第九十八話 バルバトス王の提案
投稿予定時間を一日間違えていました・・・!
今日の17時にまた投稿します。
突然のレジェンディア国王らの訪問はあまりにも衝撃的であり、王城は大わらわとなった。停戦状態とはいえ、敵対している国の王が何の前触れも無く自国の城に現れるなど正気の沙汰とは思えぬ所業だからだ。
とはいえ、何らかの意図があるのは当然であり、話をしなければ何も始まらない。武器等も大人しくこちらに預けておりとりあえず攻撃意志は無いと思われるため、会談の準備を整えることとなった。
そうして準備をすること2時間、ようやくレジェンディア国王一行が会議室へと案内され、入室する。そして身長2メートルはあろうかという長くツンツンした赤毛を腰まで伸ばし、野性味溢れる偉丈夫の男、レジェンディア国王であるバルバトス・ルグニア・レジェンディアが口を開いた。
「久しぶりだな、マティアス。また少し老けたか?」
「ふざけるな。一体何のつもりで何一つ知らせも出さずにここまで乗り込んできたのだ」
元々破天荒な性格で有名なバルバトス王ではあるが、さすがに今回のようなケースは前例が無い。連れてきた王子や幹部らも強者揃いではあるが、さすがにこの人数で国盗りに赴いたわけもあるまい。
「いやなに、一応敵対関係にある我らだ。まともに話し合いの場を持とうにも時間がかかりすぎてはたまらんのでな。手っ取り早く乗り込んできたというわけだ」
「……はぁ。相変わらず短気で思いつきだけで行動する奴だなお前は。年を取れば少しは落ち着くかと思えば全くそんなことはなかったか。周りの者が不憫でならん」
心底呆れたように溜息をつくマティアス王。実はグランマミエとレジェンディアの民は元をただせば同じ民族である。ある時グランマミエの王太子と第三王子が仲違いをし、グランマミエの民を一部引き抜いた第三王子が新たに建国したのがレジェンディアだ。建国理由が仲違いであるため両国は常にいがみあってはいたが、同じ民族であることから一方を滅ぼすほどの憎しみまでは発展せずこれまでも小競り合い程度の諍いが続いていた。
そしてマティアス王とバルバトス王もお互い特別憎み合っているわけでもなく、むしろ懐が深く思慮深い割に喧嘩や祭を好むマティアスと、短期で恐ろしく喧嘩っ早いが豪気で快活な性格のバルバトスは不思議と気が合う所も多かったのだ。
「小難しいことは部下に全部任せてるからな俺は。お前みたいに全部に目を配るなんてこたぁできねぇよ」
「そうか……で、何が目的なんだ?」
バルバトスの後ろに控えている幹部らに憐みの視線を一瞬向けた後、射貫くような強い眼差しでマティアスは訪問の理由を改めて問いかける。
「まあ、なんだ。お前、神人の女を手に入れたんだってな。リファとかいう」
「……ああ。それがどうかしたか?」
あれだけ派手にフェリクスが触れ回った以上当然レジェンディアにもリファの情報は流れている。そこまでは何もおかしなことはない。
「で、だ。折角の神人だってのに昏睡状態で目が覚めないって話じゃねェか。起こせる目途は立ったのか?」
「……!どこでその情報を手に入れたかは知らんが……いや、探りあいは時間の無駄だな。確かに昏睡状態であるし手を尽くしてはいるが……」
リファの状態とそれに対し何も手が打てていないことまで知られていることに驚きはしたが、今それに対してどうこう言っても何も始まらない。
「やっぱりそうか。であれば俺達が来たのも無駄足にはならなくて済みそうだな」
マティアスの返答を聞いてバルバトスが二カッと嬉しそうに笑う。
「……どういうことだ?何か手があるとでも?」
「あったりめえよ。国中探してようやく見つけたんだ。操心術師をよ」
「操心術師だと!?レジェンディアにいたのか……!」
操心術師は異能力者の中でも特別珍しい存在である。どの属性にも属さない、強いて言うなら『精神』に特化した能力で他者の精神や心に直接作用する魔術を行使できる存在、それが操心術師だ。リファの現状を鑑みるに彼女を目覚めさせることができるとすれば操心術師しか考えられず、血眼になってグランマミエ国内を探すも何の成果も挙げられなかったのだが、まさか隣国にいたとはさすがのマティアスにも予想外だった。
「おうよ。で、どうする?そこにいる女がその操心術師だが、件の神人に会わせてみる気はあるか?」
「……何が望みだ?わざわざ危険を冒してこんな所にまで来るからには当然それに対する見返りを期待してのことだろう」
「ふむ。勘ぐるのは当然だが、実際問題神人がこのままおっ死んじまうと俺らとしても困るんでな。まずは目を覚まして貰わねえと話にならん。お前ならわかるだろ?」
「……エインヘリアル帝国か」
「ああ。あそこには間違いなく神人がいる。そんでもって、唯一神人を有する国としてここ最近急激に発展し続けてきた。そこで他国に神人がいるって話が出たら……どう出る?」
「神人を奪うか、殺すか……どちらかだろう」
「そうだ。昏睡状態にあるかどうかは関係ない。そのリファとかいう女自体が帝国が喧嘩を売る理由になっちまうわけだ」
帝国は大陸一の強国であり、グランマミエやレジェンディアでは攻め込まれた時点でほぼ敗北が確定する。それほどの力の差が歴然として存在しているのだ。
「だが、あくまでそれも我が国の話であってレジェンディアには関係あるまい」
「はっ、何言ってやがる。お前ん所とうちは兄弟みたいなもんだ。片方がやられたらまず間違いなくもう片方も潰しに来る。禍根を残さねえようにな。だからそう簡単に潰れて貰っちゃ困るんだ」
「……ある程度理由は理解した。だが、無償というわけでもあるまい?」
「まあ、な。だがそこまで無茶を言うつもりはねえ。まずは神人を目覚めさせるんが先じゃねぇか?」
「先に成果を見せた上での交渉か。下手に前もって文書で決めてしまうよりもましかもしれんな」
色々と不安要素は多いが、確かにリファを目覚めさせることが最優先なのは事実だ。その後様々な交渉が続けられたが、厳重に警戒した上で操心術師をリファに診せることが決定した。




