第十八話 レイナ
明日から領軍の訓練施設で護身術の指導を受けることになったが、僕の行動範囲が大幅に広くなるためナタリー以外にも侍女が必要だという話になり、17歳の少女、レイナが選ばれ夕食後に挨拶に来た。
「初めまして、レイナと申します。リファ様のお役にたてるように誠心誠意お仕えさせて頂きます」
「リファです、こちらこそ宜しくお願いします。私は平民なのであまり畏まらずにいて下さいね」
「とんでもないです。ハミルトン家の大切なお客人ですので丁重に、傷一つ負うことがないようにお護り致します」
そう、この栗色の巻き毛の長髪に碧色の瞳を持つレイナは侍女は侍女でも戦闘メイドなのだそうだ。勿論侍女としての基本は抑えてはいるが、戦闘メイドに最も要求されるのは主人を護り、賊を排除するための戦闘力になる。ではこのレイナに護身術を教えて貰えば、とも思ったのだけど彼女が身につけている技術は暗殺者に類するものなので僕には向いていないと言われた。ちょっとだけその技術とやらに興味もあったがナタリーには筒抜けだったらしく怖い目で見ていたので黙っていることにした……。
そんなわけで、ハミルトン家にいる間はナタリーとレイナが傍付きとしてお世話をするが外出時にはレイナがそのまま僕の護衛兼世話役として付いてきてくれることになっている。ナタリーの年齢はレイナに聞いたところ25歳とのことで、やはり年齢が近くて気さくなレイナとの方が話がしやすい。色々な意味で怖いナタリーには聞きにくかったこともレイナに教えて貰えた。
「まあナタリー先輩はちょっと取っつきにくいというか融通が利かない所がありますもんね。よく鉄面皮って言われてますけど実はよく見ると笑ってたり恥ずかしがってたりするし、常に周りを見て気配りしてる本当は優しい方なんですよ」
「私もナタリーさんが優しい方なのはわかってるつもりです。ただ絞めるところは容赦なく絞めてくるところにどうしても苦手意識が芽生えちゃって……」
「あー、自分にも他人にも妥協しない方ですからねー……。でもそれが本当にその人にとって必要なことだと思って言ってくれてるからこちらも文句も言えないというか……」
「そう、まさにそこなんですよね!正直お母さんみたいな感じで一生頭が上がりそうにないのが感覚的に理解できちゃうんです」
「あの人に勝とうなんて考えるだけ無駄なのかもしれませんね。でも負けっぱなしというのも悔しいのでいつかぎゃふんと言わせられるように一緒に頑張りましょう!」
鼻息荒く恐ろしい宣言をしたレイナに苦笑で返すことしかできなかった……。
さて、まずレイナに最初に聞いたのはハミルトン家の方々についてだ。当主であるハワードは47歳と予想より若く、落ち着いた雰囲気と髭からもう少し上かと思っていた。基本的に喜怒哀楽をあまり表に出さない方だが、実務能力、騎士としての戦闘力共に非常に高く評価されており、領民からは勿論、国王からの信頼も厚いとされている。また愛妻家としても有名だそうだ。
ミュリエラ夫人は年齢不詳(45歳前後らしいが謎のままにしておかなければいけないらしい)だが30歳台と言っても何も疑問に思われないほど若々しく美しい。そして驚いたことに今は第一線を退いてはいるものの数年前までは第二師団の団長を務めていて、その戦闘力は領内でも3本の指に入ると言われている。ちなみについた渾名が≪血塗れの戦姫≫だそうで、絶対に怒らせないようにしようと密かに誓ったのは言うまでもない。
長男のクラヴィスは25歳で兄弟の中でも隋一の美形だが、女性に興味が無いのかと噂されるほどその手の話が出てこない。嫡子としてそろそろ結婚して貰わないと困ると両親からも言われているらしいが、本人には全くその気が無く頭を抱えているようだ。
次男のアーヴィンは23歳で領軍第四師団の副団長を務めている。ミュリエラと同じ銀髪に蒼い瞳の美形で、非常に明るく気さくな方だが女性関係においても色々と『緩い』らしく、手を付けた女性の数は数えるのもあほらしくなる程らしい。ただ女性を悲しませるような付き合い方はせず、基本的にはうまく折り合いをつけているとのことだ。何度か僕も話をしたことがあるけど、僕の素性について知っているのか特にそれらしいアプローチは無く軽い挨拶を交わす程度である。
三男のヴァイドは21歳の魔導師でポラリス学院卒業後はハミルトン家で研究三昧の日々を送っているらしい。魔術もある程度使えるらしいが師事できるほどの自信、というよりやる気は無いらしく、魔道具の製作が専門分野だそうだ。僕を転変させるために使用した宝珠、あれも魔道具の一種らしい。
領軍は第一~第五師団までで構成されているが、明日はクラヴィスが率いる第二師団の騎士様に指導して貰うことになっているようだ。体力を使うことになりそうだし今日は早めに休むことにしよう。




