランマミエ、第一王女よ。あなたがリファさんね。平民とは思えないほど綺麗な方だと聞いてはいたけれど想像以上で驚いたわ。今度その美の秘訣について色々と教えて下さらない?」
長身で長いプラチナブロンド、蒼い瞳でスレンダーなスタイルの顔が濃いタイプの美女だ。なんとなくあまり良い印象を持たれていない気がする。美の秘訣とか言われても何もしていませんと正直に言う訳にもいかず、「ありがとうございます、機会がありましたら是非」と答えておいた。
色々な意味で濃い方ばかりだった、さすが王族。この後は別邸で一休みしてからポラリス学院に向かうとのこと。学長と挨拶して学内を案内して貰うそうだ。本当は卒業生だから案内なんて必要ないのだけれどね。
後で聞いた話だとミラハルト王子は24歳で文武両道の物凄い自信家で超絶的に女性に人気があるらしい。そりゃ王太子であの見た目だから当然と言えば当然なのだろうけれど。更に騎士としての腕も近衛騎士団長のお墨付きとされる位だそうだ。
グリフィス王子は20歳でポラリス学院に通っており、学生でありながら既にいくつもの論文を発表するほどの天才らしい。ただヴァイドに似たタイプらしく、研究に集中しすぎて寝食を忘れてしまい周囲を困らせることが度々あるそうだ。私の講義も学者として興味津々らしい。
ミカエラ王女も16歳でポラリス学院に通っているけれどこちらはお洒落や社交を深めることに余念がないらしくあまり勉強には身が入っていない、と聞いている。そしてかなりの我儘さんのようだ。
気を取り直してまずは学長と会って、それからしっかりと講義の準備をしないといけない。私が失敗したらハミルトン家の人達に迷惑がかかる。頑張らないと!




