第三十五話 再会
爆音が聞こえた後、シドはすぐに書斎を出て行ったようだ。なんだか以前にもこんなことがあった気がする。ああ、ミリューを助けた時だ。ミリュー無事かな、会いたいな……なんてことを僕はぼーっとソファで考えていた。
「カリス!!」
僕を呼ぶ声がしたので顔を上げると、なんと今まさに会いたいと思っていたミリューが目の前にいて心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。ああ、ミリューだ。夢の中でも会えたから嬉しいな。思わず手を伸ばしてミリューの頭を撫でてしまう。
「ミリューだ……可愛いな……」
「……ん!」
すると最初は吃驚してたけどすぐにいつものように嬉しそうな顔になり、僕の胸に飛び込んできた。こんなスキンシップは初めてだなとか思いながらもやっぱり嬉しいのでギューっと抱きしめてしまう。温かくて柔らかくてフワフワしてる。ああ、懐かしいミリューの感触だ。
「ミリュー……また会えてよかった……川に投げ込んでごめんね、大丈夫だった?」
「ん」
「ずっとずっと心配してたんだ……助けたつもりが溺れてたりしたらどうしようって……ふっぐっ……」
本当はずっと怖くてたまらなかった。あの濁流でうまく泳げず命を落としてたら、そうならなくても追手に捕まって酷い目にあってないか、殺されてないかって。想像してしまうともう駄目だ。涙が止まらない。
「僕は……ひぐっ……ミリューに何もしてあげられなかった。ただ足を引っ張って、ふぐっ……かえって危険に、晒して。ミリューを守ってあげたかったのにっ……」
「だいじょうぶ。カリスはちゃんと私を守ってくれた」
ミリューが僕の頭を優しく撫でてくれる。更に涙が溢れだす。
「でもっ……もう何か月もっ……ふっぐっ……ミリューの手がかり見つからなくて……僕がっ……ふっうっ……死なせてしまったのかってっ……」
「追っ手を振り切るのと修行のため暫く潜伏してた。来るのが遅くなってごめん」
その後暫く泣き続けてしまったが、ずっとミリューが頭を撫でてくれたのでようやく落ち着いてきた。
「こうしてまたミリューに会えた、それだけで僕は幸せだよ。……あれ?ミリューは僕のことわかるの?いや、夢の中だからいいのか……?」
「ん!?」
腕の中のミリューが吃驚したように目を見開いた後僕の顔をジッと見つめた。そして何かを思いついたように周りを見回し、ある方向を見た後に納得したような顔になる。
そして徐にパンパンと僕の頬を軽くはたいた。
「あぅ、あぅ」
ちょっと痛い。何で叩くの。
「カリス、様子がおかしい。多分あの臭い香のせい」
確信したようにミリューが本棚の香炉を指さす。
「私は何も感じませんが、確かに香炉がありますね……殆ど中身はない様ですが。香となると精神系の薬でしょうし、精神力回復役が効くかもしれません。リファ様、こちらをどうぞ」
いつの間にか傍にいたレイナがポーションを差し出してくれる。よくわからないけど喉も乾いてたし飲む。うん、美味しい……ん?
「……んん!?ミリュー!?夢じゃないのこれ!?」
「夢じゃない。カリスにやっと会えた」
突然頭がスッキリすると同時にここがレジェンディアで、ゲゼル家で、なのにミリューがここにいて僕に抱きついていることに気づく。しかも今の僕は『カリス』じゃなくて『リファ』なのに、それなのにミリューは僕だとわかっている!?
それになぜかレイナも一緒にいて、ああもう何がなにやら訳が分からない!
「リファ様、色々と説明すべきことはありますが、まずここから出ましょう」
「リファ君!無事か!」
「おお、案外元気そうじゃないの」
頭がスッキリしたはずなのに即混乱状態になった僕にレイナから提案が出されるのとクラヴィスとアーヴィンが息せき切って書斎に飛び込んでくるのはほぼ同時だった。




