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第三十二話 リファのいない家で


 その日、ハミルトン一家にかつてないほどの衝撃が襲った。真っ青な顔をしたレイナがクラヴィスの執務室に飛び込みリファが誘拐されたと報告したのだ。瞬時にクラヴィスが下した判断はハワード、アーヴィン、ヴァイドの召集だった。最小限の時間で全ての状況を統合、整理し救出作戦を練り上げるためだ。


「どうも連中はかなり以前から周到な計画を練っていたみたいだね」


「ケフィカは完全に捨て駒だな。あんな奴でも始末されたのが痛い」


「ああ、今から奴の家宅捜索をしている暇などないからな。だがリファ君がこう言ったのをレイナが聞いていた。『レジェンディアに連れていくのか』、そして『ゲゼル』と」


「さすがリファ君、そんな状況できっちりヒントを残すとかどこまでも期待を裏切らないね」


「総合するとリファ君はケフィカの手引きでレジェンディアのゲゼル伯爵家に誘拐されたという訳か」


「前回の侵攻で彼女は活躍しすぎたから目を付けられたんだろうね。けど……もし彼女が超希少な≪神人≫だとばれたら一体どんな目に遭うのか想像もしたくないよ」


「そんなことは絶対にさせん……すぐに救出メンバーを選出するぞ。国境を出る前に彼女を救う」


「リファ君は神人である以前に我らの恩人である。ハミルトン家の威信にかけても必ず彼女を取り返す。あらゆる手段を駆使してかまわん、これは至上命令だ」


 ハワードが号令を出すとそれぞれが今できることを尽くすために行動を始めた。



※※※※


 一方その頃ハミルトン本邸では報告を受けたミュリエラとナタリーが各々の反応を示していた。


「リファちゃん……」


「奥様……リファ様なら大丈夫です。きっとハワード様が救い出してくれます」


「わかっているわ、あの人と子供たちを信じているもの。ただ心配なのはリファちゃんがどれだけ不安な気持ちになっているか、そこなのよ。彼女はとても芯が強い子だけれど、傷つかないわけではないから……」


「私たちにできることは信じることだけです。リファ様のことも信じましょう」


「そうね、私まで弱気になってちゃ駄目ね。あの子が帰ってきた時のために美味しいデザートを料理長に作ってもらいましょう!」


 少しだけ元気を取り戻したミュリエラを見て胸を撫で下ろしたナタリーが自室に戻ると、そこには小柄の黒髪、黒い耳に黒い尻尾を持つ幼い獣人の少女が立っていた。


「……あなたは?」


「私はミリュー。見ての通り獣人。そんなことよりカリスは何処?」


 少女が自室に潜んでいたことに驚きを覚えたのは確かだが、同時にこの少女がその気になれば自分は命をほんの数秒で刈られるだろうと本能的に理解できた。だからこそ逆に冷静に素性を聞けたわけだが、彼女から返ってきた言葉はあまりにも衝撃的なものだった。


「カリスと言いましたね……『彼』のことをどこまで知っているのですか」


「カリスは薬師。私を助けてくれた男。でもお前たちに『死んだことにされた』。どういうこと?」


「あなたは彼を探しているのですね。彼を助けるためにここまで潜入を?」


「ん。カリスは私の恩人。もしここで酷い目に遭わせてるのなら……皆殺し」


 完全に感情が消え失せた瞳に見据えられ、部屋の温度が10℃以上下がったかのような錯覚を覚える。二重の意味で表に出ようとする全身の震えをなんとか抑え込んで続ける。


「そんなことは絶対にしていませんので安心して下さい。これから詳しく説明しますがかなり荒唐無稽な話になります。信じがたいとは思いますが、どうか信じて下さい」


 この無口で幼げな容姿からは信じられないほどの威圧感を持つ少女はリファに並々ならぬ愛情を向けているらしい。本来であればヴァイド達に許可を得て初めて説明できることだが、今は緊急事態でありリファの救出にこの少女が大きな力になる、そんな予感がしたため全ての事情を明かすことにした。

 彼女と別れた後カリスが瀕死になり、そこに通りかかったヴァイドが彼に禁術をかけることで『リファ』として転変させたこと。そしてリファは今同意を得た上でハミルトン家の客人として滞在していること。更にリファは常にミリューのことを心配し情報収集を依頼し、再会を望んでいたこと。そして最後にリファが数時間前にレジェンディアの者に誘拐されたことを説明した。


「……正直信じられない。でも……多分あなたは嘘は言っていない。そう感じる」


「嘘だと後で判明したら即私の首を刎ねて構いません。その代わりお願いします。リファ様の救出に協力して頂けませんか」


「当然。むしろ駄目だと言っても勝手に行く」


 ミリューの返答にほっとしながらもこれから救出作戦にどうやってミリューを参加させればいいのか、そもそもどうやって彼女の素性を説明するのか考えるだけで頭痛がしてきた。それでもやり遂げなければいけないのだ、ハミルトン家にとって既になくてはならない存在となっているあの少女を救うためには。





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