1 霊魂と神官、それから大惨事
歩禍照です。
1話から既にカオスで、まるで上達していません。前回ご教授いただいた「読みにくい」を改善すべく、一行空けたり、話題が変わった地点で改行したりと、思い付く限りをしました。それでも文章はまるで成長していませんが・・・それでも良いよー、と言う方はご覧下さい
朝起きると、よく耳にする声がある。威圧するように低く、拒絶するようにか細い女の子の声。それはまるでカウントダウンをするかの様に繰り返される。だが、今日は違った。夢で実際に声の主と出会えたのだ。だが、それは女の子と言うには程遠かった。
真っ黒な帽子に生える赤と青の羽、睨んでくる双眸はただ光を拒み、血のような紅に染まっていた。その目元はまるでもののけ姫のようではあるが、刺青などではなく、皮膚がピンポイントで剥がれているだけだ。漆黒のジャケットは全身をすっぽり覆い、赤いシミが見て取れるが、何故か衣服は切り裂かれたようにボロい。その背中にはパイプに似た何かが納められていた。そんな怪しい何者かは、目覚める直前にこう言った。
「白猫には甘えられておけ。オレはそれを頼りにテメェを殺す」
その言葉が、今正に授業中だと言うのに頭をグルグル回っているせいで、ロクに話も耳に入ってこないのである。そんなこんなで自己紹介が遅れたのでここでやっておこう。俺は居ヶ岳結、やつれた顔をしているけど元気だし、これでも大学一年だ。秀でた能力はないけど、色んな事をそつなくこなせる器用貧乏みたいな奴だ。
ただ、そんな俺にも一つ問題がある。それは単純に体質なのか、何かしらが取り憑いているのかは定かではないが、最近オレの周りには妙な力を持った奴がわらわらやってくる。
例えば……俺の隣でまったり、と言うか机に突っ伏し涎まで垂らして寝ている女の子、ルーナ・アペクーンだって能力持ちだし、というかそもそも人じゃない。
この子がやってきたのは五日ほど前の話だ。何の予告もなく転校生がやって来たんだが、担任の段取りは無視するわ、盲目とは言え何も持っていないから、あちこちをフラフラ彷徨うさまようわで、気が付けば彼女はクラスのムードメーカーとなっていた。
そして――――気が付けばもう授業は終わっていて、皆下校の用意を始めていた。こんな事なら早めに済ませておけばよかった……そしてルーナはまだ寝ているのか、この状況で。俺はとりあえず先に、彼女を軽くゆすって起こそうとした。ルーナは如何せん目を閉じているが、どうやら起きたようで
「あれぇ~?結君、おはやう~」
と相変わらず夢遊病みたいなのんびりした口調で、涎を拭おうともせず俺に挨拶をした。勿論俺は、「言ってる場合か!」とツッコミを入れて、支度をして下校時間にしっかり下校と、割といつも通り一日が終わると思っていた。何故過去形なのかは言うまでもないだろう。
ここで黒い女の子が言っていた事が一部だけ事実となるのだ。
ルーナと別れ、家路を急いでいると、子猫らしき鳴き声が聞こえた。しかし、何処を見ても段ボールやそれらしい物は見当たらない。すると、足元で柔らかく温かい感触があった。見下ろせば、子猫というよりお餅のような、丸くてふわふわした生き物が、子猫の鳴き声をあげながら、俺の脛を擦っていた。猫らしい部分は耳や髭、長い尻尾しかないが、どう見ても手足がないし、言い換えるなら[猫の形をした毛玉]だろう。しかし仮に捨てられたとしたら放ってはおけない。仕方ないから暫く家に置いてやろうと抱き抱えた瞬間、毛玉が突然光って、俺の体内に入り込んでいった。
全く訳の分からない状況に呆然としていると、どこからか消防車のサイレンが聞こえた。見回すとなるほど、黒い煙が立ち上っている。もしかしたら自分の家かも知れないと思い急いで帰ろうとしたが、俺は何故か走れなかった。煙の方向で、鈴の音がしたからだ。これもあの黒い女の子の夢の通りだ。もしかすると、この鈴の音が帰り道を示してくれているなら……最悪のシナリオが脳裏を過ったが、家に着くとそのシナリオは現実となった。
家が燃えている。紅蓮の炎が家を覆い、思い出と共に炭に変わろうとしている。黒い煙は依然として上り、戦いの狼煙を思わせるほど勢いがすごい。到底近付けなかったが、それでも家族が心配になっていた。親は大丈夫だろうか?俺の弟、星汰も無事に避難できただろうか?そんな事を思っていると、誰かが俺の肩をポンと叩いた。振り返ると、そこにはルーナが少し浮かない顔で佇んでいた。しかし、今回は違った。
いつも閉じている目が開いている。美しい真珠のような白い目をしているが、逆に言うと瞳孔の部分が見当たらない。真珠をそのまま目に入れただけのように、おぞましくも神々しい目が俺をただ見つめている。何を話そうかと言葉を探していると、ルーナは静かに
「君の家……燃えちゃったんだねぇ。わたしね、誰が嘘ついたかとか、誰が悪い人かっていうのが赤く見えるの……ねぇおじさんー……君だよねぇ、結君のお家を燃やした人。何でこんな事したのかなぁ?」
間延びしているが、行動には確かに悲しみと怒りがこもっていた。目にもどことなく怒りを感じた。違和感を感じたのも束の間、信じられないことが起きた
ルーナの両袖から突然、金色のヨーヨーらしきものが現れたや否や、片方を一人の男に巻き付け、もう片方からは三枚のブレードが飛び出し、回転しながらも首元で静かに静止した。ほんの一瞬だった。動きが全て物理を無視しているし、まるで職人のような手捌きで男を拘束したのだ。ルーナは穏やかな笑顔で、しかし懺悔させるように尋問を始めた。
「大丈夫、暴れなければ斬らないからぁ。ねぇ、どうして人のお家を燃やそうとしたのぉ?何か、恨みでもあったりぃ?」
男な泣きそうな声で喚くように言う。
「ち、違う!やったのは俺じゃない!」
「嘘を言わなくても大丈夫だよぉ?わたしはそーゆーのは全部お見通しなんだからねぇ。もう一度聞くよ?どうしてお家を燃やしたの?」
「アイツにずっと借金をしていて、もうお前には貸せないと言われて……」
「それで、帳消しにしようとしたんだねぇ?うーん、でもさぁ?私が聞いてるのはぁ、何で結君の両親を殺したかじゃないんだよぉ?」
視界が一瞬真っ暗になった気がした。
俺の両親が死んだ?到底受け入れられない言葉を受けて、俺は膝から崩れ落ちた。それでもルーナは見向きもせず、尋問を続ける。
「うんとー、君は借金をしていてぇ?それが返せないってだけで喧嘩になってぇ?あのー、ご両親殺して証拠隠滅を図ったんだねぇ……何か燃やしたり?」
「だ、だから借用書を全て燃やしたんだ!そうしたら……」
「何かに引火してこうなった……?」
「そうだよ!なあ……も、もういいだろ?警察には自首するから、もう勘弁してくれ!」
「……ヤーだねぇ。君は罪もない少年のご両親を殺した上に、その子のお家まで燃やしてしまった。しかもその子は私の後ろにいるし、私の最初のお友達なんだよぉ。ごめんだけどぉ……君には地獄に逝ってもらうよ」
次の瞬間、ルーナの背中と脇下から更に腕が二本ずつ、計四本の腕が制服を突き破って生え出てきた。六本の腕には、しっかりヨーヨーが装備されている。その全てが鞭のように動き、何枚ものブレードが男を斬り刻んだ。男は叫び声を上げて、ただ襲い来るブレードになすがままだ。だが不思議な事に、血は一滴も出ていなかった。疑問に思っていると、ふと攻撃が止まった。男は俯いていたが、直ぐ顔を上げた。
しかし、あったのは痛みに苦しむ顔ではなかった。むしろ男は清々しい顔をしている。何が起こったのかを考えていると、男は何か吹っ切れたように
「何だか気分が晴れやかになりました。君にも申し訳ない事をしたよ。刑務所で悔い改めて、真っ当に生きたいと思います」
掌を返したようにハキハキとそう言った。ルーナも嬉しそうに笑って
「うんー。じゃあ許してあげるねぇ」
と絡めていたヨーヨーをほどくと、今度は手錠のように優しく巻き付けた。少しして警察と消防車が到着すると、再びヨーヨーをほどき引き渡す。男は連行され、消防隊が消火活動を開始した。俺は勇気を出して、彼女に問いただそうと思い話しかけた。
「ルーナ……君は一体、何者なんだ?」
「見て分からないのぉ?私は神官の仏様、ルーナだよぉ。でも、いつかちゃんと言おうとは思ってたんだけどなぁ」
「何であの人は斬られても平気だったんだ?」
「私の刃は、絶対に生命を傷付けないんだよぉ。心の悪を斬っただけ。その気になれば本当に斬れるけどねぇ」
「俺はこれからどうすればいいんだろう?」
「私の住んでるお家に来る?スゴく大きいんだよぉ!この博多エリアの真ん中にあるんだけどぉ」
「じゃあ、道案内をお願いできる?」
「んぅ?それくらい自分の霊魂でなんとかしなよぉ」
予想外の返答に俺は言葉を失った。霊魂とは、かつて栄えていた三国時代の喪失遺産の一つで、数は水滸伝に倣い百八あるという。しかし、それはあくまで伝承であり、実際には存在しないと思っていた。
「ふむふむ……あーとねぇ……ねぇねぇ、長のお家はドコ?って思ってみ?」
ルーナは少し考えるような素振りを見せると、急に考えた割には簡単な事をお願いしてきた。だが、いつも通り俺は訳が分からなかったが……
「ふぇ?お、おう分かった」
とりあえず俺は長の家の場所を、目を閉じて探そうとした。
するとまた、チリンチリンと鈴の音が聞こえた。確かに地図で見れば真ん中に向かう方角で鳴っている。音のなった方角を見て
「長の家って、もしかしてあっち?」
と半信半疑で言うと、ルーナは目を爛々とさせた。
「せーかい!やっぱりわたしの思った通りだったよぉ!」
「思った通りって?この鈴の音が聞こえるのが?」
「うんー!君の能力は探し物や場所がどこにあるかを思いながら探すと、その方角で鈴の音が聞こえる能力なんだよぉ!」
「え、もしかしてそれだけなの?」
「あぁそれとぉ、その霊魂は他の胎役も惹かれるんだって。だから、これから向かうところにも……」
何となくオチが見えた。どうせ向かった長の家に住んでいる奴等は全員何かしら能力を持っているに違いない。でもだからと言って、頼れそうな場所はもうそこしかない。俺は腹を決めて鈴の鳴る方へ歩き始めた。その道中、ルーナには様々な事を聞いた。
「そもそも神官って何だ?」
「種族だよぉ?今から行くお家には、他にも色んな子がいるよぉ。例えばぁ……一つ目の子とか、宇宙人とか!」
「えぇ……それで、君も何か能力はあるのか?」
「うんー、あるよぉ。わたしはねぇ、様々な時代を行ったり来たり出来るんだよぉ!そして、私の形質はね、気配や足音とかいうのを、全部消せるんだぁ」
「まるで暗殺者だな……」
「うんー、わたし暗殺者だよぉ?」
絶句した。そんな簡単に名乗っていい職ではないはずなのに、どうしてサラッと暗殺者と名乗れるのだろう?ルーナは心配そうに首を傾げてこちらを向いている。それに考えても答えが浮かばなかったので、俺はそれを考えるのをやめ、質問を続ける。
「……腕が六本あるのも、その神官の特徴なの?」
「わたし限定だよ。そもそも神官って、わたしみたいな仏タイプが産まれる事自体が稀なんだよねぇ。大体は太陽神とかぁ、十二星座の子達とかだねぇ」
「あ、そう言えば種族で思い出したけど、もう新旧大戦が終わって三年が経つね」
「君ってば唐突だねぇ!うーん、でもまだあちこちでは紛争が続いてるみたいだよ?君みたいな優しい新人類なんてそんないないもの」
「そっちにも、俺みたいな新人類はいるの?」
「いるよ、とびきり元気な子が……着いたよぉ!ここが長のお家、「泰叶郭]だよぉ」
そう言われたはいいが、それらしいものはなく、ただ巨大な門しかない。ルーナはまるで自分の家のように門を開けると「おいでー」と手招きした。俺は多少疑いながらも恐る恐る門をくぐる。おそらく中庭か何かなのだろう。大きな噴水や咲き乱れる花達、通路までしっかり手が行き届いている。まさか、長とはご令嬢なのだろうか?出会った途端「誰なのだ、その貧乏人は!」とか言われるのだろうか?心配になってきたところで、ようやく屋敷が見えた。材質の殆どは木材や漆喰なのだろうが、所々造りが洋風と似ている。そしてルーナの言った通りだ、規模はかなり大きい。後で聞いた話だと、ここはド真ん中に鎮座しており、その範囲は博多エリアの二割を占めているそうだ。そして、聞けばどうやら新旧大戦を終結させた張本人が長をしているそうだ。どんな人なのだろうか、物腰は柔らかいだろうかなどと考えていると、ルーナがふと立ち止まった。いつの間にか長の部屋の前まで来てしまっていた。心臓が高鳴る、しかしルーナはお構いなしに扉を開けた。
「おばあちゃーん、言ってた子を連れてきたよぉー」
少し暗くてよく分からないが、そこに長がいるのだろう。だが、声は二つ存在した。
「戸を叩いてから入っておいでと言うたじゃろう?して、その者がそうか……うむ、ご苦労であった。ルーナ、電気を付けておくれ、龍栄や、儂の着替えは布団に置いておいておくれ」
「畏まりましタ、マスター」 「はーい」
まさかの寝起きなのか……しっかりしてくれよ。しかし、やはり声は二つ響いていた。つまり、そこには人が二人いる。
若いが、少し外国人の訛りがある声と、年老いてはいるが、貫禄のある声が暗闇から聞こえている。続けて返事をしたルーナは、俺の後ろにあったスイッチを押した。電気が付き、暫くして眩しさに慣れ適用されない来た。その目線の先には、殿っぽい寝間着を着た金髪の女性と、スーツだかメイド服だか分からない服の、緑髪のメイドらしき女性が立っていた。金髪の女性は目の前の座布団を差して、「よく来たのぅ。大変じゃったろう?まあ座れ」と促した。俺は座布団に座ると、続いて金髪の女性とルーナも座布団に座った。そして金髪の女性は一呼吸おいて、厳かに言う。
「寝間着のままですまんのぅ、お若いの。儂がこの博多エリアの長、北岡巳和子じゃ」
結「何で開始早々俺の家が燃えるんだよ!」
ル「まあまあ、そーゆーのは歩禍君が決めるんだから、仕方ないよぉ」
北「左様。まあそうでもせんと、話が始まらんのじゃろう」
歩「その通り。別にドゥンドゥン派手にやりたい訳ではないです」
ル「さぁ、来週のサザ○さんは?」
結「怒られるからやめろぉ!」
北「違うぞ、ルーナや。こういうときはな・・・オッス!オラ巳y」
結「やめろってだから!」
ル「次回[白黒であべこべ?]」
北「サービスサービス!」
結「もうヤダこの神様達・・・」