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第三話 触れ合い

 

 獣人の少女、ミリューを保護してからはや1か月。危惧していた面倒事に巻き込まれるようなこともなく、ミリューの怪我も順調に回復していた。痩せ細っていた体躯も栄養バランスを考えた食事を三食与えたことで、今では痩せ気味ではあるがほどほどに肉付きの良い健康的なものになっている。

 右腕の添え木も外し、今では問題なく体を動かせるほどになっているようだ。

 ミリュー自身が無口な方なのもあり、彼女の名前しか知らない状態のままであるが、僕は特に問題があるとは考えていない。可愛い獣耳少女と一緒にいられるだけで幸せだからだ!

 名前以外の事情については何も聞いていないが、一月も一緒に暮らせばどういった子なのかはさすがにわかってくる。基本的に無駄なことは一切喋らないが、逆に言えば必要なことはしっかり端的に述べてくれる。「朝、起きる」、「お風呂、入る」、「これ、美味しい」といった具合に。


 事情が事情だけに彼女を人前には出せないが、掃除や食事の用意なども特に何も言わずに手伝ってくれるし「ありがとう」と頭をそっと撫でると「ん……」と嬉しそうに目を細めてじっとしてくれる。いつまでも撫でていたいがそうもいかずに手を放すと、「あっ……」と名残惜しそうに僕の手を見つめてくれる所もまた可愛すぎて辛い。

 そもそもが可愛さの塊のような存在なのだ。幼げな外見ながらも少女らしい丸みを帯びた手足、そしてふさふさの黒い毛に覆われた獣耳に尻尾、更に性格も大人しく実は甘えん坊ときている。全力で僕を萌え死にさせにきているとしか思えないのだ。


 とはいえ、いつ追手がここを突き止めるかもわからない状況で彼女をこのまま此処に置いておくわけにもいかない。これまで散々悩んできたが、怪我がある程度回復したことを良い機会だと自分に言い聞かせ、夕食後に今後のことを切り出すことにした。


「随分怪我も良くなったね、ミリュー。もういつでもここを出られると思うけどとりあえず準備金を渡しておくね」


 と金貨3枚が入った袋をミリューに渡す。受け取ったミリューが無表情のまま僕の顔を見上げ、


「……これは?」


「ここをいつか出ていくにしても当座をしのぐためのお金は必要でしょ。節制すれば多分1か月位はもつと思う。もしお金が無くなってどうしようもなくなったらまたここに戻ってくるといい」


「……なんでここまでしてくれる?」


「僕は薬師だからね。人を癒し快復させるのが務めだ。目の前に倒れてる人がいたら世話をするのは当たり前の話だよ」


「でもミリューは獣人。ヒトじゃない」


辛そうに目を背けながら吐き捨てるミリューを見て思わず両肩を掴み、顔をじっと見つめる。


「獣人かどうかは関係ない。僕にとってはミリューはヒト以外の何物でもない。獣耳と尻尾がある以外なんら僕ら人族と変わらないじゃないか」


「……でも皆獣人は動物だって言う。人間様の言うことを聞くのが当たり前だって」


「それを言うなら人間だって動物だよ。人間と獣人に上も下もない。そんな馬鹿げた差別主義者の言うことなんて聞く必要はないよ」


「カリスは……変わってる」


 無表情なミリューにしては珍しく吃驚した表情を隠すこともなく、何度か目を瞬いた後僅かに微笑んだ。

 初めて見るミリューの笑顔の破壊力は半端なく、思い切り抱きしめて撫でまわしたくなる気持ちを抑え込み、「割とよく言われる」となんとか苦笑いしながら頭を撫でてあげた。

 いつミリューが出発するかはわからないがそれまでの期間はこの幸せな時間を満喫したい、なんて甘いことを考えていた。



___その日の夜、闖入者が自宅に押し入るまでは___

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