第二十八話 王都観光
「リファちゃん、折角王都まで来たのだし今日は観光でもしない?」
「はい、私も王都に来るのは初めてですし是非お願いしたいです」
王都に到着した次の日、朝食の席でミュリエラから観光の提案があり久しぶりに王都を見たいという気持ちもあったのでありがたく了承した。『リファは学院ではなく師匠から薬学を教わった』という設定なので王都は初めてということにしているのだ。
同行者はミュリエラ、クラヴィス、レイナ、そしてナタリーとなる。ミュリエラ自身が恐ろしく強いので護衛は不要と言ったのだがクラヴィスが女性だけでは危険すぎると譲らず強引に参加することにしたそうだ。まだクラヴィスとは少しぎこちないままなのでこれを機に以前のように接することができるようにしたいな。
王都は昨日馬車の中で見た範囲だけでも非常に賑やかでかつ大きな店や豪奢なお屋敷が立ち並んでおり、大勢の人々でごった返していた。観光スポットとして有名なのは王城(勿論一般人は中には入れない)、国教である天神教(創造神ミトラスフィーヴェを主神とする)の大聖堂、王立図書館、ポラリス学院などが挙げられる。
僕自身学生時代は王都に住んでいたのだけれど、苦学生で寮に入っていたこともあり、観光なんて殆どしている暇は無かったのだ。さすがに王立図書館だけは調べ物のために何度か行ったことはあるけれど。
まず最初に大聖堂へと向かうことにしたのだけれど、初めて見る白亜の大聖堂は二本の巨大な尖塔が天空に向かってそびえ立ち、更にそれを取り巻くように多数の尖塔群が連なっておりその威容に圧倒されてしまった。いざ中に入ってみるとそこには広大で荘厳な空間が広がっており、また丸みを帯びた石造りの柱に支えられた円形の高い天井とアーチ群が生み出す回廊も見事なものだった。そして重厚な壁面に嵌め込まれた色鮮やかなステンドグラスが神秘的な光を放っている。
「はわー……」
「これは凄いですねぇ……」
とレイナと二人で大口を開けてポカンと見惚れていると、ナタリーから「淑女は人前で大口を開けてはいけません。せめて扇で隠すように」とのお叱りを受けた。扇なんて持ってないので後で買っておこう。ふと見るとクラヴィスが後ろを向いて肩を震わせていたがお腹でも痛いのだろうか。
礼拝堂では司教枢機卿によるミサが行われていた。ミサの最中に中に入ることはできないので横にあるガラスを通して外から中の様子を覗うことにする。祭壇を前に30歳位の背の高い銀髪の男性が立っており、福音朗読を行っているようだ。白を基調としながらも随所に金糸の刺繍があしらわれた豪奢な司祭服を纏っておりあの若さとは思えないほどの威厳を感じたが、一瞬彼と目が合った時に薄らと笑みを浮かべていたようにも見えた。その笑みが何となく気持ち悪かったので慌てて視線をそらし、ちょうど賛歌の斉唱が始まったところで大聖堂を後にする。大聖堂を出る時ミュリエラとクラヴィスの顔が少し強張っていたので聞いてみると、二人ともあまりこの独特の空気が好きではないそうだ。
王立図書館とポラリス学院は元々中に入って何か見て回るという観光スポットではないし、どちらも僕にとっては馴染みのある施設であったので外観をさっと見るだけで済ませたため思ったより時間が余ってしまった。そのため、昼食後は観光がてらに馬車で王都の大通りを走って貰い、中から街並みを見て楽しむことにした。
ちなみに昼食は種類が豊富なピザを提供することで評判のお店で食べることになったが、野菜メインのピザに各種チーズが盛られたピザ、海鮮ピザ、そしてフルーツのたっぷり載ったピザなど本当に沢山のピザがあり1枚ずつ6種類のピザを注文し全員で少しずつ取り分けて食べた。どれも本当においしかったが、やはりフルーツピザが一番美味しかった。あと辛くするためのオイルがあったがナタリーだけは全く掛けていなかったので意外と辛い物が苦手なのかもしれない。
「リファ様、このピザも美味しいですよ。はい、あーん」
「え!?あ、ええと……あー……ん」
「あ、ずるい!リファちゃん、これも美味しいわよ。あーん」
途中でレイナがふざけて僕に手づから食べさせ始めたところ、それを見たミュリエラが当然のように参戦し、次から次へと口に突っ込まれるピザを咀嚼するのに精いっぱいで途中から味が分からなくなってしまった。
「クラヴィス様、これ凄く美味しいです。一口いかがですか?はい、あーん」
「え!?あ、いや、……こほん。あー……ん」
僕が困ってるのにクスクス笑って助けようとしないクラヴィスにちょっとだけ腹が立ったので隙を見てあーんを強要したらちょっとだけ戸惑いつつも大人しく食べてくれた。お返しと言われて今度は僕が食べさせられることになり焦ったが、そんな僕らを見て皆生温かい視線になっていたのがちょっと恥ずかしかった。でも大分クラヴィスと以前のように話せるようになったので観光に来て良かったと思う。
馬車で観光して回るというのも以前では考えられないことだったし、思った以上に楽しいものだった。
ある程度見回ったところで夕方になり、別邸に戻ることになる。夕食も皆で仲良く食べ、明日は買い物に行くことを約束し、就寝した。




