逃避
ある日、わたしは唐突に思い立った。
このままでいいのかと。わたしがしてきたことは間違いではないのかと。
血の臭いが充満し、生物なのかただの肉片なのかも分からない、そんな物が散らばる凄惨な大地に佇むわたしは悪なのか、それとも正義なのか。ある者には正義だとしても、今ここに散らばる彼等にとっては立派な悪なのだ。
わたしは急に怖くなった。
今まで自分が信じてきたものが足場から崩れ去っていくような、胸の内がグラグラと揺れているような、周りの音もよく聞こえず、息もうまく吸えない。堪らずに吐いてしまい、その吐瀉物にまみれた肉片を見ながら涙をこぼした。
「ごめんなさい……」
幼い頃からわたしを見ていた瞳。
わたしに語りかけてくれた言葉。
わたしはただただ、それを信じていただけなのだ。
もうここから去ろう。争いのない穏やかな土地でひっそりと暮らそう。自分だけでいい。他には誰もいらない。寂しいと感じるのは少しの間だけだろう。わたしの寿命は生物のそれを遥かに超えている。今、目の前に広がるこの光景もあっという間に遥か昔の記憶となるだろう。
涙を拭い、天を仰ぎながら一声鳴いた。この大地に響き渡るように、今までの自分と側にいてくれた人達にさよならを込めて。息が続くまで鳴き続けた。
そして翼を広げ、大空へと羽ばたいた。雨が降りそうな空模様だったが、わたしの旅立ちにはぴったりだと思った。
この場を一度だけ旋回し、名残惜しい気持ちを振り払いながら東の空へと翼を羽ばたかせた。




