第十七話 伯爵夫人とBP
それから更に2か月が経ち、色々なことがあった。それはもう色々なことが。
「リファ様、奥様がお呼びです」と日課のポーション作りに励んでいるとナタリーから声をかけられる。(またあれか……)とそっとため息をつきながらも足早に指定された部屋へと向かう。そう、ハワードの奥方、ミュリエラの自室だ。
「奥様、失礼します」とノックをし、許可を得た後に入室すると、満面の笑顔のミュリエラと傍付きのメイドさん達が両手にドレスを持って待ち構えていた……。
「いらっしゃい、リファちゃん。いつ見ても可愛いわね!今日は昨日とは違うタイプのドレスを用意したの。アクセサリーもそれに合わせたものを沢山用意したから色々試着してみましょうね!!」
口元が思わずひきつりそうになるのを堪えながらも笑顔を作り、「ありがとうございます」と御礼を言う。そう、ミュリエラは女の子を着飾らせるのが大好きなのだ。ミュリエラにはクラヴィス、アーヴィン、ヴァイドと3人の息子がいるが「私は女の子が欲しかったのよ!!」と以前からよく言っていたらしく、そこに居候とはいえ飛び込んできた年頃の少女、つまり僕を見て歓喜のあまり発狂モードに入ってしまったらしい。
ミュリエラは身長が170cmと女性にしては高く、緩いカーブの入った銀髪に蒼い瞳、細顔でやや釣り目がちだがスタイルも良い文句なしの美人だ。僕が色合いとしては同じ銀髪なことも相まってまるで自分の娘のような感覚になっているらしく、ことある毎に抱きしめられ、撫でられ、化粧をされ、着飾らされと構い倒されている。
正直僕はまだ女性らしくお洒落を楽しむような感性にはなっていないので嬉しさよりも戸惑いの方が強く言われるがままに流されていた。ただ、最初にミュリエラに会って抱きしめられた際に母親が亡くなった時のことをなぜか思いだし、目に涙が溢れてきたので思わずミュリエラの胸に強く顔を押し付ける羽目になってしまった。母親の愛に飢えた子どもそのものにしか見えない行動だったと自己嫌悪に陥ったが、周りの人達の目はなぜか生温かいものだった……。
僕が作る神力を籠めたポーションは安全性、効果共に問題ないことが確認できたので領軍に少量から供給し始め、消費量を確認しながら少しずつ配布量を増やしていった。製作できるのが僕一人だけなので増やすといっても限界はあるわけだけど。神力自体は増え続けているけれども、実際に製作にかかる時間まで短くなるわけでもないため1日フルに時間を使っても100本作るので精一杯だ。
神力を籠めたポーションは通常のポーションと違い、淡い光を放っているので見分けるのは非常に容易い。そして製作後2週間ほどで光が消え失せ、通常のポーションと同様の効果になることもわかった。
ある程度流通量が増えた事と、差別化を進めるためにも名前を付ける必要があるとヴァイドが言い出し、ハミルトン家の皆様でああだこうだと議論を重ねた結果、≪Blessed potion≫、略してBPと呼称することに決まった。通常のものと同様に中級BP、上級BPといった具合に等級も区別される。
この3か月間天神と神医の加護を使い続けた事で僕自身の神人としての能力はかなり上昇しているようで、天神の加護は自身の身体強化は20分、他者に対しては15分と持続時間が長くなった。相手に触れていないと加護をかけられないことは変わっていないが、その相手が他の人と触れているとその人にも同様の加護がかかる。ただし、加護をかける相手の数が増えると当然消費する神力も増えた。また、強化倍率も2倍から3倍程度に上昇がみられ、ようやく僕も強化をかけた状態であれば貧弱の域を脱することが可能になった。神医の加護に関してはBPの効果が上がるということもなかったが、通常のポーションに戻るまでの期間は今後伸ばせるかもしれない。
「大分リファ君のポーション作りも軌道に乗り、神力の扱いにも慣れたみたいだね。でも今後君の重要性は日増しに増していくことが予想される。勿論こちらで護衛も付けるけど、万が一ということもある。自己防衛のために明日から護身術を騎士に教えて貰ってね」
出来上がったポーションを整理してる時にそんなことをヴァイドが告げてきた。




