第九話 神人
この世界には3柱の神がいるとされている。創造の神とされる天神、ミトラスフィーヴェ、火、水、氷、土、風、雷、光、闇、元、刻と十種類ある属性を司る精霊達を束ねる精霊王セルヴォイド、そして冥界にて死者に裁きを下す大王とされるオルトエンデ。この3柱は原始から存在し、ミトラスフィーヴェとセルヴォイドは夫婦神、オルトエンデはミトラスフィーヴェの弟神とされる。ちなみにミトラスフィーヴェが女神でセルヴォイドは男神である。
まず最初にミトラスフィーヴェが空と大地、海を創造した後、セルヴォイドが十の精霊を世界中に駆け巡らせることで世界を精霊力で満たし生物が存在可能な状態とした。そしてミトラスフィーヴェが知恵あるものとして自らの分身である神人を作り、その数を増やすために加護を与えられた安全な都市、≪箱庭≫で育てることとなった。
神人は非常に賢く、優れた身体能力に加えて魔術、法術、精霊魔術、神術など様々な異能力の才を持っていたためミトラスフィーヴェの予想を上回る速度で数を増やし、やがて箱庭では収まりきらないほどとなった。そして神人ら自身が創造神に箱庭からの出立を申し出ることとなった。
予想よりも随分と早い出立に難色を示したミトラスフィーヴェであったが、子の成長を嬉しく思う気持ちとセルヴォイドからの「成長には試練も必要だ」との助言もあり許可を出すことになる。いまだ箱庭を除き大地は荒涼としており、食料となる穀物や動物も存在しないため、神人達の出立前に農耕に適した大地を整え、森を作り、食用に適した馬や牛、羊、鳥に加えて海には魚を創造する。そして数の調整のため食物連鎖を推奨するべく大きいものは鯨ほど、小さきものは微生物まで様々な種類の生物を用意した。
そしていよいよ神人達の出立の日となり、彼らは意気揚々と外の世界へと旅立っていった。元々の高い能力に加え、神々が整えた環境による補助により急激に神人の支配領域は広がっていき、各地に都市が作られることとなる。そして数百年後、一人の男がいくつもの都市を統合して王となり、≪王国≫が誕生した。
一つ国が作られるとそれに続発して各地に国が生まれることとなるが、最初の国であるアーヴァル王国が他国に追従を許さぬほどの発展を続け、周辺の国に対し国々のリーダーとして振る舞うようになった。
そして数代に渡るアーヴァル王国の繁栄の後に、ある王がふと「我こそが現人神であり、創造神に並び立つ存在である」との声明を出し、王を崇めるためのかつてないほど豪奢な神殿を作らせた。完成した神殿を満足気に眺めた王は完成式を盛大に開き、盛り上がりが最高潮に達した頃、国民に現人神の降臨を伝えるための儀式を神殿にて行うこととなった。誰もが新しい神が神人の中から生まれることを喜び、アーヴァル王国の繁栄は未来永劫続くものと信じて疑わなかった、その時までは……
儀式が始まり、王が現人神として戴冠しようとしたまさにその時、創造神の裁きが彼らに下されることとなる。
「そなた等は確かに我ら神々の子であった。だが庇護されるばかりの己の身を弁えずに増長し続けるばかりか、我らと同じ≪神≫を名乗るなどあまりにも烏滸がましい。罪深きそなた等からは神人としての力を剥奪し、矮小たる≪人族≫としての生を全うすることを罰とする。そして生ある内はオルトエンデが創造した魔物に常に命を脅かされ、死した後もオルトエンデにより輪廻の輪に戻れるか否かの裁定を受けることとなる」
こうして神の怒りに触れた神人達は≪神人≫としての能力を奪われ、知能も身体能力も低く異能力もごく限られたものしか持たない≪人族≫として生きることとなった。箱庭に残り、自身の能力を驕ることなく清貧に過ごし、創造神を崇め続けていた一部の神人を除いては……。
オルトエンデが作り出した魔物は人族にとっては恐ろしい力を持つものが多く、なすすべなく命を奪われる者が続出したが一部の賢きものが知恵を振り絞り、少ない力で最大限の成果を得るための武器や戦法、防衛施設などを生み出し魔物に対する対抗手段として確立していくこととなる。それでも強大な魔物に対しては苦戦することも少なくないが、次第に人と魔物の支配領域を分けて棲み分けが進んでいくことになる。
魔物のせん滅は難しくとも、脅威度の低い地域を選んで人族は定住し村を、都市を、そして国を作りやがて現在に至る。
「神話や伝説の中でしか名前をみることもない神人、僕がそれだということですか……?」
「信じられないのは仕方ないけどね。ごく一部の人にしか知られていないけれども神人は今も少数ながら生存していると言われている。そして神人には他の種族にはない外見的特徴がある、それが白銀の髪と深紫の瞳、そして左胸に現れる≪神紋≫なんだ」




