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閑話 ミリューの決意


 私はミリュー、一二歳の獣人だ。生まれは獣人の国、ミアンデル王国。私が二歳の時に両親が姉と私を連れて国を出て各地を放浪していたらしい。なぜ国を出たのか、定住しなかったのか理由はわからない。ただ物心ついた時には既に四歳年の離れた姉のリムルと一緒に奴隷になっていた。やがて二人揃って暗殺集団である『アセンブラ』に買い取られ、暗殺者として躾けられることになった。


 姉と引き離されずに済んでよかったとほっとしたのも束の間、獣人ということで蔑まれ、碌な食べ物も与えられず理由もなく暴行を受けることも少なくなかった。姉はそんな環境でも常に私に優しくしてくれ、自分の分の食べ物まで分け与えてくれた。本当に優しく、強い人だった。

 リムルは元々天才肌だった上に獣人ということで身体能力も高く、アセンブラの中でも優秀な暗殺者と評価されていたが、ある日任務で失敗し相手の組織に囚われたという情報が飛び込んできた。それを聞いた私は即座に助けに行こうとしたが肝心の場所がわからず情報収集に努める以外にできることがなかった。

 数日後、悶々としていた私にボスから「リムルを助けに行ったが既に死んでいた」と唐突に言われ、頭が真っ白になった。その後暫く茫然自失の状態で過ごすことになったが、ある日いつも私達姉妹を目の敵にしていた奴が「リムルは獣臭い獣人の割には最後は役に立ったな」と言うのを耳にした瞬間頭がすっと冷静になった。そいつが寝静まったところに毒を盛り、尋問をしたところなぜ姉が命を落としたのか、その理由が判明した。

 リムルは優秀な暗殺者で幹部候補にまでなっていたが、獣人である彼女が幹部になるのがどうしても許せないガーファルという名の幹部候補がいた。リムルが順調に組織の中で功績を上げていくのを焦ったガーファルがリムルのターゲットである組織に情報を流したためにリムルが囚われることになる。リムルは捨てるには惜しい人材のため救出作戦が立てられたが、そのメンバーの中にガーファルが紛れ込み、助けるふりをしてリムルの命を密かに奪ったというのだ。顛末を聞いた私はかつてないほどの怒りを覚えたが、相手も幹部候補でありまともにやり合っては勝ち目は薄い。ガーファルの行動範囲を三カ月かけて調べ、有り金全てはたいて最強の毒を調達し、万全のタイミングで毒を盛り、命乞いをしてきたところで首を刎ねた。

 さすがに仲間殺しをした以上脱走する以外に選択肢は無く、武器庫を爆破し逃げだしたが追手の数も多く傷を負わされた上で建物同士の隙間に落ち、意識を失ってしまった。


 そして気が付いたら傷の手当がされた上でベッドに寝かされていて、ベッドの傍で見知らぬ男が私を心配そうに見つめていた。男はカリスと名乗り、喉がかすれて声がうまく出せない私に美味しい水を飲ませてくれた。それだけじゃなく、今まで食べたことのないような美味しいスープまで食べさせてくれた。カリスは小柄で栗色の短い髪に碧色の瞳を持つ素朴な顔つきの男だったが、不思議と見ていると安心できる優しい顔をしていた。

 カリスは私の事情を一切聞かず回復するまで甲斐甲斐しく看病をしてくれ、そして動けるようになってからはお手伝いをすると決まって優しく頭を撫でてくれた。私はその頭がほわっとなる時間が大好きになり、出来るだけお手伝いをするようになった。そんなある日、ほぼ傷が完治したのを見計らって私が出ていく時のためのお金を渡してくれた。見ず知らずの、それも獣人の私にここまでしてくれる理由がわからないので問いただしたが、薬師として当たり前のことだそうだ。そんな薬師はきっと世界中探してもカリス一人だけだと思ったが、同時に胸がぽかぽかと暖かくなり、久しぶりに心から笑えた気がした。


 その夜、私を追ってアセンブラの連中が襲撃をかけてきた。私を見捨てれば助かる可能性もあるのにカリスは一緒に逃げようと言った。二人で逃げ延びるのは困難なのはわかっていたけどカリスを死なせたくはないので裏口の奴らを始末し、馬を手に入れようとしたが先回りされていて川沿いに追い詰められてしまう。いよいよここまでかと覚悟を決めたところでカリスが突然私を抱き上げた。何をするつもりかと聞く暇もなく、「何としても生き延びて」と囁いた後に川に投げ込まれた。慌てて水面に顔を出すも水の流れは速く、なすすべなく流されてしまう。一瞬見えたカリスの顔はなぜかほっとしたような顔だった。

 

 その後私はなんとか追っ手を振り切り、3か月程遠く離れたフランセルという町に潜伏していた。以前仕事関連で知り合い、その後もちょくちょく親交があった刀鍛冶がこの町に住んでいたので彼女を頼ったのだ。彼女は完全に消息を絶つために暫くこの町に滞在した方が良いと勧めるだけでなく、私を鍛えてくれた。彼女は鍛冶師であると同時に刀術家でもあり私よりも遥かに強く、ナイフや短剣の扱い方など色々なことを私に叩きこんでくれた。

 

 今私はハミルトン家の屋敷があるグラッセル市の食堂で働いている。グラッセル市は獣人の差別意識が少ないらしく食堂の女将さんが快く住み込みで働くことを認めてくれたのだ。なぜ私がここに住んでいるかというと、カリスの行方を調べるためだ。あの後調べたところではカリスは死亡したとの報告が役所に届いたそうだが、その報告書に作り物の匂いがしたのだ。私の勘ではカリスは生きている。そしてカリスの死亡の報告にはハミルトン伯爵家の関与が認められたことから何らかの情報を握っていると睨み、グラッセル市に潜入することにしたのだ。


 いずれ機会を見てハミルトン家に潜入し、カリスの情報を手に入れ、もし囚われているのなら必ず私の手で助け出してみせる。見ず知らずの私に家族以上の愛情を惜しみなく与えてくれたあの人を、絶対に不幸にはさせないと心に誓った。




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