第二十九話 ファッションショーとプレゼント
王都滞在二日目、今日は買い物の日だ。かつてないほどの軍資金を貰った今僕の購買欲を抑えるものは何もない!
というわけで、ミュリエラ、ナタリー、レイナと一緒に馬車で王都中心にある繁華街へと向かう。クラヴィス?彼は今回はお留守番だ。前回はポラリス学院や大聖堂といった『VIP級の人がゴロゴロいていつ彼らを狙った襲撃に巻き込まれるかわからない』ということで付いてきたのだが、今回はただのお買い物ということで遠慮して貰ったのである。それでも結構渋っていたのだが、「女の子しか入れないお店ばかり回るけどそれでもいいの?それともそういう趣味がおあり?」というミュリエラの発言で撃沈されていた。
繁華街に到着し、早速ミュリエラによる試着という名のファッションショーが数々の服飾店で繰り広げられることとなる。僕の女性としてのファッションセンスは全くなっていないようで(元が男なので当たり前だ)、センスの良いミュリエラとレイナの二人が選び、それを言われるがままに僕が着るという流れになる。とはいえ、ずっとモデルが僕だけ……というのはさすがに辛かったので途中から無理やりレイナも巻き込んだ。最初は恐縮したのかちょっぴり涙目になっていたがレイナも意外と楽しんでたし彼女にも何着か買ってもらったので勘弁して欲しい。
パーティー用のドレスだけでもマーメイドライン、スレンダーライン、エンパイアライン等々何種類もあり、更にカジュアルなワンピースに靴、装飾品に至るまで目が回るほど沢山試着し、いくつもの服飾品をプレゼントされてしまった。金額を考えると眩暈がするので遠慮しようとしたがクラヴィスの命を救った御礼と言われては断るわけにもいかなかったのだ。本当にミュリエラにはいつも気にかけて貰っていて頭が上がらない。
ファッションショーが終わったら次は雑貨店に向かうことにした。折角貰ったお金なのでいつもお世話になっている人達に御礼と『これからもお願いします』という意味を込めてプレゼントを買いたいのだ。さすがにあげる相手本人に相談するわけにもいかないのでミュリエラにはハワードへのプレゼント、レイナにはナタリーへのプレゼント、といった具合に喜びそうなものをリサーチしていく。
そして色々な店を回り、なんとかプレゼントを買い揃えた。ハワードには定番だが本革製のベルト、ミュリエラにはふわふわのファーに綺麗な孔雀の羽根があしらわれた羽根扇、クラヴィスには紫色のカフスボタン、アーヴィンには男性が付けても違和感の少ない本革製のネックレス、ヴァイドには高級万年筆、ナタリーにはお洒落な髪留め、レイナには可愛いブローチ、ソフィーには仕事中も付けられるように装飾を抑えたブレスレットを用意した。そして……いつかまた再会できると信じているミリューのためにお洒落な白銀色のチョーカーを買っておいた。
相手が貴族様ばかりなのでお金に糸目は付けずに買うことにしたが、おかげで賞金は大半が消えてしまった。でもヴァイドからお給料は毎月貰ってるし生活費もかからないから特に心配はしていない。
こんな感じで王都での三日間が終わり、ハミルトン領へと四日かけて馬車で戻ることとなった。やはり本邸の方が慣れていることもありゆっくり休むことができた。
折を見て皆さんにプレゼントを渡したところ、ハワードが目を瞑って硬直したり(ミュリエラに後で聞いたところ、娘からのプレゼントに憧れていたらしく感動していたらしい。娘じゃないけど)、クラヴィスがカフスボタンと僕の顔を交互に見て考え込んだり、レイナが号泣したりと予想外の反応もあったものの概ね喜んでくれたようだ。こんなに優しい人たちに囲まれて本当に僕は幸せ者だと思う。また明日からもお仕事頑張ろう。
そうやって暢気に構えていた僕は、国同士のぶつかり合いで発生したうねりがすぐ近くまで押し寄せていることに何一つ気づけなかったのだ……。




