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第百話 サルベージ作戦開始


 いよいよリファを目覚めさせるためのサルベージ作戦が始まる。準備のためにまずクラヴィスがリファの隣に横になり、リファの右手を左手でしっかりと握る。そして操心術師であるリスティスがリファとクラヴィスの額を両手で触れてから魔術を行使し始めた。


「クラヴィス様にはリファ様の精神体をまず探していただき、発見後は精神体を目覚めさせた上で覚醒への意欲を強く引き出してください。そこまで持っていければ後は私がお二人を覚醒まで繋げることが出来ると思います」


「わかった。宜しく頼む」


 クラヴィスの返答を聞いた後、リスティスがボソボソと呪文らしきものを唱え始めると診察の時と同様に両手から紫色の光がリファとクラヴィスを包み込んでいき、それが全身に回る頃にはクラヴィス自身もいつの間にか眠りについていた。


「クラヴィス……リファをお願い」


「大丈夫、絶対二人とも無事目を覚ましてくれるよ」


「兄上はこういう大事なところでは確実に結果を出してきた人だからね。やり遂げてくれるさ」


「リファちゃん、長いこと寝ててお腹空かせてるでしょうし美味しいケーキを沢山用意しておいたから皆で食べましょうね」


 ハミルトン家一同も皆ベッドを囲んでそれぞれ激励の言葉を二人に投げかけ、生還を祈りながら待つことにした。


※※※※


 ふと目を開けると、クラヴィスは周囲が暗闇に閉ざされていることに気が付いた。そして体がふわふわとゆっくり落ちていく感覚を覚える。上と左右は真っ暗闇だが真下には小さな光が見え、少しずつそれが大きくなっていく。なんとなくリファの精神の深層へと向かっているのだと理解し、落下速度も本当にゆっくりなのでそのまま身を任せることにした。


 そうして30分程降下すること光は半径一メートル程の円形の出口であることがわかり、それをくぐると一気に周囲が明るくなり、雲が流れる高さに放り出されたような錯覚を覚えた。ここにきて地面を目視できたことから逆に高さを強く意識してしまい、このまま落ちたら精神体とはいえ危険なのではと冷や汗をかく。


 しかし、その後も降下速度自体は変わらずゆっくりと地面に向かっていくことに気が付くとほっと息をつく。10分程すると地面へと到達し、足からしっかりと着地する。見渡す限り周囲は花で埋め尽くされており、芳しい花の香りで緊張していた心を解き解されていくのを感じる。


「さて、問題はリファの精神体がどこにいるかだが……」


 さすがに入ってすぐに見つかるほど甘い話ではないようだ。遠目に森のようなものが見えたのでまずはそこに向かって歩くことにする。1時間程歩いて着いてみると、そこは森というよりは林に近い印象だった。


 中に入ってもそれほど木の高さもなく、葉も日光を完全に遮るほど茂ってもいないためある程度の明るさを保っているようだ。その後も何かに導かれるように林の中を歩き続けると、大きな泉に辿り着く。近づいてみると水は完全に透き通っており泉自体が光を放っているように感じられるほど綺麗な光景に暫し目を奪われる。


「いやいや、見惚れてる場合じゃない。リファを探さないと……」


 気を抜くといつまででも眺めていたくなってしまいそうな光景からあえて目を逸らし、泉の中を探しはじめる。すると、中央の辺りが深くなっていて何かが光っているように見えた。直感的にそれがリファであると感じたので泉の中へと足を踏み入れる。中は確かに冷たい感触があるのだが、どういうわけか服や体は全く濡れていない。精神の中ということでなんでもありなのかと感心する。


 少しずつ歩みを進めると、泉の中央はちょうど腰辺りまで水面に浸かるほどの深さになっており、水底には淡い光に包まれたリファが胸の上に手を組んだ状態で眠っていた。


「リファ……!?こんな所に眠っていたのか……」


 ようやくリファを見つけたクラヴィスは歓喜に打ち震えるが、すぐに頭を振ってまずは目を覚まさせないとと思いなおす。


「リファ!迎えに来たんだ。起きてくれ!」


 抱き起してもいいものかわからず、とりあえず水上から大声で呼びかける。何度か呼びかけていると、リファの体がゆっくりと水上へと上がっていき、水面から30cm程の高さで全身を紡錘形の水球に包まれた状態で浮かび上がった。綺麗な銀髪が透明な水球の中で淡い光を浴びてキラキラと輝きながら揺蕩っているリファは神々しいほどの美しさを放っており、またクラヴィスは暫し見惚れてしまう。そうして10分程経過しようやく正気に戻ったクラヴィスがまた声を掛ける。


「リファ!聞こえているんだろう?一緒に現実世界に戻ろう」


 クラヴィスの呼びかけに対し反応があったことから声が聞こえているのは間違いないはずだが、それでもリファは目を開けず、声も出さない。この先どうしたらいいのかわからずクラヴィスは声を掛けつづける。


「……クラヴィス様……ですか?」


 声をかけ始めて5分程すると、水球の中のリファは身じろぎ一つしていないのに頭の中に直接リファの声が聞こえた。


「リファ、目が覚めたのか!?」


 リファからの返答があったことに心底安堵し、もうこれで大丈夫だとほっとするクラヴィス。


「はい……クラヴィス様はどうして……ここに……?」


「勿論、君を目覚めさせるためだ。昏睡状態にあった君を助けるために操心術師に頼んでここまで来た。さぁ、一緒に帰ろう」


 そう言って手を差し伸べるクラヴィス。だが、それに対するリファの返答は彼の予想とはかけ離れたものだった。


「……申し訳ありません、クラヴィス様。私はこのままにしてお一人で戻って頂けませんか」



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