2 白黒であべこべ?
歩禍照です。ちなみに読みとしては「アルカテラス」が正解です。たまに「ほかしょう」とか言われるんですよね……それはそれとして、2話です。何だかんだユーベルがキャラを考える発端になったんですよね。その時の名前が「テラ・アルカテラス・レカリアス」なのは覚えてます。そこから友達と考え合った結果、今に落ち着きました。長々とお話しました。では、ゆるりとどうぞ
「儂が博多エリアの長、北岡巳和子じゃ」
……え?このおばあちゃん、今なんて……いきなり過ぎる展開に呆然としていると、巳和子さんは突然高笑いをした
「いや、すまんのぅ。急に言われたとて、信じられんじゃろう。無理もあるまいが……さてはお主、儂がボケておるとでも思うたか?」
「え?そ、そんな事ないですよ!ただ吃驚して」
正直に言うと巳和子さんは微笑み、左様かと頷いた。ルーナはと言うと……爆睡していた。
どうしてこのような状況で眠れるのだろう?呆れながらも、彼女の頭を撫でていると、巳和子さんも気付いていなかったのか
「やれやれ、ルーナはいつもこうなんじゃよ。十分睡眠はとっておるようなのじゃが、気が付くと食事中でさえ眠りよるんじゃ……龍栄や、ルーナを部屋へ通した後、こやつに館の案内をしてやってはくれぬか?」
と、後ろに控えていた仏頂面のメイドにそうお願いすると、龍栄と呼ばれたメイドは
「ハイ、畏まりマシタ。um……申し訳アリマセン。お名前を伺っても宜しいデスカ?」
と少し拙い話し方で俺に質問してきた。恐らく外国出身で、つい数ヶ月前に日本ゾーンに来たといった所だろう。聞き取りやすいように俺は答えた。
「居ヶ岳結です。あなたは?」
「Valnoel Tofallでございマス」
おい待て、さっき聞いた名前と全然違うぞ!すると巳和子さんが
「そやつはベガスステージから来たんじゃ。で、こちらでも過ごしやすいよう、儂が名を付けたんじゃ。本名は先程言うたが、日本ゾーンでは、東峰寺龍栄じゃ」
と説明してくれた。確かにアメリカゾーン特有の整った顔立ちで、言葉に時折英語が混ざるのもこれで納得がいく。
「分かりました。龍栄さんはルーナの部屋を教えて下さい。俺が運びますから」
しかし、龍栄さんはゆっくり首を振ると静かに答えた
「いえ、お手間はとらせまセン。ユーベル様、ルーナ様をお部屋ニ。グーテ様はこちらの結様を私と共にご案内いただけマスカ?」
気になり後ろを振り返ると、そこには白と黒の少女がいた。黒い方がユーベルなのだろう
「了解。新人が来たって言ってたけど、君の事か。俺はユーベル・シュヴァルツ=ブリュンヒルデ。長いからユーベルでいい。ルーナは俺がやるから、三人で回っておいで」
と凛々しい声のユーベルは、ルーナに向かって手をかざした。すると、ルーナは突然青いオーラを纏って浮かび上がった。浮かんだルーナはユーベルに引き寄せられると、そのまま優しくお姫様抱っこされ、ユーベルはそのまま部屋を出ていった。残ったのは白い着物を来た少女だった。きっとこの子がグーテなのだろう。だが、この子も普通ではなかった。肌が少し青い。髪も真っ白で、頬を撫でるとひんやり冷たい。グーテは突然触られたからか、少し戸惑っている。そして、彼女と目が合ったが、俺は恐怖を感じた。
目が一つしかない。大きな瞳は水色と桃色が太極図に倣って分かれている。ただ、その目は俺以上に恐怖を感じていた。少し涙ぐんでいた。唇を少し噛み、体をプルプルさせていた。俺は申し訳なくなり、頭を撫でてやった。と、後ろから巳和子さんが
「ハハハ……これこれ、怖がらせちゃいかんぞ。グーテは少し人見知りなんじゃよ。それにまだ9つじゃから、優しくしておやり」
と注意した。なるほど、と思い俺は自己紹介した。
「俺は結。君は何て名前かな?」
「ぐ、グーテ・ヴァイス=ブリュンヒルデ……」
「へぇ、グーテちゃんか。可愛い名前だね!」
「そ、そった事ねでずよ……」
俺は聞き逃さなかった。明らかに東北の訛りがある。だがユーベルには訛りが一切なかった。どういう事だろう?
「少し訛りがあるのって、どうして?」
「えっと、交流の為さ来で、多分それで……」
「現地の言葉になった、と」
「はい、したはんでオラはこった喋り方なのがなって」
オラ……東北でも使う人ほとんどいないでしょ。個性的な子だな。と、龍栄さんが少し急ぐように
「um……そろそろご案内しても宜しいでしょうカ?」
と質問してきた。そう言えばすっかり忘れていた。俺とグーテは頷くと、龍栄さんに付いていく事にした。
「そして、ここが結様のお部屋でございマス」
そう言われ中に入ると、そこには確かに俺の部屋があった。カーペットからインテリアの配置が全てあの頃のままだ。どうやって揃えたのだろう?まさか、あの大火事を見越して……?そんな想像をしていると、後ろから
「それは我が、姉さんに借りた貴殿の部屋の写真を元に生み出したのだ。我が霊魂[城塞千勝]を用いてな」
とユーベルよりも男らしい声が聞こえた。何事かと振り返ると、そこには白く、皺一つない軍服らしき服を着た女性が腕を後ろで組んで仁王立ちしていた。目付きもかなり威厳があり、かけられている襷は勲章のようなバッジで埋め尽くされていた。それにファランクスだとか言っていたが、到底理解できなかったので、俺は軍服の女性に質問を始めた。
「あの、どちら様で?」
「ああ、すまないな。我が名はソーンツェ・アペクーン。姉さんが世話になっているな、感謝するぞ」
「ああ、君はルーナの妹なのか。にしては、ルーナより身長高いような……」
「うむ。その代わり、色々と姉さんより出ていないがな……うっ、自分で言って傷付いた……」
「え、えっと……城塞千勝って?」
「あ、ああ。我が霊魂の事か。城塞千勝は元素から様々な物を生み出す力を備えている。だが生命は作れん。そんな事が出来れば、我らは奴隷を匿わずに済んだものを」
姉妹揃ってトンでもない言葉を簡単に言うんだな。奴隷を匿う?そう言えば、ここに来るまでに何人かメイドらしき人を見たが、手首に手錠が残っていたり、痣があったりと普通ではなかった。あれが奴隷なのだろうか?
「あの人達って皆奴隷?」
「ああ、現在も奴隷だ。まあ、奴隷とは名ばかりで、実際は館や我々の手伝いをしてもらう代わりに、ここに匿っているんだ。時折奴隷売買がこの近辺で行われるが、そこに我等が向かい、買うんだ。まあ、最悪商人を始末せねばならない時もあるがな」
「最近はどんな人が来たんですか?」
「かなり幼かったな。今は医者の甲天の部門にいるが、面倒は新人の医師に任せているそうだ。中々飲み込みの早い子だと言っていたな」
「そうですか。では、そろそろ……」
「ああ、何なら我も同行しよう。丁度この先の部屋にいる、閣琴に用があってな」
閣琴……その人ともいずれ会うんだろうな。多分頭はいいと思う。だが年下だとしたら年上としてのプライドが丸潰れになるような……
「あの、結さん?置いで行ぎまずよー?」
グーテに呼ばれて気が付くと、かなり遠くに行っていた。考え事をする時、どうしても止まってしまうのが癖なようだ。慌てて駆け寄り、案内される事を再開した。
「ここがエントランスデス。玄関を背中に左手が仕事場や施設がありマス。右手が居住区で、正面は中庭に続いておりマス」
こうして見ると、エントランスはかなり広い。材質は大理石辺りだろう、中心には神殿にありそうな美しい模様が刻まれている。と、上で活発な声と、翼のばたつく音がした。見上げると、人の生首と6枚も羽がある人が照明をあちこち見ながら話しているようだ。グーテ達もそれに気付いたか
「閣琴さーん、甲天さーん。何ばしちゅんですかー?」
グーテの声に気付いたか、生首が返事をした
「お、グーテはんやないの!どないしたん?」
関西弁でハキハキ話す生首は、その場に浮いている。だが、それ以上に考えられない場面をいくつも見たので、俺はあまり驚かなかった。その生首はゆっくり降りてくると、俺の方を見た。
所々ハネた茶髪で、頭頂からアホ毛が飛び出している。龍栄さんと同じで眼鏡をかけているが、彼女のフレームはスクエア型だ。龍栄さんの眼鏡は、所謂オーバル型だ。煤で少し黒い頬には絆創膏が貼られている。そんな事を考えていると、生首が話しかけてきた。
「うわぁ、めっちゃイケメンやん!なぁ、アンタ何処から来たん?名前は?年は?教えてーなー」
いきなり質問攻めか……俺はとりあえず、一つずつ答えた
「俺は居ヶ岳結。ここ出身で、年は19だよ。ところで君は?」
「ウチ?閣琴忠蕾や。年は12で、中国ゾーンから来たんや。今上で飛んどるけど、甲天吏挺はんもウチと同じトコから来たんやで」
その言葉を聞いた途端、上から緑色の何かが落ちてきた。あまりに一瞬だったので、何事かと見上げると、先程まで飛んでいた人が俺に馬乗りになっている。無表情で俺の顔に寄り、鷹のように鋭い目で見ている。髪が長く、たわわな胸があるのでどうやら女性のようだ。だが服はかなり際どかった。黒いノースリーブは鳩尾が隠れるくらいで、下もミニスカートとかなり挑戦的だった。しかし近いからか、彼女から落ち着きそうな自然の匂いがした。その匂いで落ち着いている一方で、彼女は何かを喋っているようだった。だが、声がまるで防音ガラスのように透明で、ほとんど聞こえない。すると、女性は俺の耳元で、唇を震わせた。
「吃驚 サセタカッタ。デモ 痛ソウ。大丈夫?」
微かにだが、そう聞こえた……気がする。囁き声とウィスパーボイスを足したようで、耳元でもほとんど分からない。と、女性が退いてくれたので、俺も立ち上がった。が、今度は俺に抱きついてきた。大きな胸が思いっきり当たっているが、本人はまるで気付いていない。それを閣琴達はまじまじと見ている。特に閣琴はニヤニヤと笑いながら……この状況で誰も助けてくれないのはおかしいだろ!と心の中でツッコミを入れると、女性はまた耳元で囁いた。
が、今度は
「甲天 怖クナイ。オマエ キット 優シイ」
とハッキリ聞こえた。馴れてきたのだろう。その後も
「大丈夫 甲天 オマエ 食ベナイ。ソレデモ オマエ 甲天 怖イ?」
と聞き取れた。どうやら俺が怖がっていると思っているようだ。だが、それ以前に胸がだな……そう進言する前に
「ううん、少し吃驚したけど、怖くはないよ。だから、そろそろ離れてほしいな」
と言うと、甲天はゆっくりと離れた。
や否や、閣琴が頭突いてきた。首から下は一応戻っている。カジュアルな服の上から白衣を羽織っている。しかし、体つきはやはり幼かった。表情を窺うと、どこか嫉妬しているようだった。
「全く、こんな時間に見せつけてくれるやんけお二人さん!へへ、まあええわ……龍栄はん、今日の晩って何するん?」
「ハイ。今日は、新しい方を4人もお迎えしたので、お寿司にしようと思っておりマス」
「お寿司でずか!やったあ、オラお寿司大好きでず!」
グーテがやけにはしゃいでいる。そんなに好きなんだな、日本食……と、閣琴が「こんな時間」と言っていたのを思い出し、俺はスマホの時計を見た。もう18時を回っている。まだ風呂にも入っていない!
「結様、お風呂でしたら居住区一階最奥にありマスが……マスターのご意向により、混浴となっておりマスので、予めご了承クダサイ」
心の声を汲み取ってくれたのはありがたいが……混浴?正直聞き捨てならない事を耳にした気がするが、あまり気にしない方がいいのだろう。ひとまず俺は風呂の支度をするため自室に戻り、パジャマと下着を片手に抱え、風呂に向かった
閣「さっきはお楽しみやったな」
結「何が」
閣「甲天はんと、アツゥーイ抱擁してたやん!」
結「あれは向こうがしてきたんだろ!」
グ「何の話してらんでずかね?」
ユ「知らない方がいいだろうな」
甲「次回[討論と湯論と闘魂]」
グ「君が!降参するまで!」
ユ「湯をかけるのをやめない!」