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第三十八話 戻ってきた日常


 チュンチュン……チチチチ……チュン!


 どこからか鳥の囀りが聞こえてくる。少しずつ意識が覚醒し、薄目を開けると辺りは明るくなっており朝なのだと気が付いた。眠気はまだ残っているがお布団の誘惑になんとか逆らい掛布団を捲ると、胸元にとても暖かい生き物がへばり付いているのに気づく。黒髪に黒い耳、黒い尻尾のある少女、ミリューだ。ミリューの体温は私よりも高く、太陽のような良い匂がするので思わず抱きしめ、頭を撫でてしまう。「……ん……」とほんの少し身をよじってから更にギュッと私にしがみついてくるのが本当に可愛い。


「おはようございます。リファ様、今日も良い朝ですね。ってあーーーーー!」


 ノックの後入ってきたレイナが私を見た途端叫びだす。吃驚したのかミリューの尻尾がピーンと伸びてこれもまた可愛い。


「……ん、レイナ、うるさい……」


「ミリュー!あなたまたリファ様のベッドに入り込んで!一緒に寝ていいのは初日だけだって話でしょう!?」


「そんなことは知らない。一緒に寝たいから寝た。それだけ」


「そ……それだけって……リファ様だって迷惑でしょ!」


「リファ、めいわく?」


「ううん、全然」


 首を振って即答するとミリューが嬉しそうに笑う。


「リファ様はミリューを甘やかしすぎです!普通護衛は主と一緒には寝ません!」


「そうですね、普通は致しません」


 いつの間にか部屋に入ってきたナタリーがミリューを私からゆっくりした動作で引き剥がす。さすがにミリューもナタリーには逆らえないようで大人しく離されてしまった。


「むぅ。もう少しリファを補充したかったのに」


「リファ様はお忙しいのです。ミリューも顔を洗ってきなさい」


 感情的なレイナには反論できても常に冷静なナタリーはちょっと苦手らしい。ミリューは少し口を尖らせながらも「また後で」と手を振って部屋を出て行った。


「レイナ、あなたもあまり感情的にならないように。そんなに羨ましいなら今度あなたが添い寝をお願いしたらいかがですか」


「なっ!なっ……なにを仰るんですかナタリー先輩!わ、私はそんな、そ、添い寝なんて……(ぜひお願いしたいです!)」


 レイナが顔を赤くしてなにかボソボソ言っているけれど、『レイナは羨ましいんじゃなくて真面目なだけだよね?ちゃんとわかってるから大丈夫!』という意味を込めて笑顔で頷いておいた。

 ナタリーがこんな冗談を言うのは珍しいなと思いながらもそろそろ起きないとまずいので私もベッドから下りて顔を洗うことにした。


 誘拐事件から2週間程が経ち、ようやく心身共に落ち着いた気がする。何よりもずっと心配していたミリューとまた無事再会できたことが大きい。転変してから何かが欠けている気が常にしていたのだけれど、ミリューと再会した時にその何かがピッタリと埋まった、そんな風に感じる。ちょうどその時から急激に女性化が進んだみたいで最近色々な人に女性らしくなったと言われる。いつの間にか一人称も『私』と自然に言えるようになったしこれがヴァイドの言ってた新しい性別に馴染むってことなのかな。女の子特有の、月に1度くる『あれ』だけは来てほしくなかったけれど……あれほんとにお腹痛くて辛い。男の時は無くて幸せだったなぁ。


 ミリューはミリューであれから色々あったと聞いた。川で流された後フランセル市で知り合いの鍛冶師の所で暫くお世話になってたらしい。その人が実はかなりの実力者で修行もつけて貰ったから前よりもずっと強くなったって胸を張ってたっけ。でもあの時は聞けなかったけどまさか物心つく前から奴隷にされていた上に暗殺者集団に買われて、挙句に大好きだったお姉さんを殺されたなんて……予想より遥かに残酷な境遇に涙が止まらなかった。今後のことも相談したけれど、ミリューはもう身寄りもいないし私の傍にいたいと言ってくれたので快諾することにした。今は同性でもあることだし、これからはお姉さんの代わりにミリューを見守っていきたいと強く思う。


※※※※


「しかしリファさんの加護は途轍もないですね。」


「視力も上がってるみたいで物凄く狙いが付けやすくなってます。一度に数本射っても殆ど威力が減衰しないのが凄すぎですよ」


「はっはぁ、槍が軽すぎてたまんないぜこりゃ」


「しかし、逆に気功術による強化と効果に差がありすぎて慣れておかないと体に振り回される恐れがありますね」


「ですね、それに時間制限もありますから使いどころを間違えないようにしないといけませんね」


 アーサー、グラム、ルイスが楽しそうに天神の加護を受けた状態で訓練をしている。最近は領軍の訓練施設(グランチェスタ)で天神の加護による身体強化(フィジカライズ)を他人に掛ける訓練に力を入れ始めているのだ。


 ケフィカの時はなんとか自力で倒せたけれど、あれはケフィカが飲んだくれて訓練も碌にせず鈍っていたからというのが大きい。シドには一瞬でやられたし、ある程度の力量のある相手なら私が身体強化(フィジカライズ)をかけてもまず太刀打ちできないことを痛感した。というわけで、自己ではなく他者の強化に力を入れることにしようとヴァイドと相談して決めたわけだ。


 最近の検証だと強化倍率は3.5倍、持続時間は自己で1時間、他者で48分にまで加護は成長しているけれど、ここ暫くは頭打ちになってしまった感がある。後は神力の絶対量を増やして加護をかけられる人数を増やすのが目標になるかな。ヴァイドに聞いた話だと誰でも訓練すれば使える気功術による身体強化(フィジカライズ)はおおよそ1.5~2.5倍、魔術や魔法による身体強化(フィジカライズ)はおおよそ2.5~3倍らしい。騎士のほとんどは気功術に頼ることになるから私が強化するとその2倍位強くすることができる。

 問題は大分増えた今の神力でも一度に掛けられる人数が30人と中途半端な数だということ。もし戦争で役立てたいのなら100人単位は掛けられるようにならないと厳しいとヴァイドが言っていたので今後も神力をガンガン使って増やしていこう。


 そんな感じにBPを製作したりソフィーとお茶したり、クラヴィスとケーキを食べたりレイナとミリューの喧嘩(基本レイナがミリューに絡んでいくだけであまり相手にされていないけど)を仲裁したりと割と穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、ハワードがまた爆弾発言を夕食の席でかましてくれた。


「リファ君、すまないが君にポラリス学院の臨時講師として働いてもらうことになった」


……どうしてそうなった……



第二章は王都編になります。医療系のネタが一気に増えていきます

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