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終章・大切な人達と共に


 クラヴィスとリファが想いを通じ合わせ、現実世界への帰還を決めたその時、二人を頭上から降りてきた円柱状の光が包み込んだ。


「えっ!?」


「これは……」


 二人共突然降ってきた光に驚きを隠せない様子だったが、間を置かずに女性の声が聞こえてきた。


『リファ様の精神体を発見し、無事覚醒の了承も得られたようですね。そちらの準備が整ったおかげでこちらも帰還へのサポートが可能となりました』


「この声は……リスティスさんか」


「クラヴィス、お知り合いですか?」


「ああ、私をここに送り込んでくれた操心術師のリスティスさんだ」


『初めまして、リファ様。リスティスと申します。これから貴方方を覚醒させますのでそのまま動かずにいて頂けますと助かります』


「あ、はい。お手数をおかけしますが宜しくお願いします」


「ふふっ、リファ様は貴族でいらっしゃるのにとても謙虚なお方ですのね。噂通りの巫女様で安心しました」


「い、いえ、私は元が平民ですので貴族らしい振る舞いとかが苦手なのです」


「そうだな。だが私と正式に結婚したら本当の意味で貴族になるから覚悟しておいて欲しいな」


「え!?あ、あの……ぜ、善処します……」


「あらら、見せつけられてしまいましたね。これ以上は独り身の私には少々辛くなりますのでそろそろご案内しましょう」


 顔を真っ赤にしたリファだが、無事覚醒することが最優先なのでクラヴィスの腕をしっかりと抱き込んで固定する。すると、光の円柱で囲まれた部分の地面が盛り上がり、二人を乗せたまま円柱の中を上昇し始める。想像していたよりも上昇速度が早く驚かされるが、周囲は光で何も見えないため高さがよくわからず恐怖感はほとんどない。10分も経たない内に虹色の天井が数メートル程上に見えてきた。


『その虹色の天井が出口です。それをくぐれば覚醒できるでしょう』


「ようやく帰れるな。さぁ、いこう」


「はい、クラヴィス。そしてリスティスさん、ありがとうございました」


 二人が手をつないだ状態で出口をゆっくりとくぐり、目を開けると二人してベッドに横になり、天井が見えた。そして二人が目を覚ましたことに周囲の人間が気付き、大騒ぎになる。


「リ……リファぁあああああああ!!!」


「リファ様あああああああああああ!!!」


「ふぎゅっ!」


 目を覚ましたリファを目掛けてミリューとレイナが号泣しながら飛びついていく。ミリューはリファの胸に、レイナは腰のあたりに派手にぶつかり二人揃ってぎゅうぎゅうと締め付けるものだからリファは息をすることすら大変になる。


「リファ、よか、良かった……もう、二度とお話できなかったら、どうしようって……」


「うええええん、本当に、本当に良かったですよぉ。待たせすぎです、心が潰れるかと思いましたよぉ」


「ミリュー、レイナ、心配かけてごめんね、もう大丈夫だから……」


 リファがなんとか自由になる両手を動かして二人をゆっくり撫で続けると、少しずつ締め付ける力が弱まっていった。


「兎にも角にも無事目を覚まして何より。お帰り、リファ君」


「ヴァイド様、ありがとうございます。そしてただいま帰りました」


「もう、リファちゃんったらいつも無茶ばっかりして皆に心配かけるんだから。でも本当に目を覚ましてくれて安心したわ」


 そう言ってゆっくりと近づいてきて背後からリファを抱きしめるミュリエラ。


「ミュリエラ様にもご心配をおかけしました。またお会いできて嬉しいです……ふぐっ……うっくっ……」


 皆の暖かい気持ちに心がいっぱいになり、涙が溢れてくる。それをミュリエラがハンカチを使って拭ってくれる。


「あらあら、ちょっと寝てる内にリファちゃんまで泣き虫さんになっちゃったみたいね」


 クスクス笑うミュリエラだが、そこに責めるような声色は全く無くむしろ母親のような愛情を強く感じ、ますます涙が止まらなくなる。そうして暫く皆で泣き続けた頃、パンパンと柏手が聞こえてきた。


「感動の対面を邪魔して申し訳ないが、そろそろ話を始めても良いだろうか」


 振り返ってみると柏手の主はマティアス王だったようだ。慌てて姿勢を正し、返事をする。


「ま、マティアス国王陛下。お見苦しいところをお見せして大変申し訳ありません。どうぞお聞かせください」


「いや、ようやく其方が目を覚ましたのだ、もっと時間を与えてやりたいところだがそうもいかなくてな」


 マティアスがそう言うと、ベッドの近くに立っている綺麗な黒い長髪で長身の女性に視線を向ける。


「そちらの女性が操心術師であるリスティス殿だ。今回其方を助けるために尽力してくれた」


「貴女がリスティスさんですね。精神世界ではお世話になりました、そして改めて助けて頂きありがとうございました」


 王の紹介を受けて一礼するリスティスに対し、深くお礼を言うリファ。それを見てまたリスティスが微笑する。


「私は依頼を受け、それを果たしたまででございます。御礼を言うのであれば依頼主の方に是非お願いします」


「依頼主の方、ですか……?」


 リスティスの返しにぽかんとしてしまうリファ。依頼主と言われても全く見当がつかない。マティアス王ではないのだろうか。


「うむ、実は……その依頼主というのがな。そこに偉そうに座ってるバルバトス王なのだ」


「おい、なんだそのぞんざいな紹介の仕方は」


 マティアスの発言を受けて赤髪で大柄な偉丈夫の男が椅子から立ち上がり、ベッドの方に向かって歩いてくる。マティアスとはまた違った雰囲気だが荒々しくも力強い覇気を纏っており絶対強者といった風情だ。


「バルバトス王……もしかして、レジェンディアの王様ですか!?」


 さすがのリファも驚きを隠せない。なぜ敵対しているはずの国の、それも国王がハミルトン家にいるのか。あまりにも異常な状況に眩暈がしてくる。


「ああ、そうだ。初めましてだな、リファとやら」


「あ、は、初めまして、リファと申します。宜しくお願いします……?」


「ふ、ふははっは、この女、俺に全然怯えてないぞ!初対面の女に怖がられないのは久しぶりだ、気に入ったぞ、神人よ」


「え、あ、はい……?」


 心底愉しそうにカラカラと笑い出すバルバトスにリファは思わず生返事で返してしまう。


「おいバルバトス、その辺にしておけ。いつまで経っても本題に入れんだろうが」


 呆れたように釘を刺すマティアス。それに対しチッと舌打ちをするバルバトス。二人の関係はパッと見た感じ憎み合う者同士というよりも悪友といった感じにも見える。


「正直私も訳が分からんのだが、この男が突然何の連絡も無しに王城に乗り込んで来てな。何をしに来たかと問えば、操心術師を連れてきたというのだ。其方を目覚めさせるためにな」


「えっ!?じゃあ、リスティスさんの依頼主というのは……」


「うむ、この阿呆になる」


「阿呆とはなんだ!」「阿呆を阿呆と言って何が悪い」などと言い合いが始まるが、あまりの衝撃に頭に入ってこない。


「なんてことでしょう……で、でもどうしてバルバトス王がそんなことを?」


 バルバトスとの言い合いを途中で切り上げたマティアスがリファの質問に応える。


「フェリクスの所為で其方が神人であると大陸中に知れ渡ってしまったからな。今後帝国が何らかの動きを見せる可能性が高い。それに対抗するためにもまず其方を目覚めさせるべきだと判断したそうだ」


「そう、ですか……バルバトス王。私を助けて頂き、本当にありがとうございました」


「うん?まあ俺も別に善意でやったわけじゃないからそんなに気にするな。ちゃんと見返りは貰うつもりだしな」


 ただでさえ強面なのにそこにニヤリと凶悪な笑みを浮かべながらのバルバトスの発言に途端に不安がこみ上げてきたリファは思わず不安げにマティアスを見つめてしまう。


「その見返りが問題なのだ。まだ決めていないのでな。で、バルバトスよ、何が望みだ?」


「そりゃ勿論、そこの神人の身柄だ」


「「「「なっ!?」」」」


 ある程度想像はしていたものの、本当にストレートにリファを要求してくるとは思ってもいなかった者達から驚愕の声が漏れる。


「ふむ、だが私や本人がはいそうですかと了承するとでも思っているのか?」


「そりゃ無理だろうな。だから無条件じゃなくてよ。お互い数人の戦士を出して戦わせて、勝った方がリファの身柄を確保するってのはどうだ?」


「……神聖闘技を開くという訳か……」


 神聖闘技とはグランマミエとレジェンディア両国で採用されている、一人~複数人の代表者を選出して一対一で戦わせ、勝利した方が賭けた人や物を手にするという諍いを納めるために存在する方法の一つだ。

 

 神聖と名の付く通り神に誓って闘技に臨むことでいかなる結果になろうともどのような立場の者であろうと口を出すことは許されない。バルバトスはリファをその賭けの対象としようというのだ。


「ああ、そうだ。その結果はいかな帝国といえども文句を言うことはそう簡単には出来ん。別に身柄を確保するって言ってもその国に来てもらうってだけだ。王族や高位貴族と無理やり婚約させたりするつもりもない」


 突然婚約の話が出てきたのでリファが慌てて口を差し入れる。


「あ、あの、私はこちらのクラヴィスと婚約をしていますから他の方と婚約するつもりはありません」


「む、だが、それは……」


 所詮形だけの婚約と思っているマティアスが微妙に言葉を濁す。


「マティアス王、先程精神世界の中で正式に彼女と想いを通じ合わせることができました。つきましては、近いうちに籍を入れ、生涯を共に過ごすつもりです」


 そこにクラヴィスが毅然とした態度で精神世界であったことをマティアスに告げる。


「ほう、そうか……。それはなによりだ」


 二人が本当の意味で結ばれたと理解したマティアスは微笑するが、失恋した息子のことを思うと若干複雑な気持ちにもなる。エルハルトの方を見ると愕然とした様子で立ち尽くしていた。あれは暫く尾を引くかもしれんなと思いつつも、これも男として成長するために必要な試練だと思ってもらおう。


「あらあらまあまあ、あの子ちゃっかり告白まで済ませちゃったのね……でも、よくやったわ!」


「ああ、長いこと横で見てた僕らからすればやっとかという感じだけど、やっぱり嬉しいね」


「……悔しいけど、クラヴィスなら……許さないでもない」


「遂に、遂にお二人が結ばれる日が……ああ、嬉しすぎて眩暈が……」


 ハミルトン家の皆もそれぞれの反応を見せる。若干一名倒れそうになっているが。


「まあ好いた男がいるってんなら一緒にレジェンディアに来ればいいだけの話だ。実力次第で貴族としての待遇にしてやってもいい」


 バルバトスは特に気にした風体もなくそう断じる。


「兎に角、まずは協議が必要だ。これからのことについて話し合わなければいけないことが山ほどある。だがリファは目覚めたばかりだ、本格的な協議は明日以降に行うこととする」


 マティアスがリファの容態を心配してそう言ってくれる。恐らく神聖闘技を拒否することはできないだろう。助けて貰った借りの件もあるが、帝国からの干渉を防ぐためにも確かに有効な一手と言えるからだ。


 これからも自分が神人であるがゆえに様々な問題ごとやトラブルが舞い込んでくるだろう。だが、自分が信頼し、信頼してくれる愛しい人や家族、そして王族達が支えてくれるならきっといつか幸せを掴むことができると今は信じられる。


 ひょんなことから年齢や性別までをも変えられてしまったけれど、思い返せばやはりそれすらも幸せなことだったのだろう。これからは薬師としてだけでなく、神人として、そしてグランマミエの貴族の一人として悔いのない人生を大切な人たちと一緒に歩んでいきたい、強くそう思った。

これにて一応の完結になります。本来はこの後レジェンディアとやりあって、その後帝国とやりあって終わる予定でしたが諸々の事情で早めに完結する形となりました。


初めて書く小説でしたが、思った以上に多くの方に読んでもらえた様でとても嬉しいです。拙い小説ですが最後まで読んでいただいた方に御礼申し上げます。


また機会があれば新作を書くかもしれませんので、その際は読んでいただけたら幸いです。

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