第二十話 グラム強化訓練
あれから1週間に2回の頻度で2週間程通い、なんとか一通りの動きを覚えることができた。か弱い女性でも身を守れるように関節を逆に曲げたり手三里(腕の外側、肘の内側から指3本分手首寄りにある急所)、人中、金的などの狙い方なども教えてもらい非常に勉強になった。ちなみに金的は爪先ではなく、足の甲で狙うのが効果的だそうだ。男だったら色々な意味でキュッとなっていたかもしれない。女でよかった。
二週間とはいえ、付きっ切りで指導して貰ったので騎士達とも随分仲良くなれたのも嬉しかった。アーサーは真面目で騎士としての誇りを何より大切にしており、クラヴィスに心酔しているらしい。ルイスは口調はやんちゃ坊主という感じで多少自分の力を過信してるような印象を受ける。決して悪い子ではなく精神的に成長した時に大きく伸びそうだ。グラムはなぜ騎士を目指したのか不思議なほど穏やかで線が細く、自分に自信が無いのかいつも他の二人の後ろに隠れている印象がある。
ちなみにアーサーは子爵家嫡男、ルイスは男爵家次男、グラムは平民なのでアーサーとルイスは様付け、グラムはさん付けで呼ぶことにしている。
「グラム、いつも思うが君はもう少し自信を持った方が良い。ビクビクしながら弓を放たれると私たちがいつ誤射されるかと気が気でならないんだ」
アーサーがまたグラムに注意をしている。確かにその通りだとは思うが、実はグラムは射的場ではほとんど狙った所に当てられるほどの射撃精度を誇っている。それなのになぜ苦言を呈してるのかというと、
「す、すいません……仲間に当たったらどうしようかと考えるとどうしても手が震えてしまって……」
演習だといつもの精度はどこにいったのかと思うほど酷い状態になってしまうらしい。
「そもそも弓が向いてないんじゃないか?槍なんかどうだ?近接武器にしちゃ攻撃範囲も長いしお勧めだぞ」
「ルイス、君はただ槍仲間を増やして練習相手を増やしたいだけだろう。私利私欲のために友人の進路を歪めるのは褒められることじゃないな」
「堅いこと言うなよアーサー。とりあえず試してみるのは悪いことじゃないだろ?」
「あ、あの……以前槍は触ってみたんですけど僕は腕力があまり無いのですぐ疲れちゃうんです。だから厳しいかな……と」
「私もグラムさんは弓が一番向いているように思えます。実際射的場であれだけ狙った所に当てられるわけですし、後は精神的な問題だけかもしれません」
見かねて素人ながら口を挟んでしまう。
「精神的なものとなると逆に対処が難しくなりますね」
アーサーが難色を示したので思いついた提案を提示してみる。
「まずはアーサー様とルイス様が模擬戦を行い、その最中にグラムさんがお二人を弓で狙うのは如何でしょうか?」
「「「え!?」」」
さすがに3人とも仰天しているが、そのまま続ける。
「勿論矢の先端は大怪我をしないように潰したものにします。グラムさんが不安になるのは仲間を射ってしまうことなので、いっそのこと最初から仲間を狙うことで射ることに対する忌避感を消せるのではないでしょうか」
「「な、なるほど……」」
「えええええ……」
約一名まだ納得していないようだが、さらに続ける。
「実戦では混戦になるのが当たり前です。そういった意味でアーサー様やルイス様にとっても戦闘中にいつ矢で狙われるかわからないという状況は訓練になると思うのです。とはいえ最初は声をかけた後にグラムさんが射るようにして、慣れてきたら無言で、そして最終的には実戦用の矢を使うといった段階を踏むのが安全性を考慮すると良いかもしれません」
「私達にとっても良い訓練になるというわけですね」
「面白そうだ!俺は文句ないぜ」
「あの、でももしお二人が大怪我をするようなことがあったら……」
「勿論各種緑ポーション、そしてBPも用意します。私も提案者として皆さんの補助に付こうと思います。」
「で、でも……」と中々煮え切らないグラムに「グラムさんはお二人の技量を信じていないのですか?」と笑顔で問い詰めるとようやく頷いてくれた。さすがにここで否定するのは二人に対して失礼だということは理解しているらしい。
とはいえ、素人の提案なのでまずクラヴィスに報告し、色々と調整を受けた上でモデルケースとして強化訓練が行われることとなった。僕も提案者である以上結果を見届けるまでは通い続けることも認めて貰った。何か本来の目的を見失ってる気もするが、お世話になっているこの騎士達に御礼として何かしてあげたいと思ってしまったのだ。




